まろうど来る
「暑……」
ベッドで目が覚めると、胸の上に重みを感じた。
あと、湿り気。
これ、汗じゃないな……。
「今日はアリサですか……」
重みを感じた方を見ると、アリサが俺の胸に顔を埋め、口からよだれを垂らしながら眠っていた。
最近は誰かしらが、俺のベッドに潜り込んでくる。
いや、元々アンシーと毎日一緒に寝ているんだけど、彼女はメイドの仕事で早起きだから、彼女がいなくなった隙に潜り込んでくるのだ。
「う~ん、フカフカだよぉ」
「寝ぼけながら、胸を揉まないでくださいよ……」
まあ、一応アリサも嫁だから問題は無いし、正妻ポジションのアンシーも、書類上は結婚していないので、それを気にしてなのかあまり煩く言わないんだよな……。
というか、俺を独占するのではなく、素晴らしいものはみんなで共有しよう……という、歪とも言える博愛精神を発揮しているように思う。
アンシーは優しいなぁ(乾いた笑い)。
ともかく近頃は、アリサやセリエルが夜這いじみたことをしてくる。
静代さんはそれ以前から気まぐれにやってくるが、港で魚をもらって食べたりお昼寝したりとか、自由気ままに猫のような生活をしていることの方が多いな。
いや、そもそも猫だったわ。
そして妹のクレアはさすがに自重しているけど、スキンシップはめっちゃ増えたね。
彼女は俺の副官みたいな仕事をしているけど、ことあるごとに抱きついてくるし、一緒に入浴した際は、俺の身体をジッと見つめてくることもある。
彼女らも思春期に入ったからなぁ……。
そう、俺が海辺の町の領主になってから、既に4年が経過している。
俺も17歳になり、美少女というよりも美女に近い容姿になってきた。
思春期真っ盛りの肉体年齢だから、女の子達との触れ合いは正直嬉しくもあるんだが、やっぱり複数人を相手に構うとなると大変なんや……。
「あ……エル。
おはよ~」
お、アリサが目を覚ました。
「ん~」
そして唇を突き出してくる。
普段は無邪気な印象の娘だが、いっちょ前に色気づいてやがる……。
俺はアリサの求めに応えて、軽くキスをした。
でも、これ以上のことはしない。
まだまだ子供と言える年齢だからね。
……はい、子供ではないミーティアとは一線を越えました。
最初は形だけの結婚だったはずなのに、俺とアンシーのイチャイチャにあてられて、だんだん本気になってきたそうで……。
しかもたまに、アンシーと2人がかりで俺を責め立てる。
やめてください、死んでしまいます。
サイボーグが故に無尽蔵の体力を持つアンシーだけでも、性的オーバーキルなんだよぉ!
そんな感じで、嫁達との生活は充実しているが、領地運営も順調だ。
港湾を整備し、貿易にも力を入れている。
元教国民が入植した開拓地も、農地がかなり大きくなった。
俺が作った重機などを活用しているから、港や農地を作ることは割と短時間で済んだ。
魔法を併用すると、効率が物凄く良くなるのだ。
勿論、前世の知識も、結構役に立っている。
まあ、俺が将来いなくなった後は、それらの道具を使うことはできなくなるので、呼び寄せたドンガトさん達でも作れるような物の開発も進めているし、知識の共有も進めてはいるけどね。
そしてそこから生まれた技術が、また新商品などの形で商売となる。
今まさに、この領地の経済は上り調子だ。
「お嬢様、そろそろ予定の時間になります」
その時、アンシーが俺を起こしに来た。
「ええ、アンシー。
着替えを手伝ってください。
さあ、アリサも」
「うん、エル!」
自分で着替えることはできるが、アンシーは俺の世話焼きを至上の喜びとしているので、彼女に任せるよ……。
そんな感じで、今日もいつもの日常が始まる。
……はずだったのだがなぁ……。
で、今日は久しぶりに会う客人がいる。
俺が迎賓館の応接室へ向かうと──、
「姉さま~!」
と、小さな男の子が駆け寄ってくる。
「こら、まずは挨拶よ」
「あ、お久しぶりです。
エルネスタ姉さま、クレア姉さま!」
クレアに窘められて、男の子は姿勢を正して挨拶をした。
俺はその子の頭を撫でてやる。
「いい子ですね、エクレオ」
「くすぐったいです」
と言いつつも、嬉しそうに笑みを浮かべるエクレオ。
そう、この子は弟のエクレオで、そろそろ小学生にもなろうかという年齢になる。
……この世界に小学校は無いが。
だから教育はある程度の年齢までは、各家庭で……ということになる。
むしろ学校に通えるのは貴族の子供くらいで、平民の子はまともに教育を受けていない場合が多い。
そしてエクレオの教育についてだが、さすがにあの両親に任せるのは不安だったので、家庭教師を送り込んで、真っ当な躾と教育を受けさせた。
おかげで性格の良い、可愛い子に育ったよ。
なので私とクレアの姉妹は、この弟を可愛がっている。
もうマジで、着せ替え人形にして遊びたいほど可愛いよ。
ああ……アンシーが俺に可愛い服を着せたがるのは、こういう気持ちから来る行動なのか。
それとアンシーと言えば、エクレオに昔の俺の面影を感じるらしく、俺達姉妹以上に可愛がっているが、彼女の本性を知った今となっては、エクレオに近づけていいものなのかちょっと悩む。
俺がショタだったころから、俺のことを狙っていたらしいし……。
ともかく今日は、遠い故郷のリンジャー男爵領地から弟のエクレオが遊びに来たのだ。
なお、親は街には来てはいるが、この迎賓館には呼んでない。
あいつらは多少反省したようだが、相変わらずのようだからね。
で、この弟を護衛して、ここまで連れてきたのが──、
「お久しぶりです、アルクさん、リーリアさん、トースさん」
かつてロゼーカンナ市への道中で出会い、その後雇うことになった冒険者達だ。
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