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拉 致

 俺は翌日からも、露天商を続けた。

 ルエザリクへ商品を納品する日までは、まだ10日ほどあるので、その間は暇だからな。

 3~4日もあれば、納品する分の数量は用意できる。

 

 そして暇を見つけて、数日に1度くらいは、狩りをする為に森へと出掛けた。

 そこでは装備品の性能を試したり、素材を集めたり……。

 もっと能力を使いこなせるようにならないと、商売の規模も拡大できないし、それでは生活に困るから、遊んでいる訳にはいかない。


 その日も俺は、露天商での活動を順調に終えて、家路へとついた。

 だけどその家路は、順調なものとはならなかった。


 周囲に民家が少なくなった頃、前から人が歩いてくる。

 3人組の男だ。


 俺の家は町外れにあるけど、それだけに周囲には民家が少ない。

 いや、見晴らしが良くなって侵入者に気付きやすいという防犯上の理由もあって、親が家の建築を制限しているというのもあるらしいが……。


 最低ランクの男爵でも、貴族は貴族。

 触らぬ神に祟りなし……と、あえてご近所付き合いをしたがる平民も少ないだろう。

 そんな理由もあって民家が少ない地域の方から人が来る──しかも人通りが少なくなる夕暮れに。

 そんなことって、早々あるか?


 勿論、民家が皆無という訳では無いので、そこの住人かもしれない。

 俺みたいに、男爵家の関係者だということもあるだろう。

 だが、男達の格好は、そんな風には見えなかった。

 小汚くて、仕事に使う道具の代わりに短剣などを持ち、顔にはにやけた笑み……。


 あ~……因縁をつけてくる時の、ヤンキーに雰囲気が似ている。

 この世界で言えば、野盗の(たぐ)いだ。

 強盗目的か?

 しかし俺の外見はまだまだ子供だから、普通は金目の物を持っているとは思われないはずだ。


 だとすると俺の存在そのものに、価値があると思われているのか?

 今の俺、美少女だもんなぁ……。

 いや、今は男装しているけど、隠しきれない美貌が滲み出ちゃっている……とか?

 まあ、人身売買組織にとっては、子供というだけでも需要はかあるのかもしれないけど。


 ……うん、変態のおっさんに買われて、陵辱されるとか冗談じゃない。

 ただ、逃げようとしてもなぁ……。

 俺の身体能力じゃ、絶対に逃げ切れないだろう。

 足、めっちゃ遅いし、持久力だって無いもん……。


 となると、戦うしか無いのか……?

 しかし相手を生かして無力化できるような、都合の良い装備なんて無いぞ?

 剣術とかの技術があれば話は別だけど、今の俺には戦う力すら乏しい。

 敵の生死なんか気にしている余裕は無いし、使える手段は全部使わなければ逃げ切れないだろう。


 それはつまり、殺し合いをするということだ。

 その決断に手間取っている内に、男達が近づいてくる。

 くっ……一時しのぎだけど、ここは癇癪玉で威嚇してみるか。


 パンという破裂音を聞いて、男達は立ち止まった。

 何が起こったのか、分からない……という顔をしている。


「それ以上近づくと、俺の魔法(・・)が火を噴くぞ!」


 勿論魔法なんて使えないけど、相手が使えると勘違いして、攫うには割に合わないリスクだ……と、認識してくれれば儲けものだ。

 だけど男達は、戸惑ってこそいるが、諦める様子は無い。

 実際に痛い目に遭わないと、分からないタイプか。


 まあ、魔法の恐ろしさなんて、俺だって知らないしな……。

 この世界には実在するらしいけど、使い手は少ないらしい。


「おい、坊主。

 くだらない手品はやめて、大人しく俺達と一緒に来てもらおうか?」


 はい、誘拐犯で確定。

 ……駄目だ。

 あいつらは本気で俺が魔法を使えるとは、思っていないようだ。

 少なくとも、自分達の命を奪うほどの脅威だとは、思っていない。


 そりゃ、そうだよなぁ……。

 俺だって客観的に見れば、こんな見た目だけは小さな子供が、魔法の使い手だなんて思えないだろう。

 癇癪玉の音だって、なんらかのトリックだと考えるかもしれない。


 こうなったら……。 


「家の者からは、知らない人についていくなと言われている。

 許可をとってからにしてくれないか?

 ちなみに男爵家だが?」


「ぬ……」


 男爵家と聞いて、男達は少し尻込みをした様子だった。

 まあ、権力に逆らったら、最悪死罪だしな。

 いや、貴族に関係無く、誘拐犯には死罪の可能性があると思うけど、貴族を敵に回した時の捜査の苛烈さは、桁が違うのだろう。


 ただ、俺の両親が俺の為にそこまでするのかというと、それは別の話だが……。

 むしろ攫われたら喜ぶかもしれない。

 悲しいね……。


 ともかく俺の言葉を受けて、男達が何事かを話し合っている。

 そして──、


「身の代金……」


 あ、聞こえちゃいけない単語が聞こえてきた。

 男爵家だから、金を持っていると思われた!?

 犯罪者相手には、逆効果だったか……。


 ……仕方がない。

 もう戦うしかないな。

 最悪、相手の命を奪うことになるかもしれないが、ここで覚悟を決めないと、俺自身が何をされるか分からない。


 殺されるだけならまだいいけど、性的なことだけはガチで勘弁して欲しい。

 元男としては、断固として!


「警告はしたからな!!」

 

 俺は「空間収納」から(あらかじ)め作っておいたクロスボウを、取り出そうとした。

 だが、その時──、


「!?」


 突然、視界が真っ暗になる。

 なんだ!?

 背後から何かを、袋とかを頭から被せられた!?


 まさかもう一人いたのか!?

 奴等の余裕の態度は、これの所為だったのか!?


 くそっ!!

 戦闘の素人の俺じゃあ、気配とか分からなかった。

 くそっ!! !くそっ!!

 

 俺は為す(すべ)なく誰かに抱え上げられて、そのまま何処かへと連れさられることとなってしまった。

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― 新着の感想 ―
子供が結構稼いでいたら、当然チンピラみたいなのがショバ代払えと言ってくると予想できたと思う、全く予想していなかったとしたら愚かすぎると思う。
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