海魔との戦い
魔物に対して、ヤマトの主砲での攻撃が続く。
轟音と激しい衝撃で、ミーティアや漁師達は掌で耳を塞ぐのに精いっぱいとなり、身動きすることも難しい状態になっている。
それぐらい激しい攻撃だった。
しかし──、
「なんという生命力……!!」
ヤマトの主砲の直撃を何発も食らってなお、魔物は動いている。
まだ倒せないのかよ……。
それどころか──、
「こちらに向かって動き出した!?」
今まではその場から動くことは無かったのに、魔物は急に移動を始めた。
しかも結構なスピードだ。
反撃しようとしている訳か……!!
「アンシー、足止めの為に水中からも攻撃する!
艦首魚雷発射!!」
「かしこまりました」
これは本来のヤマトには無い装備だが、それだけに追尾機能付きにしてある。
これで水中での魔物の動きを抑制して、時間を稼ぐ。
そしてこのまま主砲での攻撃に効果が薄いようなら、別の兵器を用意しなければならない。
「魚雷が標的に着弾するまで3……2……1──外れました!」
「何っ!?
って、ええぇぇぇぇーっ!?」
魔物の巨体が、空中へと跳ね上がった。
それがこっちに向かって飛んでくる。
ここで初めて、その全貌が見えてきた。
あっ、こいつ巨大なエイだ!?
あの触手に見えたのは尻尾か!!
そういえば日本の妖怪に「赤えい」という、10kmはあるという巨大エイの化け物がいたっけ。
こいつは、それと同類か?
そしてその赤えいは、空中を泳ぐように飛んでくる。
……そうだよな、イトマキエイとか水面をジャンプするもんな……って、そんな場合ではない。
「アンシー!!
回避しつつ撃墜しろっっ!!」
「はいっ!!
皆さん、何かに掴まっていてください!!」
船体が激しく揺れる。
ただでさえ艦砲射撃の衝撃があるのに、急激な回避運動をしようとしているからだ。
一方の赤えいは、主砲の直撃を受けてはいるが、あの巨体が浮くくらいの勢いで跳ねているので、簡単には撃ち落とせない。
だが、着弾の衝撃で多少は勢いを殺され、軌道を変えている。
だからこのヤマトへ、赤えいの巨体が直撃することは無い。
だが、あんな巨大な物が海面に落ちれば、津波のような高波が生じるだろう。
それをまともに受けたら、ヤマトが転覆するぞ!!
事実、赤えいが海面に落ちた直後、巨大な水柱が生じた。
この凄まじい衝撃は、機雷も誘爆している──!?
そして生じた高波が、こちらへと押し寄せてくる。
マズイ、マズイ、マズイっっ!!
高波を受けて、船体が傾き始めた。
このままでは沈没する!!
「アンシー、主砲の制御はこちらでやるっ!!」
「はいっ!!」
俺は慌ててヤマトへと義手を接続し、主砲の全てを船体が倒れつつある方の海面へと向けて、一斉に撃ち出した。
その反動と、着弾によって発生した水柱に押されて、船体が立ち直る。
成功するという確証は無かったし、下手をしたら水柱で船体が折れていたかもしれない。
それでも偶然かもしれないが、なんとか上手くいった……!
だけどまだ終わりではない。
「ちょっ、きゃあぁぁぁぁーっ!?」
ミーティアがらしくない悲鳴を上げている。
意外と可愛い……じゃなくて!
艦首の方に赤えいが乗り上げてきた。
そんな巨体に乗られたら、沈むわ、ボケぇぇぇっ!!
あかん、もうヤマトでは対応できん!!
「私が直接出ます!!」
「お気をつけて!!」
俺は義手を変形させた鎧を纏い、外へと出た。
取りあえず赤えいを、船体から引きはがす!!
まずは「変換」で炎を発生させて、赤えいを炙る。
生物なら、火は嫌がるだろう。
ましてや海の生き物だからな。
よし、赤えいが身を翻した。
って、うおっ!?
尻尾を振り回すな──って、うおぉぉぉぉぉいっ!?
艦橋の下の方に直撃したぞっ!?
達磨落としのようにもぎ取られはしなかったが、一部がひしゃげて上部が傾いている。
「アンシー、大丈夫かっ!?」
『私は……!
しかし王女様達が、衝撃で転倒しました……!!』
ふぅ……無事ではないが、最悪の状態でもないか……。
だが、あの破損具合では、もうヤマトはまともに動かないだろうな……。
やはり俺が赤えいを倒すしかない……っ!!
「これで、どうだっ!!」
俺は「変換」で電流を生み出し、赤えいへと落とす。
落雷と同じくらいの威力だし、ヤマトの主砲に耐えるような強度の表皮でも電流は内部まで通るやろ。
仮に表皮の上を電流が滑っても、口やエラから流れ込むはず。
……よし、動きが止まった!
今の内に、エネルギー充填!
右腕に装備した荷電粒子砲、発射用意──っ!!
「沈めっ!!」
撃ち出された荷電粒子砲の光は、赤えいの巨体を貫いた。
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