親子の縁
パーティーに俺の両親が紛れ込んでいた。
いや、身分さえ確かなら、出入りは自由だ。
おそらく新公爵とのコネを作りたくて、俺のことをよく知らずに来たのだろう。
社交界とはそのようなものだから、理由も無く止められないし、俺も両親の存在は失念していたなぁ……。
しかし今の俺の姿を見て、元息子だと気づくとは、なんだかんだで親なのか。
いや、アンシーと妹のクレアが近くにいたから、それで結び付けたのかもしれないが、いずれにしても「気づいてもらえた」という感慨は特に無い。
うん、俺はまだ両親を許していないな。
ただ、彼らのことを考えると嫌な気分になるから、忘れていただけだ。
でも、無下に扱っても面倒臭い反応になりそうだから、取りあえず普通に対応して様子見だ。
「……お久しぶりです」
「おお、元気そうでなによりだ。
しかしまさか公爵になるとは……」
「さすが私達の子ね……」
と、なにやら感激している様子の両親。
おいおい、どんだけ分厚い面の皮だよ?
お前ら俺を捨てたよね!?
だからその時点で、俺の両親は前世の2人だけになっていたよ!
……って、俺よりもアンシーが、殺気のこもった視線を両親に送っている。
彼女がブチ切れる前に、対処した方が良さそうだな……。
さすがに親の死を願うほど、俺も鬼ではない。
ただ、縁は切りたい。
……切られたはずなんだがなぁ?
「今更なんですか?
あなた達とはもう、家族でもなんでもないはずですが……」
「そんな、アーネスト!」
本名はやめぃ!
もう今の姿には似合わないんだよっ!!
「今の私はエルネスタです。
おかしな噂を流布するようなら、男爵家を取り潰しますよ?」
それができる権力が、今の俺にはある。
「なっ!?」
「なんて、酷いっ!!」
酷いのはお前らだ。
俺どころかクレアのことも、放置したクセに。
クレアも「何言ってるんだこいつら!?」って顔をしているが、気が弱いから何も言えないようだ。
……?
そういえば、クレアが跡取り候補から外された理由は、弟が生まれたからじゃなかったっけ?
う~ん、さすがにパーティー会場には連れてきてはいないようだが、弟の顔はちょっと見たい。
その辺も加味して対応を考えようか。
「そもそも私にはザントーリ公爵家派閥など、対立勢力も多いので、私との関係を知られたら、あなた達は命を狙われるかもしれないのですよ。
あなた達、上位貴族を相手に、上手く立ち回る自信があるのですか?
ちなみにあなた達が人質にされても、私は見捨てます。
だから他人のフリをすることを、お薦めしますよ」
「な……っ!?」
実際、俺は友好的な付き合いをしていない相手まで守るつもりは無いから、俺と仲が悪いままの両親ではでは、俺と付き合うメリットは皆無だ。
むしろ自身の身に危険が及ぶとなると、両親もさすがに大人しくなるだろう。
「それとクレアは、私の側近として育てますので」
「何!?」
「公に親子であるあなた達とクレアは、最低限の接触は可能となるでしょうが、この子が嫌と言えば、私の方に話を繋ぐことはできませんよ?」
「姉様……!」
要するに、クレアの扱いを良くしないと、俺は一切話を聞かないということだ。
それは公爵として、なんの配慮も両親にはしないということを意味している。
そして両親に何かあったとしても、クレアの両親に対する印象がよくなっていれば、彼女に乞われて俺が助け舟を出すこともあるかもしれない。
「それと私に対する面会について、弟だけは許可しましょう。
気が向いたら、付き添いの者と会話することもあるかもしれませんね。
その為にも弟には、常識的で礼儀正しく、他者から好かれるような人徳のある子になるよう、正しく教育してください。
私が嫌うような人間性に育った場合は、面会は打ち切りますよ」
「それは……!」
まだ小さい弟が、一人で俺と面会することは難しいから、当然両親がついてくるだろう。
それくらいなら、許してやってもいい。
「ただし、それもすべてはあなた達の態度次第です。
そのことをよく心に刻みなさい」
そう言い残して、俺は両親に背を向けて歩き出す。
あの両親の性格を考えると、今すぐ態度を変えて謝るとも思えないが、万が一謝られても反応に困るからな。
それでも、この両親がまともになってくれるのなら、付き合い方も考える──。
これが最大限の譲歩だ。
たぶん俺は、両親に対してまだほんの少しだけ、期待しているのだろうな……。
その後、両親はというと、その性根が簡単に変わるはずもなく、やはり付き合いたくない相手のままだった。
それでも多少マシになったので、遠い親戚程度の付き合いはすることになった。
どちらかというと、小さな弟のあまりの可愛さに、俺の方が態度を軟化させたような形だ。
可愛い弟の為なら、付随する不快な両親のことには目をつぶろう……という。
……いや、ショタコンじゃないよ?
母性でもないはずだ。
……そうじゃないはずなのだが、長いこと女をやっていると、ちょっと自信が無くなってくる……。
やっぱり身体が精神に与える影響は、馬鹿にならないしな……。
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