婚姻が決まりました
「と、いう訳で、私とそちの婚姻が決まったぞ!」
「……私は承諾した覚えはありませんが?」
王城へ呼び出された途端、なにやらミーティア王女がとんでもないことを言い出した。
なに、ナチュラルに同性婚を提案しているんだ!?
ただ王女は見た目こそ美少女だが、言動が男っぽいので、ちょっと納得感もある。
「はっはっは、あくまで公爵になる為に形だけだよ。
だから拳を構えるのはやめようか、メイドさん?」
まあ、俺の嫁はアンシーだからな。
むしろ俺がアンシーの嫁なのか。
そんな彼女を差し置いて結婚とか、そりゃアンシーも怒るよ。
「君達は、関係を隠そうとしないんだな」
「あえて言いふらす趣味もありませんがね。
しかしこれで虫除けになるのなら、それも良いかと」
俺の心はアンシーのものなのだから、俺と彼女の関係を察して、無駄なちょっかいを出してくる者が減るのなら、その方が良い。
まあ、ミーティアとの婚姻が成立すれば、そちらの方が強い抑止力になるだろうが。
王族の配偶者に手を出すとか、ある意味命を捨てるようなものだからな。
その辺は少し魅力ではある。
「ともかく形だけだから結婚式とか必要無いし、書類の手続きだけで終わる。
それでこの王女である私の配偶者となれば、誰もそちが公爵になることに異議を唱えられなくなるだろう」
う~ん、拒否して陞爵できないと、ザントーリ公爵家に逆らったことへの制裁を受けることになるし、他の貴族達も敵に回すことになりかねないから、他に方法が無いのなら仕方がないのかもしれないけど……。
「そういうことなら、受け入れるしかないのでしょうかね……。
アンシー、ごめんなさいね?」
「仕方がありませんね。
ただし、私が1番……正妻です。
王女殿下も、対外的にはともかく、この事実は動きませんよ?」
「はいはい、分かっているよ」
なんだかアンシーが、王女に対して凄い態度を取っている。
普通、一介のメイドが王族に対してこんな態度を取ったら、不敬罪で処罰されかねない。
……まあ、今のアンシーをどうにかできる者なんて、いないと思うが。
俺でも無理。
「となると、親族になる私は、国王陛下や他の王族達へ、ご挨拶に伺った方が良いのでしょうか?」
本当は嫌だけどな。
王様となんか会いたくないわ。
下手に機嫌を損ねたら、面倒なことになりかねないし。
「……父上は、そちのことを怖がっていたから、無理に会わなくてもいいんじゃないかな」
「何故に!?」
「そちがその気なら、暗殺も余裕だということを自覚した方がいいぞ?」
ああ……そういう……。
「どのみち陞爵の儀式では、嫌でも会うことになる。
おそらく母上もその場にいるだろうから、軽く挨拶すればいい。
他の王族は追々……だな。
そちとは会わせないで済むなら、その方が安心だ」
なにその、俺がトラブルメーカーみたいな……。
いや、事実かもしれんけど。
大きすぎる力は、色々と良くない者も引き寄せる。
「それと領地の候補だが、西のノーラン地方が挙がっている。
小さな村が点在する程度の、代官がいるだけで領主もいない僻地だ。
だが、そちの希望通り海はあるぞ」
「そうですか」
僻地なのはいい。
重要なのは海だ。
将来的に貿易をするのならば、港は必要だからな。
自領を発展させる為にも、海は是非とも欲しい。
まあ、俺の能力を防衛に活用するだけなら湖でもいいのだが、やっぱり海だな。
それにこの大陸で地震はほぼ起こらないらしいので、津波を心配する必要も無いようだし、長期的な発展も視野に入れた都市計画ができる。
「それでは、領地の下見は後日にするとして、まずは陞爵の儀式の準備だな」
「えー……」
やっぱり儀式用のドレスとか、作法の練習とか、色々と必要らしい。
面倒くさいなぁ……。
そして寮に帰って、3人娘にこのことを話したら、めっちゃ反対された。
公爵になる為の形だけだから──と、説得するのに、苦労したわ。
実際、彼女達は、
「形だけでいいなら、私もエルと結婚するよ!」
「そ、そうですわ!!」
「わ、私も……!!」
「クレアは公爵の妹ってことだけで、我慢しましょうか?」
実妹はさすがに駄目だろ、実妹は……。
他の2人も、何故に女同士で結婚しようとしているのよ?
まあ、それで納得するならそれでもいいけど、親の許可を貰ってこい。
そう言ったら、後日普通に許可を貰ってきて驚いた。
公爵家との繋がりは、旨味が大きいからかな。
「その点、私は王女殿下公認の正妻……。
形だけではありません。
そのことを皆さん留意するように」
「め、メイドなのに……っ!!」
「ずるい……っ!!」
こらこら、子供を煽るなよアンシー……。
いや、彼女にも譲れない部分だから、主張するんだろうけど。
あと、ミミが輪には入れなくてちょっと寂しそうだったが、君はそのまま常識人枠を維持してくれ。
そんな訳で、俺が公爵に陞爵するまでの慌ただしい日々が始まった訳だが、密かに看過できない動きをしている連中もいて、ちょっと厄介なことになりそうだなぁ……。
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ところでコロナにかかったっぽくて(喉と舌がちょっと痛くなった以外は無症状)、現在その後遺症なのか、記憶力が低下しております……。前日に読んだ本が何だったのか、思い出せないとか……。