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陛下とご相談

 私はミーティア。

 ダーラグ王国の第5王女だ。


 マルドー辺境伯領から帰還したばかりだが、たった数時間の旅なので疲労感は無い。

 いや、常識を(くつがえ)されるようなことばかりを()の当たりにした所為で、精神的には疲れたがな。

 往復で運ばれていてなんだが、なんであんなに巨大な物体が空を飛ぶのか、(いま)だに理解できない。


 ともかく私は、すぐに国王陛下──父上との面会を、国王の予定にねじ込んだ。

 たとえ親子でも、国王とはすぐに会えないものなのだが、そうも言ってられないので、使えるコネは全部使って実現したぞ。


 私は面会室で、父上を待つ。

 少し()れてきた頃に、扉が開いた。

 入ってきたのは、まだ50歳手前だが、豊かな髭をたくわえている所為で、少し年老いているようにも見える男──父上だ。

 まあ、その実年齢以上の見た目が、風格に繋がってもいるが。


「急ぎの用とはなんだ、ミーティアよ。

 余も暇ではないのだが……」


 父上は部屋に入ってくるなり、挨拶も無く本題を(うなが)す。


「要件は、タカミ子爵の件についてです」


「タカミ……ザントーリ公爵家と、一悶着あった者か。

 そちが対応したいと申したから任せたが、どうなったのだ?」


「はい、結論から申しますと、タカミ子爵を一刻も早く公爵にでもすべきです」


「は?

 どうしてそうなる。

 理由も無くそんなことはできぬぞ?」


 父上は(いぶか)しげな反応をするが、現状を把握できていないからこそだろう。


「理由ならなります。

 子爵が公爵に逆らうなんてことは、あってはならないことですが、同格になってしまえば処罰する必要は無くなります」


「……なんだその強引な理屈は……」


「強引でも、その方が国にとって利益があるのです。

 だからタカミ子爵には、戦功を挙げさせ、陞爵できる下地を作らせることにしました。

 彼女に辺境伯領へ攻め込んでいたカトリ教国軍の対応を任せたところ、実質的に従者と2人だけで、教国の軍勢およそ3万を追い返し、更に教国に組したランバート伯爵軍を鎮圧しました。

 陞爵(しょうしゃく)するには、充分な戦功です」


「なんと!?

 ………………いや、冗談か?」


「事実です」


「現実に有り得るのか!?」


 父上が驚愕するが、私だってこの目で見たのに信じられない思いだ。


「可能などころか、彼女はまた本気を出していないように見えました。

 敵を極力殺さないようにしていましたから……」


 彼女が起こしたあの巨大な爆発……。

 あれを敵軍に使っていれば、全滅させることも可能だっただろう。


 「おそらく彼女は、単独で国を滅ぼすことが可能な存在です。

 敵対することは論外……。

 ならば地位を与えて、我が国に取り込むべきです」


「しかしそれでは、王家の権威が揺らぐのではないか?

 それほどの存在が、いつまでも王家の下についているとは思えぬが……」


 そんな父上の危惧は分かるが、あの者はどちらかというと人が良すぎるように思う。

 むしろ王家で守ってやった方がいいくらいの、お人好しだ。


「彼女は野心を持たないタイプなので、こちらがその力を利用しようとしなければ大丈夫かと……。

 そうでない場合でも、いっそ彼女を王にした方が、平和な国になるような気がしますがね」


「馬鹿なことを言うなっ!!」


 父上は怒鳴る。

 今の私の発言は、反逆罪に問われかねないからな。

 だが、動じることなく真っ直ぐに視線を返す私を見て、その本気度を悟った父上は怒りを収めた。


「それほどのものなのか……?」


「彼女が本気なら、この王都を消滅させることも可能でしょう。

 しかしこの王都には、彼女の商会があり、友人知人がいるので、それらが健在な内は、巻き込んでまでして王都を攻撃する理由がありません。

 逆に彼女に関わりがあるものに手を出した結果が、ザントーリ公爵家です」


「…………!」


 それから(しば)し、沈黙が続いた。

 そして父上は重い調子で、口を開く。


「しかし公爵か……。

 本来は王家の傍流(ぼうりゅう)たる血筋がなるものだぞ。

 王子の誰かと、婚姻を結ばせるつもりか?」


「いや、本人は嫌がるでしょうね」


「そういえば少女であったか。

 まだ色恋ごとには興味は無い……。

 ましてや婚姻など考えられないと言うことか?」


 そういう面もあるかもしれないが……。

 生まれついての貴族家の娘ならば、政略結婚に対する覚悟も教え込まれているだろうけど、彼女はここ数年で爵位を得たばかりだというし……。

 そもそも──、


「どうやら彼女は仕えているメイドと、ただならぬ関係である様子。

 おそらく男には、興味がないのかもしれません」


 何度か2人が、仲睦(なかむつ)まじく抱き合っているところを見かけたしなぁ……。

 仲の良い母娘や姉妹のようにも見えるが、そもそも人前でメイドが貴族の主人に抱きつくことは、身分的にもありえない。

 それだけ特別な関係だということだろう。


「ならば私と形だけの婚姻……という形にすれば、彼女も許容しやすいのではないかと。

 丁度、婚約者のラーガン兄様もいなくなりましたし」


 そんな私の言葉に、父上は面白くなさそうに口元を歪める。


「そちも婚姻には、積極的な方ではなかったな……」


 王族として政略結婚の覚悟もしてはいたが、やはり相手は選びたいというのが本音だ。

 婚姻を結べば、跡継ぎを作る為の行為は必要だからな。

 しかし正直言うと私は、好みでもない相手との行為を考えたくもなかった。


 その点、同性婚は過去にも例はあるが、それは家同士の結び付きを強める為の形だけのものだった。

 だから必ずしも、子作りは必要ではない。

 あくまで内外に、家同士の強い繋がりを示すことが目的なのだ。

 むしろ通常と違う形を取るのだから、その目的を強く印象付けることができる。

 跡継ぎは親戚筋から、養子を貰えばいいしな。


「お互いに気兼ねなく、公爵家になることができると思いますよ」


「……分かった、その方向で説得してみよ」


「承知しました。

 それと彼女が教国の人間を300人ほど手懐(てなづ)け、更に伯爵に奴隷にされていた獣人の一部を受け入れる意向を示しているのですが……。

 彼等を受け入れる為の領地を、欲しているようで……」


 それを聞いた父上は厄介事の気配を感じたのか、大きく溜め息を()く。


「海か大きな湖がある土地がいいそうですよ」


 その辺を決める為にも、父上とはまだまだ話し合うことがありそうだった。

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