反逆の理由
ランバート伯爵の軍が、砦に攻撃を仕掛けてきた。
自国の砦なのにね。
確か彼らは、この砦の反対側──つまり辺境伯領の端で、他領からの援軍が通るはずの街道を封鎖していたはずだ。
しかし何らかの手段でカトリ教国からの救援要請を受け取って、馳せ参じたということなのだろう。
教国の侵攻が失敗したら、伯爵もまた未来が無くなるしな。
「なるほど……。
教国軍が妙に粘っていたのは、伯爵軍との挟撃を狙っていたのですね。
……もう手遅れですが」
教国軍は既に撤退した。
挟撃はもう無理だし、一介の伯爵が保有する戦力なら、この砦にある戦力だけでも鎮圧は可能だろう。
勝ち目はもう無い。
「どうします、王女殿下?
降伏勧告でもしてみますか?」
「そうだな。
最早、伯爵の死罪は確実だから、死に物狂いで抵抗してくると思うが……。
その場合は、生け捕りにしてくれると助かる。
戦死という、武人の名誉ある終わり方を与える訳にはいかん」
「……はい」
あ、それも俺がやるのね……。
まあ、確かに辺境伯軍にやらせたら、普通に死者は出るだろうし、伯爵の生け捕りにも失敗するかもしれんけど。
「ん……?」
砦から少し離れた場所に陣取り、弓矢などで攻撃をしてくる伯爵の軍を見て、俺は違和感を覚えた。
身体能力向上効果の義足をバージョンアップしたので、以前よりも視力が良くなったからよく見える。
「アンシー、伯爵軍の前面に展開しているのは……」
「はい、獣人族ばかりですね」
獣人は戦闘力が高いから、戦場に連れてくるのは分かる。
だが、伯爵の立場上、それはおかしい。
「なんだと?
あいつが獣人ばかりを登用しているなんて話は、聞いたことも無いが……」
と、伯爵の直属の上司とも言える辺境伯。
やっぱり変だよな。
「亜人種を否定する教国と手を組んだ伯爵が、獣人主体の部隊を編成していることには違和感があります」
場合によって彼らは、教国へ逃げ込むつもりだったはずだ。
その場合、獣人の兵は捨て置くのか?
それとも──。
「ふむ……獣人か」
俺の言葉にミーティア王女は、興味を示す。
「確かにおかしいな。
もしかしたら奴隷のような扱いなのかもしれん」
「奴隷……ですか?」
この国では、奴隷は禁止されているはずだが。
いや、もしかしたら、教国では禁止されていないのか?
彼らにとって蔑むべき存在である亜人種ならば、奴隷として扱っても何も問題無い……とかいう理屈がまかり通っている可能性もある。
だとしたら、伯爵は──、
「まさか伯爵は教国へ獣人を──我らが国の国民を奴隷として売りさばいていた……?
その繋がりで、今回の反逆に至ったのでしょうか?」
「そうなのかもしれん。
その辺は直接伯爵から聞いてみよう。
だから、生け捕りをよろしく頼む」
そうなるか……。
でも、獣人達が人質に取られるようなことになったら、簡単にはことが運ばないかもしれない。
その辺の対応もしないとな。
「獣人達は、どのような理由で、伯爵に従わされているのでしょうか?
家族が人質に取られているとか、魔法で操られているとか……」
「伯爵が本当に奴隷の売買していたのならば、人質の線は薄いだろう。
獣人達も家族が遅かれ早かれ売られることを、分かっているはずだからな。
どのみち救いが無いのならば、人質としての効果は無い。
それに万が一獣人達が反乱を起こせば、鎮圧には手間取るはずだ。
だから何らかの形でその行動を物理的に縛る手段があるはずだが、魔法で長時間人の精神や身体を縛るのは難しい。
ましてや数十人同時となると……」
ふむ、王女の分析はなかなか参考になるな。
魔法ではないとしたら、魔道具の類いかな?
精神を操る物なのか、あるいは装着者が反抗したら痛みや死を与えるような……。
「アンシー、獣人達を操る為に使われていると思われる装備は、確認出来ますか?
あるとすれば武具以外の何か同じ物を、全員が身につけているはずですが」
俺よりも目が良いアンシーに確認させる。
すると──、
「全員、同じ首輪を嵌めているようですね」
それかな。
そして獣人達が奴隷扱いされていることは、これで確定だろう。
その首輪は俺の「変換」で無効化できるが、急に自由になった獣人達が暴れ始めたら、無用な犠牲が出るかもしれないから、ちょっとタイミングが難しいな……。
まずは伯爵を拘束してからの方がいかな?
「それではいってきます」
俺は再び強化甲冑を纏い、アンシーを伴って砦から出撃した。
「な、なんだあれは!?」
「空を!?」
空中から近づく俺達に対して、伯爵軍は混乱している。
教国軍と似たような反応をしているなぁ。
「ランバート伯爵!
教国軍は既に遁走した。
最早、挟撃も不可能であり、お前に勝ち目はありません。
大人しく降伏し、縛につけ!」
と、俺が降伏勧告するが、伯爵は──、
「ば、馬鹿を言うな!!
教国の大軍が、そう簡単に敗北するものか!!
あの者は我らを動揺させる為に、欺瞞工作を仕掛けようしている!!
矢を射かけよ!!」
やはり徹底抗戦をする方針のようだ。
本当に教国軍が撤退したことを信じていないのかは分からないが、どちらにしても他に選択肢は無いもんなぁ……。
それはさておき、今騒いでいたのが伯爵だな。
そいつの目の前に着地する。
「なっ、なぁ!?
す、すぐにこやつを斬り捨てよ!!」
周囲の騎士達が剣を抜き、俺に襲いかかろうとするが──、
「失礼」
その騎士達をアンシーが瞬時に殴り倒す。
物凄い勢いで、20人ぐらいが吹き飛んだ。
うん、任せておいても大丈夫そうだな。
あの様子なら、誰も俺には近づけないだろう。
それじゃあ心置きなく、伯爵を捕縛するか。
ブックマーク・本文下の☆での評価・誤字報告・いいね・感想をありがとうございました!