白銀降臨
さあ、完成したぞ、俺の新たな右腕!!
見た目はただの華奢な細腕。
しかし1度能力を発動すれば、劇的な変化が生じるという仕様になっている。
「アンシー、後は私に任せてください」
「はい、お気を付けくださいませ、お嬢様」
……まあ、カトリ教国軍からは殆ど装備を奪ったので、もう戦闘の継続は難しいだろうし、もう俺が出るまでもないかもしれないが、ダメ押しは必要だろう。
彼らはまだ、撤退の姿勢を見せていないからだ。
「装・着!!」
「「「おおっ!?」」」
俺の掛け声と共に右腕が光だし、そして未来技術のナノマシンによって形を変えていく。
しかもただ変形していくだけではなく、俺の全身を覆っていった。
「エルネスタ様が、鎧姿に……?」
「そうですね、コリンナ様。
そのようなものです」
そう、この義手の能力は、俺の身体能力や攻撃能力を補助し、そしてあらゆる危険から身体守る為の強化甲冑だ。
その見た目は白銀の装甲を持つロボで、全高も3mに届こうかというほどの巨体だが、異世界人には大男が全身鎧を着込んでいるように見えると思う。
俺の正体を隠したい時にも便利だな。
「ふむ……。
動きは問題無さそう」
元々は俺の右腕として自由に動いていたので、甲冑になっても問題無く俺の身体の延長として動かせる。
しかも左腕との接続によって、機械的な部分の制御も完璧だ。
しかも──、
「そちも浮くのか!?」
ミーティア王女の驚愕の声を受けながら、俺は空中に浮いた。
この強化甲冑には、飛行能力もあるのだ。
背中には飛行機のような翼が収納されており、足の裏にはジェット噴射の噴射装置もある。
燃料は俺の魔力を「変換」して生み出した炎などである為、俺の魔力が尽きない限りは延々と飛べるぞ。
そんな訳で俺は、教国軍の上空へと陣取った。
そして眼下でざわめく兵士達へと、勇ましい口調で呼びかける。
拡声機能付きだから、ジェットの噴射音でも声はかき消されない。
その気になれば音響兵器としても使える。
「教国の者達よ!!
勝敗は既に決した。
大人しく兵を引くのならば、これ以上命は取らぬ!!」
兵士達のざわめきが更に激しくなる。
そりゃ、鎧が空中に浮いていたら訳が分からんよな。
でも、俺の話を聞いて?
しかし──、
「おっと」
炎が俺に遅いかかってきた。
魔法攻撃か。
武器が無くなっても、これくらいのことができる奴は、まだいるようだ。
ただ、この程度なら強化甲冑の装甲で無効化できる。
その後も魔法の攻撃が続いたが、そのどれもが回避するまでもなく、装甲に弾かれるだけだった。
期せずして性能テストができたな。
そして教国軍も無駄だと理解したのか、徐々に魔法攻撃はやんでいく。
しかし──、
「何をしておるっ!!
たとえ通じぬとも、神へと屈せぬ我らが信仰を示すのです!!」
と、何やら偉そうな奴が、がなり立てている。
自分は何もしていないのに、なんだこいつ?
おそらく昨日倒した指揮官に次ぐ高い地位の者なのだろうけれど、その思想を下に押し付けるのはやめろよ。
振り回される末端が、見ていて可哀想になる。
「都合良く教義を歪める、狂信者の戯言など聞くな。
神は無駄な死など望んではいない!」
俺はそう反論する。
まあ、実際には知らんけど。
だが、神と直接会った俺の印象では、あの神からは人の命を弄ぶほどの悪質さは感じなかった。
まあ、性別は弄ばれたけどな。
しかし教国の者は、俺の言葉には動じない。
「異教徒の声など聞いてはいけません!!
その命を神に捧げ、信仰の証を立てるのです!!」
……と。
なんでそんなに死にたがるよ?
いや、本人は死ぬつもりはなさそうだから、殺したがるというのが、より正確か。
その犠牲の先に、何か逆転の目があるのか?
それとも「舐められたら終わり」という、権力者特有の思考で引くに引けないのか?
いずれにしても、これ以上扇動されても困る。
彼には見せしめになってもらおう。
「ならば、貴様が率先してその命を捧げよ!」
俺は「変換」で電流を作り出し、それを右腕に備え付けられた装備へと充電した。
その装備とは、荷電粒子砲だ。
荷電粒子を亜高速にまで加速して発射する兵器であり、現代文明でも実現可能だと言われている。
だが、加速器の小型化が困難な為に実用化はできていない……のだが、その辺は未来技術でどうにか上手くやっているはず……。
細かいことはスキルが勝手にやったことなので、俺は知らん。
で、その荷電粒子砲を、騒いでいた男へと向けて撃ち放った。
それは太い光線となって、男の身体を貫く。
「アァ゛っ!!」
光線に触れた男の身体は瞬時に消滅し、触れていない部分だけが、切り取られたように焼け残っている。
具体的に言うと、右の手首と左足だけだな。
ふむ……アンシーの指から発射される光線よりも威力が高いし、強化版って感じかな?
ともかく今回は「変換」も使わず、遺体をそのまま放置する。
それを見せつけることで、他の者達にこれ以上抵抗した場合の結果を理解させようという訳だ。
実際、一般の兵士達は怯んだ様子だった。
末端まで狂信的なら違う反応になったかもしれないが、どうやらそうでもないらしい。
むしろ命令を押し付けてくる者がいなくなったことで、彼等にも自由に判断できる余地が生まれた。
よし、もう一押しだな。
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