釣れた
その日も俺は、朝から露天での販売を始めた。
竹刀が売れると分かったので、少し多目に用意したぞ。
木の棒から変換できるので、コストがかからないから大量生産ができる。
しかも能力と魔力は、使えば使うほど成長して、多くの物が作れるようになるようだ。
特に一度作った物をもう一度作る時は、心なしか作業が楽になっているような気がする。
だから他にも果物ナイフやハサミなど、低コストで作れる物をたくさん用意した。
日用品だけど武器としても使える物は、結構あるからね。
というか、俺が武器だと認識すれば、ボールペンや注射器だって刺突用の武器だ。
防具だと認識すれば、鍋と鍋蓋だって兜と盾という防具になる。
ほら……バールのような物だって、本来は武器じゃないけど、よく凶器として使われているのをニュースで見たし。
結構ガバガバだぞ、この能力。
そんな具合に品物の種類を充実させたから、客は途絶えることは無かった。
そして──、
「やあ、調子がいいようだね」
「あ、いらっしゃい」
それは先日、竹刀をまとめ買いしてくれた男だった。
年の頃は30歳手前かな?
ただ、金髪碧眼の前世で言うところの白人っぽい顔付きをしているので、イマイチ年齢は分かりにくい。
もしかしたらもっと若いのかもしれない。
実際、この世界は両親や祖父母の援助がある内に子育てをしてしまおう……という人が多いらしく、十代前半で子供がいるというのも、そんなに珍しい話ではないという。
そんな風に若くても結婚やら何やらと済ませていて、人生経験が豊富だからなのか、そういうのが顔付きに出て、年齢が上のように見えてしまうこともあるようだ。
とにかく彼は、イケメンだった。
俺が元男でなければ、ときめいたりするのだろうな。
……考えたくも無いが。
「この前の竹刀ってやつは、評判が良くてね。
今日はあるだけ全部もらえるかな?」
あれを転売したのかな?
また買いに来たってことは、結構良い値段で売れたのだろうな。
……まあ、今の俺は販路を持っていないから、売った物をどのように扱われても文句は言うまい。
現状では買ってもらえるだけでも、ありがたいからね。
「1本金貨1枚で、それが6本。
金貨6枚ですがいいですか?」
「ああ。
それと、他の物も見せてもらえるかな?」
「ええ、いいですよ」
それから彼は、俺が用意した商品を熱心に見ていた。
そして彼は、真剣な口調で話しかけてくる。
「ちょっと今、話はいいかね?」
「……!
いいですよ」
ここで話し込んでいたら、商売の邪魔にはなるが、ぶっちゃけ今売れた竹刀だけでも今日の利益は充分だしな。
……しかし武具屋を釣ろうとしていたら、別のが釣れたようだ。
「これらの品は、誰が作ったんだい?」
「…………」
これはどう答えるべきなんだろうな?
たぶん扱っている商品の質が良いから、この人は仕入れ先や製造方法などを知りたいのだと思う。
正直に俺が作ったと言うと、面倒ごとに巻き込まれる可能性もあるが……。
俺から製造方法を、無理矢理聞き出そうとするとか……。
ただ、誰か別人が作ったとか嘘を言っても、そんな嘘なんていつかはバレるし、そもそも交渉の窓口が俺しかいない時点で、リスクはそんなに変わらないような気がする。
情報を引き出そうとするのなら、やっぱり俺から聞き出すしかないもんな……。
ここはむしろ、俺が作ったとアピールすることで、俺自身の価値を高める方がいいのだろうか?
そうすれば俺に何かあった場合には、新たに商品は作れなくなるのだから、早々無茶なことはできなくなるだろうし、結果として良い待遇で契約を結ぶということも、できるかもしれない。
勿論、俺を脅して、無理矢理働かせるという可能性も、有り得るけれど……。
その場合は、一応護身用の武器は用意してあるし、いざという時は戦うか……。
「俺が作りました」
「こんな立派な物を、君が……?」
男は疑うような視線を、俺へと向ける。
そりゃあこんな子供が、店で売っていてもおかしくないクオリティの商品を、作れるとは思わないだろうな。
「むしろ俺にしか作れませんよ。
そういうギフトがあるので」
この世界の人間には、ギフトという特殊な能力があるらしい。
勿論、全員が持っているような物ではなく、それどころか持っている者の方が少ないらしいけど、能力によっては常識外れなことも可能にするという。
もしかしたら、俺のような転生者なのかもしれないな。
俺のように、前世の記憶まで持っているのかは分からないが……。
実際、自分が転生者だと主張している者は、少なくとも有名人の中には1人もいないらしいし。
ともかく男は、俺が扱っている商品がギフトによって作られているという事実に、納得したようだった。