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第27話 エスカに誓いの言葉を

 揺れる馬の上で、ようやくエスカが目を覚ましたのは、西日の差し始めるころだった。


 彼女は手綱を引くメイルの、腕の中にいた。

 瞼を少し開け、ぼんやり眺めるうちに、木々が目に入る。

 南の荒野から戻り、領……それもエスド子爵邸に近いところまで戻ったのだと、そう気づいた。


「まだ、休んでいていい」


 メイルの口調は、今も変わらず不丁寧な方ではあるが。

 とてもとても、柔らかかった。


「君の腕に抱かれて休まるほど、私は淑女をやめてはいないぞ?」


 体をずらし、メイルに支えられながら、しっかり馬の背にまたがる。

 そして、彼に背を預けた。


「これなら、文句ない」


 エスカが落ちないようにと、メイルの手がそっと添えられる。


「そうか」


 メリーもマジックもおらず、静かではあるが。

 とても心地よかった。

 少し、目を閉じる。


「これで、大きな仕事は片付いたね」

「領の業務は、だいぶやってくれたと聞いた」

「もう寝てても年を越せるさ」


 さすがにそれは冗談かと思ったようで、メイルが少し笑った。

 なお、エスカの語った内容は掛け値なしに事実なので、本当に来年まで仕事はない。


「君が領を空けても問題ない。だから――――ようやく、求婚を受けてあげられるよ」


 エスカは照れもあってさらっと言ったが、メイルにまじまじと見られているのを感じ、頬が熱くなった。

 どうもこう、メイルに対しては言い方が大胆になってしまうきらいがある。

 自覚はあるのだが、抑えが効かない。


「ああ。祝福を……受けに行こう」


 それも確かにそうなのだが。

 エスカはちょっとじれったくなった。

 自分で台無しにしておきながら、わがままが過ぎるところではあるが。


 ちゃんともう一度、聞きたくなったのだ。


「その前に、言うことがあるだろう?」


 エスカに言われて、思い至ったようで。

 メイルは後ろから伸ばした手で、彼女の小さな手をとった。


「僕と結婚してほしい、エスカ」


 エスカは、胸や口の中がむずむずして。


「……私を愛してくれるのなら」


 なんとか、言葉を外に追い出した。


「誓って」

「何に?」


 自分でも何が気になったのかわからなかったが、つい口をついて出た。

 エスカは薄く目を開き、胸の高鳴りを感じながら、メイルの言葉を待つ。


「――――僕の、花の魔法に」


 エスカは彼の手を、指を絡めるように握り締めた。


「なら、信じるしかないな」


 そして微笑みながら……密かに少し、嘆息する。

 気になって、腰を少し浮かすように彼から離した。


 当初予定通りともいえるが、やることが増えた。

 まず、残機を増やしてマジックを呼び戻さなくては。

 あの赤いキノコをもっと研究し、持続時間を延ばさないといけない。


 そうしないと、結婚早々に死ぬ。

 メイルにひっついて寝て起きた今朝、エスカはそれを痛感していた。

 体格に比例していた。絶対に無理なやつだった。


「エスカ様!!」


 遠くから……シフティの声がする。

 エスカは目を開けて、前方を見る。

 いつの間にか、屋敷の門をくぐっていた。早足で寄ってくるメイドが見える。


 というか、主人の前に自分を呼ぶとはどういうことだろうか。

 何か要件があるのか。エスカは姿勢を正した。


「どうした」


 メイルが馬を止める。

 シフティがすぐそばに控え、礼をした。


「申し訳ありません。お客様がお見えになっています、エスカ様」


 客? 文仲間で訪ねて来そうなのは、いなかったはずだが。

 シフティがわざわざ先んじて知らせるということは、何かあるのだろう。

 エスカはメイルに手伝ってもらいながら、馬を降りる。


 メイルもまた馬を降り、手綱をシフティに預けた。

 三人で、玄関口に歩く。


 ファンクとジョンは、もう扉のそばにいる。

 そういえば、グレッソは姿が見えないが……冒険者の面倒を見ているのだろうか。


「どなたが訪ねて来た」

「それが……」


 シフティが歯切れ悪く、言い淀んでいる。

 そのとき。玄関扉が開き、中から誰かが出てきた。


「お客様、お待ちを!」


 その人物の後ろから、執事のアルトが声をかけているが。

 彼女はエスカを目にとめると、早足で向かって来た。


 黒を基調としたドレス。赤く長い、綺麗な髪。

 その瞳もまた真紅で、家族の誰とも似ていない。

 まだ年若い、男爵令嬢。


 彼女はエスカから少し離れたところで、止まり。

 瞳に涙を、口の中に言葉をためて。

 何度もその唇をわななかせて。


「……ぇすか」


 か細く、しかしエスカを真っ直ぐに見て、名を呼んだ。

 初めて義姉の、名を呼んだ。


「ライラ!」


 エスカもまた、義妹の名前を初めて呼んだ。

 まだドレスが縫えていないと、頭をよぎったが。

 彼女の様子に気持ちの方が先に溢れ、歩み寄る。


 だがエスカとライラの間に、メイルが立ちふさがった。


「ロイズ男爵令嬢。何用だ」


 メイルの声は、冷たかった。

 彼からすれば、エスカを虐げた者の一人。

 ライラについての細かい情報を、エスカはまだメイルには共有していなかった。


 というか、忘れていた。

 シフティには言ったのだが、自分が説明すると口止めしていたのだ。

 思わず、メイルの後ろで視線が泳ぐ。

 

「わ、たしは」


 後ろめたそうに、ライラが引き下がる。


「エスカは当家の一員となる。ロイズ家とはもう――――」

「メイル」


 今にも涙がこぼれそうな、ライラを見て。

 巨漢の当主が言い終える前に。

 エスカは静かに切れた。


 自分が話を伝え忘れていたことなど、綺麗に吹き飛んだ。


「伏せていろ」


 問答無用で背後から彼の脚を払い、腰を押して地面に叩きつける。

 メイルはなすすべもなく、うつ伏せに倒れた。

 相当な力で倒されたようで、振動と結構な音が走る。


 シフティとアルト、従者たちが、天を仰いだ。

 ライラは呆気にとられ、身動きがとれなくなっている。


 エスカはすっと回り込んで、ライラのそばに寄ると。

 彼女の手をとって、少し見上げ、その顔を覗き込む。

 そして。彼女に会ったとき、最初に言おうと思っていた言葉を、紡いだ。


「素敵なドレスだった。ありがとう」


 ライラの色白の頬を、しずくが伝う。

 しかし彼女は、口を強く引き結んで。


「話したいことも、謝らなきゃいけないことも、たくさんある。でも」


 涙に濡れた目で、ライラは力強く、エスカを見た。


「恥を忍んで、お願いがあるの」


 エスカは頷き、静かに続きを促す。


「助けて! 王都が、学園が! 大変なの!」


 場が凍り付く。


 だがエスカは静かに嘆息し……そうなったか、と思っていた。

 魔物を差し向け、王都を蹂躙しようとしていた、13の辺境貴族たち。

 彼らは、もう後がない。


 この程度で終わるわけが、ないのだ。

お知らせです。

二章はあと一話とキャラクター紹介があるのですが、12/4(月)に投稿いたします。

同日中から三章開始ですが、一日に一話の投稿予定です。

三章は18話+キャラ紹介なので、12/21(木)まで毎日投稿です。

4章が上がっていたらそのまま継続、難しければお休みを挟むことになります。


何かあってすごい書き溜めができない限り、だいたい1月に1章のペースで進行いたします。

よろしければ引き続き、ゆっくりめにですがお付き合いくださいませ。

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