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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

俺のスキルが「召喚術」から「降臨術」に変わってるんだが?〜天使や邪神が仲間です〜

 

 

「ごめんルシファ。パーティを抜けてほしい」


 親友からの非情な通告。

 ざわつく酒場が一瞬静まり返る。

 それは戦利品分配した直後のことだった。


 俺の名前はルシファ=ミカエラ=ブラファ=シヴ=タルタ=ゼウナス。


 なんでこんな長い名前なのか分からんが、死に際のばあちゃんが目をカッと見開き「実は黙ってたんじゃが、お前の名前はルシファ=ミカエラ=ブラファ=シヴ=タルタ=ゼウナスじゃ!」と言って昇天したからマジらしい。


「やっぱ限界だよな」


「この先一緒に活動するのはお互い危険すぎるよ。最近聖獣も精霊も全く召喚しないし、成功しても魔獣だけ。その魔獣すらろくに操れてないんだもん」


 俺のスキルは『召喚術』だった。

 

 別の世界から聖獣、精霊、魔獣を呼び出し使役することができる。

 このスキルを持つ冒険者は召喚士と呼ばれ、魔法職に分類されている。

 召喚士本人は弱いものの、使役するそれらは強力。多少才能に乏しくても上位のパーティに入れる役得職業でもある。


 そう、俺のスキルは召喚術だった。

 ただそれも過去の話。

 俺のスキルはいつの間にか消えていた。


 スキル適性がないと波長が合わず、こちらの呼び掛けに応じてもらえない。

 仮に呼び出せても最悪殺されることもある。

 スキルを失ってからはほとんど召喚に失敗してるし、成功しても知能の低い低級魔獣しか呼べなくなっていた。


「囮役や索敵、魔力ポーション生成ならまだ力になれるんだけど……」


「それだけなら魔女のミーヤができる。それに――」


 扉の方へ目配せする親友。

 親友の合図で部屋へと入ってきた若い男。

 俺と同じ召喚士のローブに身を包んでいた。


「彼はアラン。彼は優秀だよ。スキルも2つあるしA級精霊まで呼べるんだ。今回の〝邪教徒一掃作戦〟みたいに相手が人間ならまだしも、もう君の力じゃ第一線で戦えないだろ」


 親友の言う通りだった。

 俺のスキルは召喚術ひとつしかない。

 そのスキルを失った俺にはもう何もない。


 親友は寂しげな表情を浮かべ俺を見た。


「双翼――僕たち2人で立ち上げたパーティだったな」


 小さな村出身の俺たちが一山当てようと王都のギルドで作ったパーティは、今ではA級冒険者のみで構成され、名実ともに国内トップの最強パーティへと成長した。

 親友が勇者などと持て囃されてから、難易度と危険度の高い依頼ばかり舞い込んだ。

 召喚術があってもお荷物だった俺にとって、この辺がいい引き際かもしれない。


「もうお前ひとりでも飛べるよな」


 今までありがとう。

 一緒に飛び続けられなくてごめんな。

 親友への感謝と謝罪の言葉は飲み込んだ。

 言えばアイツは引きずるからな。


「あとは頼みます」


 新人くんの肩に手を乗せる。

 親友は実力こそ随一だが抜けているところがある、戦闘中は彼が上手くカバーしてくれるのを期待しよう。

 酒瓶二本を引っ掴むと荷物をまとめ、振り返らずに酒場を後にした。

 未練がましく騒ぐのは性分じゃない。


「今日はやけ酒だな……」


 晴れ渡った空を見上げ、ひとり歩きながら帰路についた。





「僕は早めに休むから、あとは適当に」


 お荷物ルシファと、勇者ユンが去ったあと、残った双翼パーティは酒を飲み終えながら、ぼちぼちお開きという流れになっていた。


「リーダーはなんであんな役立たずに固執してたのかしらね」


「そりゃあ幼馴染だからじゃない?」


「だとしても引っ張りすぎ。役立たずと報酬山分けとか意味わかんなかったし。あーーー清々した!」


 魔女ミーヤと聖女ダフニが笑い合う。

 重戦士ガレアは、さっきからダンマリな新人に声をかけた。


「大丈夫か?」

「え? あぁ……なんかこの子の様子が変で」


 アランの側には山椒魚のような形をした精霊が漂っているのだが、精霊は酒場の観音扉をずっと凝視したまま震えていた。


『あの人怖い……近付きたくない』


 あの人、というのが誰か分からないアラン。

 先ほどクビになった男のことだろうか。

 それとも勇者と呼ばれるリーダーのことだろうか。


 それだけ呟き、精霊は溶けるように消えた。

 アランとガレアは不思議そうに首を傾げながら、キィキィと音を立てて揺れる観音扉を見つめていたのであった。


 



 酒が入るとダメだな。

 考えたくないことばかり頭に浮かぶ。


 酒場から宿屋へと戻った俺は、その後もしばらく飲み続け、潰れていた。


 スキルが消えるなんて聞いたことがない。

 パーティを抜けたら収入も減るし、スキルなしの奴ができることなんてたかが知れてる。


 なんで俺だけがこんな目に。

 負の感情ばかりが湧いてくる。


「ぐちぐち言ってても仕方ないわな……」


 ある程度の腕力があれば建築関係で仕事が見つかるかもしれないし、魔力が扱えるから薬作りで仕事がもらえるかもしれない。

 冒険者の道は道半ばで潰えたが、それでも完全に人生が詰んだわけじゃない。

 とりあえず今後の方針を決めるため、俺は自分のステータスを再確認することにした。

 


名前 ルシファ=ミカエラ=ブラファ=シヴ=タルタ=ゼウナス

筋力 15

耐久 10

敏捷 12

器用 28

魔力 53


スキル 降臨術



 筋力15は一般人と同等かそれ以下。

 耐久10は冒険者の最低ライン。

 敏捷も並み、器用さはそこそこ。

 唯一誇れる魔力もポーション1本生成が関の山か。

 剣士職である親友でさえ魔力100以上だったはずだ。

 やっぱり再就職なんて無理じゃないか。

 というか最強パーティにいた割に、自分のステータスの低さに泣けてくる。

 カッコつけて新人に先輩感出しちゃったけど、本当にパーティのお荷物だったんだな俺。

 図太く居座っててほんと惨めだな。


「ん?」


 スキル欄で視線が止まる。

 なんか増えてる?


「降臨術?」


 それは召喚術のかわりに現れていた。

 もしかして召喚術から派生進化したとか?

 といっても降臨術なんて聞いたことがないぞ。


 親友の剣技スキルが光剣に変わったように、スキルは鍛え続けると稀に進化することがあるらしい。


 召喚と降臨の違いってなんだろう。

 召喚は単に呼ぶって感じがある。

 降臨はおいでくださる、みたいな?


 いや待て、そういえば降臨って最近どこかで見た気がするぞ。


「これだ」


 それは今日の戦利品分配で得た本だった。

 見る限り、なんの変哲もないただの本。

 しかしこれは邪教徒が所持していた物だ。


 双翼パーティと先鋭冒険者達で、怪しい宗教団体を殲滅する作戦を行ったのが今日の話。

 彼等は貴娘を拷問し生き血を捧げたり、赤ん坊を攫って殺したりとおぞましい儀式を数々行なっていた。

 普段魔物を相手にしてる俺達の敵ではなかったが、そんな奴らが持ってた本だ。やばくないはずがない。


「まぁ読むか」


 怖いもの知らずとは正にこのこと。

 なにが勇者だ馬鹿野郎。

 失う物がない奴こそ最強だ。

 酒に思考を支配されながら本をパラパラ捲る。


 入手した時にチラッと読んだだけの本。

 悪魔とか贄とか明らかにやばいページもあるが、天使や神について書かれた部分もある。


○銀翼の天使リュミエル降臨の方法

○混沌の女神レンシア降臨の方法

○髭の神トロメイアス降臨の方法

○豊穣の女神アネンダ降臨の方法


 難解な文字で書かれているのにスラスラ読めるのが、降臨術の影響なのか酒の力なのかは分からない。

 豊穣の女神は農業系かな?

 混沌の女神は少し危なそうな匂いがする。

 髭の神はおじさんが来そうだな。


「せっかくだから天使様でも呼んで、冒険者として自立できる力でも授けてもらおう……」


 軽い気持ちで準備を始めたのは酒のせいだと信じたい。

 この時の俺はまるで取り憑かれたかのように、なんの疑いもなく儀式を進めていた。


「純白の猫に処女の毛髪を食べさせ、深い愛をもって三日三晩抱いて寝ると、猫の頭に羽根が生える。それをゴブレットに落とし、ワインを注ぎ、淵を指でなぞりながら以下の呪文を唱えよ――」





 ギルドの襲撃から三日が経った。

 多くの教徒は討たれたが全てではない。

 皆志は同じ、望むは混沌の世界なり。


 生き残った邪教徒は儀式を続けていた。

 神々の書物を奪われたのは痛手だったが、あの本には儀式の方法が書かれているだけで、降臨のために必須の道具ではなかった。


 祭壇に血を捧げよ!

 臍の緒を食った老婆の生き血を!

 雄牛の心臓を喰らい、呪文を唱えよ!


「ラバーディ、ラバーディ。爛れた牛の子よ、不浄なる世界に混沌を齎したまえ。眷属たる我らを導きたまえ」


 本来ならば成功するはずのない儀式だった。

 しかし、ギルドに討たれた教徒達が生贄の役目を果たし、この不完全な儀式は成った――。


「な、なんだ!?」

「あれまぁ、不気味な空だねぇ」

「なんか変な声が聞こえるよ……?」


 夜の空は鮮血のような紅へと染まる。

 生き物のように動く鉛色の雲。

 地下深くから轟くような低い唸り声。


「何が起こっているんだ……?」


 ギルドの強者達はいち早く異変に気付いていた。

 なにか得体の知れないものが這い上がってくる――漠然とだが、そんな気配を感じとっている。


「ギルドマスター! 奇妙なことが!」

「空を見たら分かるわい!」

「それだけじゃないんです、各地で魔物達の自害が目撃されています。自分で自分の首を裂いて死んでいくんです!」

「なに?! なんと悍ましい……」


 ほどなくしてソレは地上に現れた。

 牛の頭に人間の体、脚はタコか触手のようにうねり、両手は蝙蝠の羽、胸に大きな瞳。


 あまりにも異形――。


 魔物達が潜在意識の中で恐れる存在。

 この世界とは違う場所にいる存在。


 悪魔である。


 異形の悪魔を見た民衆達は、取り憑かれたように子供の首に刃物を向けた。

 大人の目に生気はなく、子供は涙を流して笑っている。

 悪魔を見た者はすべからく精神を破壊された。



 突如――紅の空が裂け、光が漏れた。

 水たまりに石を投げ込むように、波紋が広がるようにして眩い光は広がり、不気味な空を消してゆく。

 降りてきたのは銀翼を持つ天使だった。

 恐ろしく整った顔と、透き通る肌。

 七色に光る不気味な眼球。

 十字架を模した鏡の剣が悪魔を写すと、悪魔は悍ましい声で唸りをあげ、沸騰するようにその場に溶けたのだった。


 銀翼の天使が地上に降り立つと、民衆達が我に帰ったように意識を取り戻す。

 天使はそのまま、呆然と立ち尽くす一人の男の前へと向かい、そっと胸に顔を埋めた。

 天使の姿が小さくしぼみ、それは純白の猫へと変わり、足に擦り寄った。


「どうなってんだ……?」


 人智の及ばない存在同士の対峙。

 ルシファには呪文を唱えた後の記憶がない。

 というより、殆どの人間は先程の記憶がない。


 世界が滅亡しかけ、救われた一瞬の攻防。

 幸いその記憶を持って帰った者はいない。

 ごく一部の強者達を除いて――。


 この日を境に、ルシファが断酒を始めたのはまた別の話。


 


名前 ルシファ=ミカエラ=ブラファ=シヴ=タルタ=ゼウナス

筋力 15

耐久 10

敏捷 12

器用 28

魔力 53


スキル 降臨術

肩書き 銀翼の天使リュミエルのご主人様



名前 銀翼の天使リュミエル

筋力 1,000,000

耐久 1,000,000

敏捷 2,000,000

器用 3

魔力 7,700,000


スキル 浄化の光、反射の剣、癒しの歌etc...

評価、感想お待ちしております



おまけ


ある日のふたり


「……」トントントン


「リュミエルさんキッチンごと切れてるよ!!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 続きが気になる短編ですね 幼馴染の勇者くん(さん?)との今後も気になります [気になる点] さすがにリュミエルさんの器用3は酷すぎませんか? まともに剣を振るうことも出来なさそうですが た…
[一言] 連載希望
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