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奪われた冠  作者: 彩雅
98/98

98.古びた物語

「アリシア、次はどっちに曲がるんだ!?」

「右に曲がって!突き当たりに甲冑があるはずだからそこで一度止まって!」


俺達は今、王家の禁書の棚がある図書館へと向かい走っていた。城の中は特に魔物が出てくるわけでもなく、地震がきた時のように揺れているわけでもない為、城を走り抜ける足は実に快適なのだが。

横の壁を見れば、あちこちに走る亀裂。天井からパラパラと舞い落ちる小さな欠片。


(···ここもいつまで持つか)


あと1つ、何か大きな衝撃が走れば次々に倒壊していく未来が見える。というか、崩壊するからという理由で外に逃げ出したのに、また戻るなんて正気の沙汰ではないのだけは確かだ。

だから、できるだけ早く本を取りに行き、外へと戻る必要がある。

さらり、と目の前に白い髪が揺れた。


いつ崩れるかもわからない廊下をアリシアを抱えたまま全力で走り抜ける。


禁書の棚に、本を取りに行く。


それは良い。

おそらくその本には、この状況に関する何かしらの打開策が書いてあるはずだからだ。なにしろアンデットに対する対応策も書いてあったのだから、むしろ書いてないと困る。

あのまま敵が来るのを待っていても、ちょっとやそっとじゃ死なないチートじみた能力がある魔物を倒す方法なんて思いつきもしないだろうし。

だが、問題は誰が行くのか?というところで白羽の矢が立ったのが、アリシアだった。


「行くなら、彼女かな」


ルークのその言葉にこの城内に戻るというとにも関わらずなぜアリシアなのかと目が点になりかけたが、続いた言葉に口を閉じた。


「適当に言ってる訳じゃないよ。彼女には呪いがかけられている。だとしたら兄から離れていた方が良いのは皆分かってるよね?だとしたらなおさら取りに行ったほうが安全だと思うんだ。兄は、きっとここにくるからね」


それがまるで決められているかのように言うルークに、首を傾げる。

「···なんで、そんなことが分かるんだ?」

「アンデットになったマリアナがここに来たからだよ。それに、僕達は城の外に出るようにと号令をかけただけ。集合をかけたわけでもないのに、城の兵士もまるで示し合わせたかのようにここに集まってきたよね。それは随分と不自然じゃない?まるでここで最後の戦いが始まる事が最初から決まっていたみたいじゃないか」

(···早い話がこれもゲームイベントだと言いたいわけか。だとすれば確かに、どうしようもないこの違和感も拭えるが)

それに本当にイベントなのだとしたら、誰も何も話せないままに淡々と事が進んでいくだけだろう。それが無いと言うことは、この状況はゲームイベントに限りなく類似している何かでしかないのかもしれない。


「行くならルードルフとアリシア嬢が妥当だと思う」

「······は?」


どうかな?とにこやかに微笑みながら言われたその決定事項に、流石に今度は突っ込まずにはいられなかった。


「無茶言うんじゃねぇ!そもそも俺もアリシアも、禁書の場所なんか分からねーよ!」

「···イバリア」

「だぁぁあっ、テオは一々殺気を向けるんじゃねぇ!」

「はい、アリシア嬢」

「え、と?これは···地図?」

「順路を示してあるから、見ながらだったら行けると思うよ。じゃあ崩れる前に行ってらっしゃい」

「んな近所にお使いを頼むようなノリで言うか、普通!?」


(···考えてみればとんでもねぇ王子だな、ルークも)

もう一人は本来ならば場所が分かるルークかシリル、もしくはテオが来るべきだったのにも関わらず、なぜかこの場には俺がいる。自分以外は適正なはずなのに、なぜ唯一城の地理のしの字も分からない自分がこちら側の振り分けなのかと突っ込みたいところは多々あるが、今はそんな事言っている場合ではない。突き当たりの甲冑が見えてきたのを確認し、再びアリシアに問いかける。


「アリシア、どっちの扉だ!?」

「左に行けば図書館だよ!」


左の扉を蹴破り、中へと入る。ここまで大量の本がズラリと本が並んでいる光景は、かなり久しぶりに見た気がする。その後もアリシアの指示通りに図書館を駆け抜けた。

鍵がかけられていた扉を開き、下へと向かう階段へ足を進める。


地下へ、地下へと潜っていった先にあったのは、上の図書館とは明らかに雰囲気の違う部屋だった。辺りにはガラス戸に入れられた古い本や、アンティークな品々が並んでいる。


「···ここ、だね」

 

辺りを見渡すと、そこまで物量があったわけではなかったために目的の品はすぐに見つかった。


ーーー歪んだ冠のアリス。


そう背表紙に書かれた1冊の古びた少し分厚めの本は、部屋の端にある小さな棚に置かれていた。あっさりと見つかった事に安堵し、その本へと近づく。手を伸ばしてその本を手に取り、表紙の方へと回して、俺はその本から目が離せなくなった。


真っ白な髪に、白い肌。アクアマリンのような青い瞳はどこか虚ろで。彼女は王座の椅子に膝を抱えて座っており、椅子の後ろから延びている真っ白な手に歪んだ冠を載せられている、というーーーゲームのパッケージと同じイラストが描いてあったから。


「···アリ、ス?」


ぽつりと呟かれた言葉とほぼ同時に、地面が大きく揺れた。



「っ、地震か!?」



ぐらり、と大きな揺れが足元の感覚を奪っていく。まともに立っていられないほどの揺れに、思わず地面に手をついた。

(···マズイな。まだあの2人が戻ってきてないのに···思ったよりも早いみたいだ)

魔物の王についてあの絵本には、こんな風に描写されていた。


ーーー複数の魔物を掛け合わせた、キメラのような見た目をしているのだと。


そして、もう一つ。


厄災を呼ぶ存在という、曖昧な表現。


「複数の魔物のキメラ、か。···すべき事を20年以上も他所に押し付け、それに気がつきもせずに暮らしていた王。···この国には一体、どんな厄災が降りかかるんだろうね?」


そしてその『厄災』とやらは。


きっとすぐ目の前まで来ているのだろう。

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