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奪われた冠  作者: 彩雅
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9.たどり着いた先

真っ白な雪に晒れた砦のような黒い石造りの城の前には門番が立っており、一度そこで馬車は動きを止めた。

そして、なぜか門の中に入ることなくコンコン、と扉をノックする音が聞こえてくる。

「はい」

「すみませんが、一度馬車から降りてきていただけますか?」

「わかりました」

外から聞こえてくる声に従い、馬車の扉を開け、外へと出る。

恐怖心か、はたまたただの好奇心か。物陰や遠目から、様々な視線が不躾にもその馬車に集まっていたのだが、次の瞬間、その馬車を見つめていた全員が息を止めた。

雪のように白く長い髪、透き通った青い瞳、淡く色づいた唇。身に着けている柔らかな白いコートが風で翻る。

この血生臭い場所には到底似つかわしく無い、美しい女性が出てきた為だ。

思わず外で声をかけていた門番が声を失っている事にも気が付かず、アリスは見事なカーテシーを行った。

「この度、グレン・デルフィランズ様と婚約することになりました、アリス・ヴェリアと申します。」

その声を聞いた騎士はすぐに我を取り戻すと、訝しげに顔を潜めた。

「…デルフィランズ様の、婚約者…ですか?」 

「はい」

「…申し訳ありませんが、ヴェリア様。我々はそのような話を聞いておりません。」

「え?」

話を聞いていない、とはどういうことだろうか。

お母様はデルフィランズ様の右腕と呼ばれる方ーールードルフ・イバリア様に取り次いだと言っていた。


ーまさか、嘘だったの?


(いや、そんな訳は…)

私は知らず知らずの内に、両親にも嫌われていたのだろうか。

そう一瞬でも考えてしまった自分が嫌になる。

もしかしたら、何かしらの伝達が上手く行ってないだけの可能性だってあるのに。 

「そして、デルフィランズ様からは怪しき者は全てその場で切り捨てるか、牢へ拘束せよとの事です」

「ッ…!!?」

門番が持っていた剣が抜かれ、こちらへと向けられる。鈍い光を放つ剣は、一瞬で私の命を奪い取るだろう。

「抵抗しなければ、傷つけたりはしません。私達の指示に従っていただけますか?」

ドクリ、ドクリと心臓が大きな音を立てて鳴っている。どうか、体が、声が震えないように。

怖くても、恐れないように。

笑え。


「わかりました」


ではこちらへ、と誘導されるがままに移動する。

馬車には服や小物などの荷物が詰め込まれたトランクがいくつかあったが、おそらく検査が必要になるはずだ。

せめてここまで運んできてくれた御者の方だけでも釈放してほしいが、門番の方からしてみればどちらも疑わしい人物だろう。

自分の無力さが歯痒くて堪らないが、どうすることもできない。門の中に入ると、大きな黒い砦が目に入る。

(ここが…北の砦)

王都の城とはまったく違う。そもそもが城ではなく砦の為当たり前なのだが、白い雪に覆われているにも関わらず砦は黒々として見えた。

中に入ると、暖房が効いているのか外よりも温かい。美術品などが飾られているわけでもない明かりだけが灯された廊下を進みながら、下へと続く階段へ誘導される。

「こちらです。足元が暗いのでお気を付けてお進みください」

廊下よりも少し暗い下への階段を下り始めると、カツコツと私が履いている靴の音が反響する。

下へ下へと降りていくと、いくつかの牢が並んでいた。どうやら他に捕らえられている人は誰もいないらしい。

門番がその内の1つの牢を開け、中へ入るように促された。

中には、簡素な椅子とベッドが1つずつ置かれている。

アリスはそっとベッドに腰を下ろすが、なんとも固いマットレスだ。もしかすると、近くに置かれている木の椅子とあまり柔らかさは変わらないかもしれない。

ここまでは暖房が行き届いていないのだろう、冷えた空気が押し寄せ、思わず手を握りしめる。冬用のドレスにコートを着てきたけれど、それでもまだ肌寒い。

「では、デルフィランズ様が戻ってくるまでお待ち下さい。…寒くて申し訳ない。」

「いえ、平気です」 

話もそこそこに、門番は元来た道を戻っていく。音が聞こえなくなった頃、向かいの牢屋に入っていた御者が話しかけてきた。

「お嬢様、申し訳…」

「いえ、謝るのはこちらの方だわ。貴方を守れなくてごめんなさい」 

「そんなっ、お嬢様が謝ることじゃ…」

「デルフィランズ様が戻ってきたら、必ず貴方を家まで戻してくれるようにお願いするから、もう少しだけ待っててもらえるかしら。ここまで来るのも大変だったのに、さらに迷惑をかけて申し訳ないのだけど…もう少しだけ待っていてもらえる?寒くはない?」

「い、いえ、俺は大丈夫です。」

「そう、貴方が寒くなければいいわ」

知らず知らずのうちに詰めていた息を吐き出すと、肺の中に冷たい空気が入り込んだ。コートの中に隠した手や足も、動いていないのも相まって少しずつ悴んでいく。

北部に位置する国境は季節に関係なく雪が降り、冷え込むのだと知識では知ってはいたが、実際に来てみると予想以上の寒さだ。

防犯のためか窓がないので外に繋がってはいないようだが、先程外に出た時とさほど温度に違いはないような気がする。

自分がそっと吐き出した息は、うっすらと白く染まっていた。

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