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奪われた冠  作者: 彩雅
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84.届いた想い

視界の全てが、炎で真っ赤に染まる。反射的に息を吸おうとした喉が、焼けるように傷んだ。

ブレスが直撃して落ちていく最中、手首を握り潰す勢いで必死に掴むと、カチリ、と手首につけていた緊急用の魔道具が作動し宙に水の塊ができる。


ーーー瞬間、頭から大量の水が降り注いだ。


それとほぼ同時に地面へと落下し、受け身を取ることもできないまま固く踏み固められた雪の中へと叩き付けられる。それと同時に、体から鈍い音がした。感覚からして左腕、おそらく左足の骨も折れているだろう。


「ぐっ···!!」


骨の折れる痛みに、冷や汗が出る。

そして先程使った魔道具、あくまでもこれは敵のブレスを食らった際に使用する緊急用の物だ。ここが雪国でなければ使用が推奨されるかもしれないが、ここでは身の安全を確保できる時にのみ使用されていた。

理由は簡単だ。体が燃えているのだから、水を被ったら確かに炎は消せるだろう。だが、問題はその後。水を被ったら最後、後は冷気で体が凍りついてしまう為仲間から確実に助けてもらうことができない場合は通常は使用されない。


今、下にいるのは囮役だけ。助けが来る見込みはゼロに等しい。


急速に奪い取られていく体の熱に、凍えそうな冷気が残されていた体力を奪っていく。

体力が尽きる前にとありったけのポーションを使用するが、明らかに量が足りない。まだ待ったままだった剣を支えに、残された右足とポーションで回復したばかりの左足で踏み止まり、その場から起き上がるだけで精一杯だった。

再び強い殺気を感じ、睨みつけるように空を仰ぐ。目の前に迫るのは、あちこちから血を流してもなお怯まない巨体をもったブラックドラゴンの、大きく開いた真っ赤な口。


ーーーその巨大な口の奥から、再びユラリと炎が蠢いた。


「トドメを刺されたらまずい···!!射撃用意!!」


フィンが叫び、囮役の隊員が1人グレンの元へと駆け寄った。だが、このたった数十秒の短い時間で形勢は逆転したとも言える。

こちらに気を取られれば、また負傷者が増えるだけ。だからこそ、体に鞭打ちあらん限りの声で叫んだ。


「個ではなく勝利を優先しろ!」


たかが自分1人のために勝利を逃す事など許されない。そんな事で勝てるほど、戦闘は甘くない。

皆、頭のどこかではグレンが叫ぶことが間違っていないのだと分かっていた。緊急用の魔道具は、使い切りだ。もう一度ブレスを食らったら、避けることもままならないあの状態では、その身を焼かれて彼は死ぬだろう。


ーーー皆、分かっていた。


だが、理解と覚悟、そして助けたいと思う気持ちは別のものだと言うことも。


「だからって···グレン隊長を見捨ててまで勝利を得るわけにはいかないのよッッ!!」


ーーー私は大丈夫です。行ってください、グレン様。


なのに、なぜ。

こんな時に、彼女の言葉を思い出すのか。


ーーーグレン様、どうかお気を付けて··· 


泣きそうになるのを、必死に堪えていた事。死なないで、行かないでと決して口にしなかった事を、わずかに震えた手が伝えていた事も。


君からの想いが、自分の思い違いではないのなら。


(まだだ。こんな所で死ぬ訳にはいかない!!)


ブラックドラゴンがブレスを吐かぬうちにと、皆が皆、彼を救うことだけを考えた。

囮役は手持ちのポーションを頭から被って傷を癒やし、指で蓋を開ける時間すら惜しんで噛みちぎってポーションを飲み、その足や翼に剣や槍を突き刺した。

まだいける、まだ隊長を救える。まだドラゴンはブレスを吐いていない。ブレスを吐くのには、数秒の時間が必要なのだから。


「総員、砲撃開始ーーーッ!!!」


今までで1番の、火花が空に咲く。

地鳴りのようなそれがドラゴンの背に届いた時、敵がついにその砲撃に耐えきれなくなったのか、ふらりと体勢を崩した。


その隙を見逃さず、残されたわずかな体力を全て振り絞り、上へ上へと飛び上がる。ドラゴンは体勢を崩し、溜めていたブレスが吐けなくなったのにも関わらず、こちらへと向かってきた。


まるで自分だけは許さないと言わんばかりに。


敵の頭を蹴ってさらに飛び上がり、ありったけの力を込めて先の砲撃で焼け焦げた翼を切り刻む。


「ギシャアアアアアッ···!!!」


度重なる砲撃と与えられ続けた傷で脆くなっていた翼は衝撃に耐えられず、ついに切り飛ばされた。

翼を失ったドラゴンはその身を空中に留めることが出来ず、囮役がいる雪の地面へと吸い寄せられるように落ちていく。

だが、それはこちらも同じ事。

再び受け身もとれずに体は雪の地面に叩きつけられた。ドラゴンが落ちたすさまじい衝撃が地面にも伝わり、痛みで呼吸が止まりそうになる。


「グレン隊長ッ!」


囮役をしていた1人の隊員がこちらへと駆け寄り、バシャリとポーションをかけた。


「ぐっ···ドラゴンはっ!?」


そう叫ぶが早いか、駆け寄ってきた隊員が魔道具を発動させて水の塊、バリアのようなものを作る。


「衝撃に備えてください!!」


ーーーードォオオオオオンッ!!


鼓膜が破れてしまいそうなほどの音と衝撃が、バリア越しにまで伝わってきた。ビリビリと伝わるその衝撃に、バリアが破れてしまいそうな勢いで揺れ動く。

反射的に耳を塞ぎ口を開いたが、おそらく何もしなかったら鼓膜もいっていたかもしれない。

揺れと衝撃が収まったあと、パチンとバリアが弾け飛んだ。


真っ白な雪の上に、力無く項垂れたまま横たわるブラックドラゴン。ブスブスと上がる真っ黒な煙と地面が抉れているのを見る限り、先程の衝撃はきっとありったけの砲撃を打ち込んだのだろう。


だが、まだその体は消えていない。


まさかこれでも死なぬのかと思った刹那、ドラゴンはついに崩壊した。

ズブズブと、解けるようにその黒い体は焼け焦げた雪へと消えていく。それを見届けた後、なんとか剣を支えに身体を起こした。


「ブラックドラゴン、討伐完了!!」


その声と観測隊の残存0の報告に、皆が一斉に大きな歓声を上げた。

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