表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奪われた冠  作者: 彩雅
73/98

73転移魔法陣

ぼんやり、と意識が浮上する。何かが体にかけられているような感覚と、頭の上には少し硬めの枕のようなもの。感じたことのない感触に不思議に思いながら目を開ける。

眼の前でパチリ、と爆ぜたものは焚き火だろうか。


「···?」


今はどういう状況だっただろう。寝起きのままの視線だけを持ち上げると、見慣れない壁が目に入った。

(どこの壁かしら?)

そのままゆっくりと上に視線を動かすと、端正な横顔に黒い髪が目に飛び込んでくる。それがどういうことなのかを理解した時、私の意識は一気に覚醒した。


「グレン様っ···!?」


その声に、アメジストの瞳がこちらを向く。

「おはよう。少しは眠れたか?」

「お、おはようございます。申し訳ありません、お膝をお借りしていたのですね。その、グレン様の足は大丈夫でしょうか」

「気にしないでくれ。君が体を休ませられたなら良かった」

どのくらい寝ていたのかは分からないが、きっと足は痺れているだろう。急いで身を起こすが、恥ずかしさのあまり彼の顔を見られない。

(膝枕、と言われてるものよね?それもしていたのではなく、されていただなんて)

「っ、」

思わず顔に熱が集まるのが分かる。

「ヴェリア嬢?」

「い、いえ。どのぐらい寝ていたのかと···」

そう言いながら気恥ずかしさを抑えてグレン様の顔を見ると、その顔色はどこか青ざめているようにも見えた。


「···グレン様?どうされたのですか」


「···あ、あぁ。いや···」

「何かあったのですか。顔色が···良くありません」

「···君が寝ている間、ここに書かれていた言葉を読んでいたんだ」

「言葉というと、壁の古代文字の事でしょうか?」

こくり、と彼が頷く。

「だが、何箇所か読めないところがあってな。全てを解読はできなかったんだ。···苦手だと言わず、勉強しておけば良かったと後悔したよ」

「あの、どの部分でしょうか。私も少しなら解読を手伝うことができるかもしれません。全てを読めるとは限りませんが···」

「起きて早々悪いが、手伝ってくれるか。···ここに書かれている『痣をもつ子供』というのに、心当たりがあるんだ」

「え?でも、ここに書かれているのは···」

儀式のやり方、ではなかったのか。

「まさか、」

ここに書かれている儀式が、実際に行われて痣を持つ子供が生まれたと言うのか。慌てて儀式のやり方が書かれている壁を探し、必死に読み進める。そこに書かれていたのは、この儀式を行う際の『贄』となる膨大な数の人の事だった。


「···何十···いえ、何百もの贄が必要と···書かれています。まさか、そんな数の人を殺めてまで···?そんなことが誰にも怪しまれずにできる人など···」

本当に、存在するのだろうか。だが、グレン様が嘘を付く理由は無い。だとすれば、考えられるのはただ2人だけ。


ーーー国王陛下と、その后である人だけだ。


その事実に気がついた瞬間、ドクリと心臓が大きく脈打つ。

「俺が昔、ドラゴンと対峙した時。幼い殿下が同じ部屋にいたんだ。首元には包帯を巻いていて、そこからわずかに痣のような物が見えた。そして、その時ドラゴンは殿下を連れ去ろうとしていたんだ」

「ドラゴンが殿下を連れ去る···?で、でも殿下の首に痣なんて見たことがありません。どのあたりにあったのでしょうか」

「···今の殿下には、首元に痣はないのか?位置としては、このあたりだったはずだが」

彼の指がさしたのは鎖骨の上、だいたい喉仏の横辺りだろうか。だが、思い出してみてもそんなところに痣があった記憶は無かった。

「そんな場所にあるのなら、服でも隠せるものではないはずですよね。なら、痣はどこへ···?」

何か読めていない部分に答えが隠されているかもしれない。そう思った私は、始めから壁の文字を読んでみることにした。

「グレン様、最初からこの文字を読んで見ればもう少し何かが分かるかもしれません。読めた部分を読みながら教えていただけませんか。私が補足します」

「分かった。ならここから」 

痣を持つ子供の作り方。ここで言う痣とは、魔物の王たる証のこと。

「ええと···魔物の王は男しかなることはできず、女はなることができないため儀式を行い生まれるのは必ず男である。この儀式を行うためには、数百の生贄が必要。この痣は8歳になるとその意味をもち、1度仮死状態になる。その際に森へと連れてこなければいけない。それを破れば、その痣をもつ子供が住む場所は魔物に滅ぼされる。」

「···だから、あのドラゴンは殿下を連れて行こうとしていたのか?」

「そう···なのかも、しれません」

「なら、今までに倒してきた魔物も、全て王都に行こうと···俺達がそれを阻止していたから、魔物もここを崩そうと躍起になっていたのだろうか」

だとすれば、グレン様が今まで20年もの間ここを守り続けてきたのは。

(この儀式が行われたせいなの?どうして···)

「······」

今までどれだけの人が魔物との戦いで命をかけて戦い、犠牲になったのだろう。あの時連れて行ってもらったお墓には、きっと沢山の人が眠っているはずだ。


ーーーそれが全て、王室のせいだったなんて。


王都にいた頃、殿下に少しでもよく見てもらおうと私は必死だった。でも今考えれば、どうしてあそこまで必死に身を削って、心無い言葉に耐えてまで努力していたのか、もう分からなくて。

(私の10年は···なんだったのかな)

目を瞑り、とにかく今は目の前の文章を読むほうが大切だと自分に言い聞かせて雑念を振り払う。

「続きを読みますね」


ーーー魔物の森に置かれた魔物の王は人間の皮を捨てることになる。


「···人間の、皮を捨てる?これは、どういう意味でしょうか」

「なにかしらの比喩表現なのか、本当に起こることなのか。どちらにせよ、痣があれば人間としては生きていけなくなるのだろうな」

「だとしたら、殿下はなぜ普通に暮らすことができているのでしょうか」

「···今、痣がないのであれば何かしらの方法を使って痣を引き剥がしたのだろうな。結局それをどうしたのかは分からないが、何かしらの物に留めているのか···もしくは別の人に移したか。考えられるとしたらそのどちらかだろう。魔物の王というのが何かよくわからないが、何かしらの情報はあるだろうか?」

「待ってくださいね。ここの2つの壁には儀式の内容しか書いていないようですから、違う壁かもしれません」

そう言って、今まで背を預けていた側の壁を見る。上の方から言葉を辿ると、魔物の王についての記載があった。だがその壁は風化しているのか一部崩れている箇所があり、全てを読むことはできそうにない。

「ありました、ここです。でも、全部は読めそうにないですね···読めるところだけ読んでみます」

「あぁ。ありがとう」

「ええと···魔物の王について。魔物を統一する者で、300年に1度儀式を行い作られるもの。···元から存在するものではなく、偶然作られたもの···?」

「偶然作られた?」

「は、はい。そう書いてありますが···魔物の王、というのは元から存在していたものではないようです。崩れていて読めない箇所もありますが、かつて昔、魔物を崇める宗教のような物が存在していたようです。その宗教が悪だと言われ滅ぼされた際、何百もの信徒が犠牲になったと書かれていますので、それが儀式の形式になったのでしょうか···?その後、教祖が魔物の王になって復活したのだと書いてあります。肝心の魔物の王と呼ばれる存在が復活した後に何をしたのかの部分は欠けてしまっているようですね」

「そうか···元の出来事を考えると、儀式というよりも呪術に近いのかもしれないな。この文字を書き記した人物も気になるが、壁が欠けてしまっている以上、これ以上の情報は望めないだろうな」

「そう、ですね」

どこか重たい沈黙が続く。儀式というよりは呪術に近い、というグレン様の言葉に黙り込んでしまった。もしもそんな中で生まれた存在なのであれば、同じ人間でありながら自分達を滅ぼした存在として、人間と敵対している存在である可能性が高い。

「生まれるのが男性であることも、元になった教祖の方が男性だったからでしょうか?」

「おそらくそうだろうな。これがいつの話なのかは分からないが···こんなところに儀式のやり方が書いてある祠がある以上、ここの近くに宗教団体が住んでいたのか、もしくはここに···魔物が出る場所に、王となり移り住んだのか。全ての信徒を滅ぼすことは難しかっただろうから、難を逃れた信徒がこれを書き記したという可能性もあるが。なんにせよ詳しいことは分からないが、これ以上の情報は無さそうだしそろそろ出発しようと思う。···ヴェリア嬢、ほとんど1人で解読させてしまってすまない。くたびれてはいないか?」

「はい、休ませていただきましたので大丈夫です。···あ、」

「どうした?」

「い、いえ。そういえばもう一面の壁を読んでいないと思いまして」

「あぁ、言われてみればそうだな」

そう言って2人揃って最後の壁に目をやると、そこには文字はほとんど無く代わりに不思議な模様が描かれていた。だが模様というよりは、魔法陣のようにも見える。

「これは···何かの魔法陣のようなものにも見えるな。」

「そうですね。何の魔法陣でしょうか···?」

壁に書かれた文字を見ると、聞き覚えのない文字が書かれていた。だが、転移という文字があることからその聞き覚えの無い文字はどこかしらの場所を指しているのではないかという考えに思い当たる。

「これは、転移魔法陣のようです。ただ、転移できる場所がどこなのかまではよく···おそらく古い地名か町の名前なのかもしれませんが、聞き覚えが無くて」

「転移魔法陣か···仮の話になるが、もしもここを信徒が寝床としていたのなら、当然食料も必要になってくる。その食料の確保の為の転移魔法陣と考えれば、砦に行ける可能性があるな」

「え?」

「昔、ここに来たばかりの話になるが、砦の辺りには町のようなものがあったらしい名残のようなものが見受けられたんだ。名残と言っても雪を掘った際に家の残骸のようなものがいくつか見つかっただけで、いつ滅んだものかもまったく分からなかったが」

「この辺りに、町があったのですか?」

「おそらくだが。まぁ、そもそもこの転移魔法陣がまだ生きているかも分からないが···」

そう言ってグレン様が壁に触れた時。唐突にその転移魔法陣は光を宿し、一瞬で私達を飲み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ