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奪われた冠  作者: 彩雅
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5.思考の海

誤字脱字報告、ありがとうございます!

読んでくださる方がいると思うと、とても嬉しいです。

風を切る音が聞こえなくなり、水の中へと引きずり込まれる。

水を含んだ服は重たく、どこまでも沈んでいくような感覚に陥った。

(苦し、い)

だが、息を吐いてしまったらおそらくこのまま死んでしまう。

(人間の体は浮けるのだと聞いたことがあるわ。大丈夫、息を止めていればきっと浮けるはず…!)

ふっ、と力を抜くと体は縦ではなく横に浮かび上がるような感覚があり、アリスは必死に体を横向きにしようと腕を動かす。

すると、ぷかり、とほんの少しだけ顔に空気が当たった。

(息が…できる)

頭上には、満点の星空が拡がっていた。

「…綺麗」

ゆっくりと、体が流されていく。

色々な考えが浮かんでは消え、結局考えるのはマリアナが言っていた言葉。


『あれは断罪イベントだからね。あなたは何も話せないようになっているのよ。』


『だって、ストーリーはどう進むのか決まっているんだもの。お芝居と同じよ。ただ、立場は逆なんだけどね?』


『あなたは何も苦労しなくても、幸せが自動的に手に入るようになっているんだもの。そう、きまっているストーリー通りにね。』


(つまり、元から私の運命は、人生は全て何かに決められているというの?)

私が自分の意思で『話せなければ』それは決められた出来事のようなもの。そういうことなのだろうか。

(…だとしたら、私はどうすればいいのかな)

これから先も、このような事がたくさん起こるのだろうか。

「…嫌」

私は、生きているのだ。自分の意思もある。なのに、何かに決められた行動しかできないお人形だったの?人形なんかじゃない、と自分から叫んだはずなのに。

(私の未来は…どこまで決まっているのだろう)

これからもずっと先の未来―もしかしたら死ぬときまで、全て決まっているのだろうか。だとしたら、どうしたらその決まった未来から抜け出すことができる?

決まった形通りの事をしなければいいのかもしれないが、私から見れば何が形通りの事なのか?それの見分けがつかない。

マリアナなら、この後私がどうなったか知っているのだろうか?

(…ううん、彼女はまだマリアナの外伝?とかっていうのを見ていないって言ってたわ)

『外伝』というのが彼女にとって何を指しているのかは分からないが、話を聞いていた限りではきっと『未来に起こる出来事の予測ができるなにか』なのだと思う。

私もそれを見ることができれば1番いいのだろうが、いかんせんそれがどのようなものなのかははっきりしない。それにもしそれがマリアナの手元にあるのだとすれば、見ることはほぼ不可能だろう。

(…そうだ、私が海に落ちた事はどんな風に伝わっているのだろう)

きっと、マリアナの良いように伝わっているに違いない。私なんかが何を言ったところで…

(…いや、もしかして私が生きているのだと知ったら口封じに殺される…!?)

あり得ない話ではない。

もし、マリアナが『自分を海へ落とそうとして、必死に抵抗していたら勝手に落ちていった』などと証言したとしたら?

まったく身に覚えのない毒を飲ませようとした、なんていう事を信じてしまうぐらいだ。私が何を言おうと、全て握り潰されてしまうのではないか?

(…なんとか、家に戻れれば…)

お父様とお母様が、もしかしたら私を守ってくれるかもしれない。


『アリス、何か困ったことがあれば相談するんだよ?』


忙しすぎてこの10年間、ほとんど関わりは無くなってしまっていたが、そう優しく声をかけてくれた、両親なら。

「…でも、マリアナだって…」

あの家族のように慕っていた、優しかったマリアナですらも私の事を疎んでいたのだ。もしかしたら両親も同じかもしれない。

(…ううん、会ってみなければ分からないわ。人の気持ちなんて、聞いてみなければ分からないもの)

どうか、もう一度両親に会いたい。そう願いながら、少しずつ白み始めた空を眺めた。


そして、どのくらいの間、そうして流されていたのだろう。


かろうじて息はできるものの、このまま海の果てまで流され、死んでしまうのではないか、と不安にかられたが、ふとアリスは視界の端に砂浜のようなものを捉えた。

(近い。あそこまでならいけるかもしれない)

大きく息を吸い込み、砂浜のような所へと向かう。泳いだことなどないので酷く難しかったが、アリスは死に物狂いで浜へと向かった。浜へと向かうとだんだんと足がつく深さになってくる。水を掻き分けるようにして陸地へと足を進めた。

「はぁ、はぁ…ゲホッ、つい、た」

ようやく地に足がついたという安堵感からか、急に眠気が襲ってくる。


「…い、おい!そこのお嬢ちゃん!大丈夫か!?」


大きな声がする方にゆっくりと顔を向けると、海で働いている人だろうか?が、こちらの方に慌てて走ってくるのが見えた。

「白い髪…おい、もしかしてこの女の人じゃないかい?さっき、どっかの貴族から捜索の騎士が来ていたようだよ」

「そいつぁ大変だ!まだ騎士の人はいるか!?」

「たぶんまだ追い付くはず!ちょっとまってな!」

「おい、大丈夫か!今、騎士の人が来てくれるからな!」

何か必死に叫んでくれているが、頭がぼうっとする。私は助かったのだと、そればかりを考えて―私は意識を手放した。

どうしてアリスが浮き方を知っているのか、と思うかもですが、あくまで創作なので…。

実際着衣水泳ってかなり難しいですが、私は浮くだけならなんとかなりました。先生に教えてもらってですけども。ん?と思っても大目に見ていただけると幸いです。

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