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奪われた冠  作者: 彩雅
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49.星の飛ぶ再開

ルードルフ様と別れた後、ワイワイとあちこちが賑やかな事に気がついた。いつもより高い声は、ここでは聞き慣れない女性のものだと気が付き、どうやら王家の褒美と呼ばれる方々が来たのだと気がつく。あまり顔を合わせないように仕事場に戻ろうとして、パタパタと誰かが走ってくる事に気がついた。

「アリシアちゃん!大丈夫だった!?」

「フィン?」

「ごめんなさい、こんなにあの娘達が早く来るとは思わなくて。書類を置きにいった時にグロリアーナと鉢合わせでもしなかったかと心配になったの。あの子、大体隊長の執務室で待ってることが多いから」

「そうみたいですね。先程お会いしました」

「!?だ、大丈夫だった!?ごめんなさい、やっぱり私が行けば良かったわ···」

「大丈夫ですよ。···確かに会話が通じなくて困るところはありましたが、大丈夫だったので気にしないで下さい」

「そう言われても···グロリアーナは手段を選ばないし、容赦ないところが多いから心配なよ。本当に何もされてない?」

じっ、とラズベリーの瞳がこちらを覗き込む。もう既に痛くないとはいえ、怪我をさせられたのは事実だ。よく気が付くフィンに隠し通せる気がせず、少しだけ怪我をさせられたことを告げる。

「その···手を踵で踏まれましたが、ルードルフ様が治療して下さったのでもうなんとも無いです」

「はい!?踵で踏まれたですって!?」

「は、はい。でも治療してもらったので···」

「そういう問題じゃない!なん···なんっって、とんでもないやつなの!!あの女、八つ裂きにしてやりましょうか!?」

「本当に大丈夫ですから。怒ってくれてありがとう、フィン」

「っ〜〜···もう、本人にそこまで言われちゃこれ以上何も言えないじゃない···」

フィンが溜息を付き、話を切り上げる。

「そうだ。さっきサクリア草の様子を見に行っていた部隊が戻ってきたの。そろそろ隊長も戻ってくると思うんだけど、たぶんグロリアーナと鉢合わせしないように西棟にいると思うの」

「西棟、ですか?」

最初に案内してもらった場所を思い返し、確か見張り台の塔と、ちょっとした倉庫にも使用されている塔だったはずだと思い返した。 

「良かったら行ってみて。あとの仕事は終わりでいいから」

「でも、」

まだ仕事が残っている。そう思って口にしようとすれば、フィンが勢いよく捲し立ててきた。

「仕事中に怪我したんだから、労災よ労災!あなたの仕事はもうおしまい!私はルードルフ副隊長にでも怒られてくるわ!」

「フィンが怒られる必要なんてないです!元はと言えば私が···」

彼女に対して、あんな言い方をしたせいだ。そこまで言わせてもらえず、フィンから何かを口に入れられる。

「むぐ···?」

ころり、と口の中に入ってきたのはレモン味の丸い飴だった。

「貴方とグロリアーナがどんなやり取りをしたかは知らないけど、それは私の責任よ。申し訳なかったわ。···ちなみに、あの子にアリシアちゃんは平民だって誤認させられたかしら?顔が良いからやっぱり無理だったかしら···」

「そういえば、何も言ってないのですが平民だと言われましたね。やっぱり髪の毛の色でしょうか?」

王都の貴族は、基本的に黒や茶色の髪をしている方が珍しく、平民はなぜか黒や茶色の髪色をした人が多いのだ。そう考えると、デルフィランズ様は王都の貴族にしてはとても珍しい髪色をしているのだと気がつく。

「そうだと思う。グレン隊長みたいな髪色をした貴族の方が珍しいからね」

「そうですね···。とにかく、誤認させられてよかった。瞳の色も変わっているので、そこまで心配はしていませんでしたが平民風情が婚約者と言われたので···」


「···平民風情、ですって?」


その言葉にぴくり、とフィンの綺麗に整えられた眉が釣り上がる。

「フィ···フィン?確かに言葉としては言ってはいけない言葉ですが、私に向かって言われる分には···」

「あの女···今すぐズタズタにしてやろうかしら···」

どこからともなく切れ味の良さそうなナイフを持ってそう呟く彼を慌てて止めつつ、なんとかナイフを抑えてもらう。

「あの、本当に、あの人が言った言葉は気にしないで下さい」

「···分かったわ。とにかく今は、西棟に行ってきて?」

なんとか納得してもらえたのか、フィンはそう言って穏やかに微笑むと小さく西棟がある方を指さしたのだった。


サクサクと雪を踏みしめながら、西棟へと歩いていく。砦から少し離れて立っているその塔は、見張り台としての役割を果たしているらしく一際高く作られていた。

ヒュウ、と肌を突き刺すような冷たい風が頬を撫でていく。見張り台は内部から行くには魔物が出る通路からしか繋がっておらず、そこの使用を禁じられている私は入口から出て庭を進んで歩いていくしか方法が無い。

「あれ、ヴェリア様?」

「カークさん。こんにちは」

にこりと微笑んで挨拶をすると、なぜか慌てたように返事が帰ってきた。

「ここ、こんにちは!どこかへ行かれるんですか?」

「はい。西棟に少し用事がありまして」

「西棟ですか?また珍しい所に用事ですね。あ、そうだ!ヴェリア様に会ったらお礼が言いたかったことがあるんです!カロの実のスパイスが本当にすごい効果で!夜勤していても全然寒くないんですよ!本当にすごいですね!」

そう言ってカークさんが嬉しそうに笑っているのを見て、こちらも思わず笑みを浮かべた。実際にこういう声を聞けることがとても嬉しいのだと知ったのは最近のこと。

「お役に立てて良かったです。汗をかきすぎて冷えると言ったこともありませんか?」 

「ないですね!最初はありましたが、うまいこと調節が効いて丁度よい量がわかったので。最近はマフラーにかけるやつもいるんですよ」

「マフラー?」

「首元には太い血管が通ってますからね。温めるとかなり体の冷えが緩和されるので、あまり動かない夜勤とか、見張り番の時は便利なんです」

「そんな使い方もあるのですね。現場の方ならではのアイデアだわ」

「結構皆、思い思いの所に使っているみたいですよ。と、こんな寒い所に呼び止めて申し訳ないです。用事があるんですよね?お気を付けていって来て下さい」

「いいえ、こちらこそお話を聞かせてもらってありがとうございました。ではまた」

ひらひらとこちらへ手を振るカークさんに見送られながら、再び私は雪の中を歩いていく。この時間だからか、あまり外を歩いている人はいない。

(···冷えるな)

はぁ、と吐き出す息は白い。私は流行る気持ちを抑えて雪に足を取られないように気を付けながら西棟へと歩いていった。

「あれ、ヴェリア様?西棟に何か···あ、もしかして隊長ですか?」

「はい。ここにいらっしゃると聞いたのですが」

「足元が悪い中わざわざこちらまでお疲れ様です。寒いでしょう、中にどうぞ。隊長なら3階にいると思いますよ」

「ありがとうございます」

門を開けてくれたお礼をいって、階段を登っていく。今日はよく動く日だな、と思いながら長く続く階段をなんとか3階まで上がりきったところで、私の息はすっかり上がっていた。

「···っ、体力がまだまだ足りてないわね···。本館から移動してきただけなのに」

歩きやすい靴も履いているはずなのに、と相変わらず自身の足りない体力を嘆きながらもなんとか上がった息を整える。

(一目会いたくて急いできたなんて、なんだか子供みたいで恥ずかしいわ)

何度か深呼吸して息を整えてから、雪で乱れてしまった髪型を簡単に直す。よし、と目線を上げてノックをしようとした瞬間、ガチャリと私の方に扉が開いた。

「えっ、」


「じゃあこれをメルに届けーーー」


ーーーゴンッ!!


目の前に迫りくる扉を避ける暇などなく、小気味良い音を立て扉と私の額が勢いよくぶつかった。


「ヴェリア嬢!?」


慌てたようなデルフィランズ様の声が聞こえてくる。ズキズキと鋭い痛みに頭を抱えて思わず蹲ると、勢いよく両頬を両手で掴まれ、上を向かされた。


「大丈夫か!?」


目の前には、会いたくてたまらなかった人がいる。嬉しいのだが、いかんせんぶつかった額が痛くてそれどころではなく。

「は···は、い···少々···目の前に···星が飛んでいますね···」

ここまで息をきらせて飛んできたものの、久しぶりの再開は少々痛みを伴うものになってしまったのだった。

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