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奪われた冠  作者: 彩雅
33/98

33.揃いのブーツ

だいぶ投稿が開いてしまいました。いつもいいねを押していただきありがとうございますm(_ _)m

お話を書く気力に繋がっております。

ドレスの裾を上げ、靴を脱ぎそっと足を出す。ぬるりとした感触と共に靴が脱げ、赤い血が滴った。

(思ったよりも酷くなってしまっているわね)

タオルで1度足の血を拭う。ポーションの蓋を開ければ、中身がチャプリと揺れる。どのくらいかけたら良いのかと悩みつつ、ほんの少しだけ傾けて中身を足にかけると、ピリピリとした痛みと共に足の傷が塞がった。

「···!す、ごい」

まさか、こんな事がおこるなんて。眼の前で起きたことなのだから疑いようがないのだが、なんだかあまりにも想像とかけ離れすぎていて、ただただ驚くことしかできなかった。傷が完全に消えてしまうわけではないものの、塞がる上に血まで止まるなんて。

(これは、王都が知ったら···)

これらは全てこちらに寄越すように、と。そう言われてしまってもおかしくないだろう。そんな恐ろしい考えを振り払うように、ポーションの蓋を閉めるとチャポリ、と薄緑の液体が揺れた。


ルードルフ様も後から靴擦れの事を聞いたのか、気が付かなくて申し訳なかったと謝られた。それからは私がどれだけもう痛くないと言っても信じてもらえず、ほぼ食堂と部屋の行き来のみで、1週間が経過した。その時点でようやく足が治ったとされたものの、新しい靴ができるまでは無理は禁止とのことで、デルフィランズ様の執務室で書類を整理させてもらったり、フィンとお話させてもらったりして再び1週間ほどたち、新しい靴ができあがったと連絡があった。

後から知ったのだが、ここには防具や衣服を届けるのも大変な環境のため、できる限りの必要物品は自作できる職人が在中しているのだそうだ。ただパンプスはここ数年は作っておらず、短期間でまともに作れるか不安だったとのことで新しい靴はパンプスではなく、ここの皆さんが履いているのと同じショートブーツの形をした靴。高すぎず低すぎないヒールはよく足に馴染み、歩き回るのには最適な靴だった。


「ヴェリアさんは足が小さいんだな。シンデレラサイズというか」

「そうなのですか?」

「最初に測らせてもらった際に驚いたよ。こんなに小さな女性用の靴を作ったのは久しぶりなもんで」

そう言ってははは、と楽しそうに笑う年配の男性は、靴職人のモリーさんという方だ。

「履いてみてどこか違和感や痛いところはないかい?」

「えぇ、ちょうど良いです。本当にありがとうございます」

「アリシアちゃんによく似合ってるわ!さすがね、モリー。同じ型でもサイズが違うとこうも印象が変わるのね」

「あぁ、少しだけ形も変えてあるからな。こんな綺麗なお嬢さんに履いてもらえるなんて靴も幸せもんだな」

「いえ、そんなこと···」

他の隊員の方とお揃いの、同じショートブーツ。最近は少しずつ他の隊員の方にも慣れてきて会話をすることも増えてきた。そんな中、なんだか他の隊員の方と同じ物を履いていると自分もここの一員になれた気がして思わず口元が綻ぶ。なんだか嬉しそうね、と話しかけてくれたフィンにその事を伝えた所、頭を撫でられた。

「もう、アリシアちゃんってば可愛いんだからー!!」

「フィ、フィン···せ、せっかく結ってくれたのに髪が···」

「あっ、ごめんなさい!でも大丈夫よ!また綺麗に結ってあげるわ!」

「もう、フィンったら」

「ははっ、ヴェリアさんはフィンと仲良しだなー。本当はパンプスが良かったんだろうが···型も無いし、久しぶりすぎて作れる自信がないんだ。それにここらへんでは爪先が詰まった形の靴はできる限り避けたほうがいいと思う。血流が悪くなって、霜焼けの原因になっちまうからな」

「そうよね、ここでは霜焼けは当たり前のことだけどなっちゃうとかなり厄介だし。色々と考えて結局皆と同じショートブーツになっちゃったけど、気に入ってくれた?」

「はい!モリーさん、こんなに素敵な靴を作って下さってありがとうございます」

「いやいや、ずっと野郎の靴しか作ってなかったから新鮮で楽しかったよ。パンプスの変わりと言ったらなんだが、予備変わりに色違いも作ってみたんだ。いつも色んな色のドレス着てるから何色か合ったほうが良いんじゃないかってフィンからも言われてたしな」

「あら、その私の意見も汲んでくれたの!」

「そりゃー、隊のファッション専門みたいなモンだからな、フィンは。一応、言ってた通りに材料がある白と焦げ茶、黒とデザインを少し変えて作ってみたけど」

「どれも良いわね!いつもアリシアちゃんが着ているドレスにもよく似合いそうだわ」

今履いていた焦げ茶のブーツの他にも2足も出てきて、思わず目を瞠る。

「こんなに沢山いただいてもいいのですか?まずは一足だけと思っていたのですが···」

「お洒落は足元からよ。色が違うだけで印象は全然変わるし、ここは歩く距離も多いし、1つだけだと消耗も激しくなるからね。適度にいくつかの靴を履いたほうが長持ちもするから」

「ヴェリアさん、こっちの白と黒も履いてもらってもいいかい?」

「はい」

「どうかな。焦げ茶のブーツと同じ規格で作ったものだけど、材料が違うからきついとかはないかい?」

「きつくはないですが、白いブーツが1番履きやすいです」

「それは柔らかめの素材で出来ているから馴染むのかもな。黒はハリがあって固めだから、少し馴染むまで時間がかかるかもしれない」

「材料が違うとやっぱり履き心地も変わってくるわよね。うーん、やっぱり青いドレスとかに合わせる紺とかも欲しい所だけど···」

「紺なぁ。本当はカラーも作れれば良かったんだが、材料が無くてな···染料を集めようにも、最近は敵襲も多くて取りに行けなんだ」 

「敵襲が増えている、のですか?」

「ん?あぁ。なんでなんだかなぁ」

「時折増える時期があるのよね。理由は未だに分かってないんだけど」

「······」


そんな出来事があり、私はあの後靴擦れをすることなく過ごしている。今日はその中でも1番よく履く白いブーツを履きながら、デルフィランズ様の執務室で書類を仕分けながら溜息を付いた。まだ始めたばかりなので、くたびれたわけではない。そうではなく、心配な事があるのだ。


「···あれ以来、一度もデルフィランズ様にお会いできていないわ···」


彼は本当に驚くほど多忙な方だった。本人からも忙しい、ここにいる方が珍しいのだと言われてはいたが、まさかこの2週間、1度も姿を見ることすらできないなんて。ルードルフ様もかなり多忙なのか、この2週間で数えるほどしか顔を合わせていなかった。


『時折増える時期があるのよね。理由は未だに分かってないんだけど』


あれから何度も敵襲を知らせる鐘の音が昼夜問わずに響き、その度にどんどんと不安が募っていく。


ーーーどこかにお怪我はしていないだろうか。寝不足になっていないだろうか。きちんと食べれているのだろうか。無理は、なさっていないだろうか。


何かもっと、自分に出来ることはないのか。デルフィランズ様は、仕分けてくれて助かると言ってくれたが、本当にこんな事で何かの助けになれているのかもわからない。そのことが酷く不安で、たまらなく歯痒かった。気が付いたときにはカサリ、と最後の1枚の紙が音を立てる。

「あ···」

今日の書類はそんなに多く無く、あっさりと仕分け作業が終わってしまった。

「終わってしまったわ。まだ夕食···には早すぎるわね」

ゆっくりと椅子から立ち上がると、机の上に並べられた書類が目にはいる。だが時折仕分けた書類が減っているのを見ると、時々デルフィランズ様がこの部屋に帰ってきているらしいことだけはわかっていた。それが夜なのか、朝なのかはまったく分からないのだが。

少しずつここの暮らしにも慣れてきて皆にも優しくしてもらっているが、私は本当にここでこんなに幸せに暮らしていいのだろうか、と時折どうしようもない不安に駆られる時がある。

何もできることもなく。戦う戦力になるわけでもなく。ただひたすらに守られ、幸せに暮らさせてもらっている、など。

(私ができることなんてたかがしれているかもしれないけれど、それでも何か力になれることはないかしら)

その時、急にガチャリと扉が開いて書類を手に持った人物が入ってきた。

「っと、ヴェリア嬢か!なんか久しぶりだな」

「ルードルフ様!」

「書類整理か?いつもありがとな。すげー助かってるよ」 

「いえ、そんな。···あの、その書類は?」

「あぁ、これ?要望書だな。最近ますます寒いせいで霜焼けになる奴が多いみたいで···。痒みから集中力が切れることもあって、かなり深刻になってきてる。ポーションでは治らんし、どうしたもんかっていう要望書なんだけど」

「そうですか、霜焼けに···ちなみに現在の対処法はどのようなものなのでしょうか」

「今はとにかく温めるしか方法はない。特効薬は王都にはあるけど、こっちでは手に入らない薬草を使ってるからな···何か似たような効果がある薬草があるといいんだが」

王都での特効薬。それはおそらく、少し前に開発された塗り薬のことだろう。確か原材料はケール草だったはずだが、ケール草は寒さに弱くここの気候では育たない。確かもう一つ候補があり、そちらのほうが効果が高かったとの話が出ていたはずだ。

(あれは、なんだったかしら···)

確か上がってきた研究結果の書類に1度目を通した事があったはずだ。

必死に記憶を辿り、そのもう一つの薬が没になった理由と原材料の名前を思い出そうとする。確か没になった理由がその薬草は雪の中でしか育たず、極度の寒さの中でしか育たなかった為、王都ではその材料を定期的に供給するラインが確保できず、作ることが不可能に近いとのことで破棄されたはず。

(なら、寒さが厳しいここでなら採れるかもしれないわ。名前は···確か···)

「!あの、ここでフェロール草は採れないでしょうか」

「フェロール草···って、あの白っぽくて先っぽがくるくる丸まってる草のことか?あれなら雪を掻き分ければそこら中に生えてるけど···」

「それを原材料にすれば、霜焼けの薬の特効薬が作れると思います」

「!?ちょっとその話詳しく聞かせてくれ!というかヴェリア嬢の時間があるなら今からポーション塔に行こう!」

今から!とルードルフ様は驚いたような顔のまま私の手を取ると、そのまま引きずられるような勢いでポーション塔へと走っていこうとし、途中で出会ったフィンに怒られたりもしつつ、未だに1度も行ったことのなかったポーション塔へと私は足を運んだのだった。

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