27.毒羽の戦闘
「ハーピー、来ます!後方は遅れて1400!」
観測隊の声に合わせ、一斉に並んだハーピーの群れに大量の銃弾がばら撒かれた。
「ギシャアアアアァ!!!」
銃弾の雨に鮮やかな鮮血が舞い散る。人間と魔物では種族が違うが、どちらも同じく血は赤い。魔物も生き物である以上、同じ血が流れているとでも言いたいのだろうか。銃弾に当たったハーピーの口からは、艶やかな見た目とはそぐわない獣のような咆哮を響かせながら、羽を広げてダーツのように飛ばしてきた。亜種の為、毒持ちの羽がぶつかった先はグズグズと溶け落ちていく。
「うぐっ···!」
運悪く毒羽が深く刺さった者もいるのか、ポーションを被りぐったりと壁に身を預けていた。あぁなるともうこの戦いには参加できなくなる。本人もそれを悟っているのか、建物に身を隠しながらゆっくりと後ろに移動していた。
通常種と異なる亜種の毒羽は酷く厄介だ。通常種であればそのまま戦闘に戻ることはできるが、亜種の毒はそうもいかない。放っておけば致命的な後遺症が残る危険性もある。唐突に遭遇したのではない限り、他に任せて退避する方が賢明だ。
建物や盾で毒羽にぶつからないよう防ぎつつ、更に銃撃を加える。銃弾が休むことなく打ち出されるため、空は不利と悟ったのか一斉に群れが急降下して地面へと降り立つ。そこには、グレン率いる撹乱する役目の隊員が剣を持ち、待ち構えていた。
遠くから見ていても見事な剣捌きで、次から次へとハーピーが断末魔を上げて地に伏し、溶け落ちていく。撃ち漏れが無いよう、溶け落ちていかなかったハーピーに狙いを定め、ボウガンを放った。1発、2発、3発。意外としぶといハーピーに4発目を放つ。グチャグチャに溶け落ちたのを視界の端で捉えながら、目と耳が次の報告を拾った。
「第2部隊来ます!」
「火矢、放て!」
言うが早いか、炎が灯された矢が一斉に放たれる。放ったとほぼ同タイミングで氷柱の塊が火矢を放った部隊がいた場所目掛けて突っ込んできた。火矢は氷柱を食い破り、いくつかの塊に別れてバラバラに砕け落ちる。小さくヒェッと声が聞こえたのは、恐らく新人の声だろう。
(まぁ、あのタイミングで怯まず打てたのは褒められるべきだな)
思わず悲鳴は隠せなかったようだが、それは仕方がないだろう。再び毒羽が雨のように飛んでくる。それに混じってバードリアが放つ霰と風もやっかいだ。霰も大きいものに当たると下手すれば意識が飛ぶ事もある。続けて飛んでくる毒羽に当たったのだろう、悲鳴やポーションをかける水音が聞こえてきた。
負けじと銃を構え、ハーピーに向かって無数の銃弾が放たれる。前程と同じくして銃弾の雨が降り注ぎ、ハーピーは再び地へ落下させられたーーーが、一際小さな個体が全ての銃弾を避けきり、空中に浮かんでいた。
こちらを見つめてくる髪の長い、赤い目をした艶やかな女。ぱっと見は美しいが、次の瞬間その顔がニタァ、と醜く歪んだ。その顔はもはや、人間とは大きくかけ離れていてーーーあの顔を見て、美しいなどと表現する奴はまずいないだろう。ぶわりと大きく羽を広げ、凄まじい速さで毒羽を放ってきた。毒羽を建物で防ぎつつ、慌てたような観測隊の声が聞こえてくる。
「ネームドです!他の個体に紛れていたようです!」
ネームドとは、その部隊を率いる群れのリーダーのようなものだ。必ず混ざっているとは限らず、特殊な攻撃を仕掛けてくる奴が多い。でかいサイズもいれば、今回のように小さな奴もいる。
「小さいネームド···厄介な奴がきたな、狙いはこっちか?」
しきりに降り注ぐ毒羽と身を震わせるようなすさまじい咆哮に、顔を顰めつつ指示を出した。
「打ち方止め!身を隠せ!」
凄まじいまでの咆哮に声が届いたかは分からないが、全員引っ込んでいるのでどうやら通じたようだ。物陰に引っ込んでいるものの、毒羽に霰が混じり、凄まじい光景になっていく。
ハーピーのネームド個体には、咆哮で空気を震わせて銃弾や弓矢の軌道をおかしくさせる特徴がある。下手に乱射すると、こちらに跳ね返ってくる時もあるため止めておいた方が良い。こちらが迂闊に手を出せない中、それに乗じてバードリアの氷で作られた分身も次々と吹っ飛んできた。
「···ちっ!」
砕けた破片で頬を切りながら様子を伺うと、ネームドが隙を狙って建物の隙間から一人を掴み、引きずり出した。
「うわぁぁああ!!」
それを見た俺は咄嗟に手に持ったボウガンを放った。身を乗り出した自分に向かってバードリアの分身も突進してきた上に咆哮の余韻のせいで狙いはかなり逸れたが、なんとかボウガンの矢はネームドの足に突き刺さったらしい。
「ギィヤアアアアッ!!!!」
怯んだネームドの鉤爪が外れたのか、掴まれていた猟銃隊の味方が1人、落下していく。顔面に刺さる直前だった氷の分身から腕で咄嗟に庇い、腕に何本か氷が突き刺さった。
「いっ、てぇな···」
ちらりと覗いた下は、もうハーピーの姿はほぼ見受けられない。前程落下した仲間は、下にいたグレンたちから水の魔法具でなんとか助けられたようだった。バードリアの風に煽られ、少し氷付きながらも、ハーピーの数は少しずつ減っていく。
怯みから立ち直ったネームドが、恨みがましい赤い目でこちらを睨み付けーー凄まじい声で咆哮した。
「ギシャアアアアァッッ!!!!!」
「ッ···!!!」
ビリビリと、まるで大地を震わせるかのような大声に、何人か威圧で動けなくなっている奴もいるようだ。その隙を狙ってバードリアの氷の分身が威圧で動けなくなった味方に突き刺さり、あちこちから悲鳴が上がる。上で注意を引いているため、奴の気が下に向かないのが幸いしたのか、最後の一匹に止めを差して上を見上げたグレンと目があった。
(飛ぶ気か。なら俺が気を反らしますかね)
物陰に引っ込んでいた所から、分かりやすく飛び出てハーピーにボウガンを向けた。宙に浮いていたハーピーの艶やかな女の顔が、気味が悪いぐらいに嗤う。霰は氷柱へと形を変え、毒羽は一斉にこちらへと飛んでくる。
瞬間、ハーピーの背中まで一気に飛び上がったグレンが突き刺した剣が、胸から生える。
唖然とする女の顔が苦痛に染まった瞬間、空中に真っ赤な血の花が咲いた。
「銃弾、放て!!」
それを確認してから周りに浮いていたバードリアを片付けるための指示を出し、地面に腕輪をつけた掌を叩きつける。凄まじい勢いで目の前に壁が出来上がり、氷柱や毒羽はそれに突き刺さった。いくつか羽が腕を掠った為、中和のポーションをさっさとぶっかけて消毒しておく。
パンパンッ、と軽い音が響いてバードリアの断末魔が聞こえてきた。
「討伐完了、だな」
バラバラに目の前の壁が崩れ落ち、霰や毒羽が溶け落ちていく。観測隊の残存0の報告に、俺はグレンを見下ろすと、ハーピーの血を被ったせいで凄まじく赤いため怪我はどうか分からないが歩いている姿が目に入った。
その姿を見てほっとしたのもつかの間、バタバタと駆け寄ってくる足音が聞こえる。
「た、隊長!怪我は···!」
「大丈夫だ。俺はなぜか土属性とは相性が良いからな」
火とはからっきしだけど。内心で悲しいことを思いつつ、部下に腕輪を見せる。それは、土の壁を作り出す魔法がかかった腕輪だった。これは誰でも使える魔法具だが、土属性と相性の良い自分が使用すると、この壁がかなり固くなる為、よほどのものでない限りは貫通しない。
(まぁ魔法具も絶対ではないから、あまり無理はできないけどな)
なんだったら、グレンの一撃も受け止められたことがある。3発目で壁はぶっ壊れたけど。
「総員撤収!怪我がある場合は今すぐポーションをかけて中和しておけ!」
グレンの声が下から響いているところを見ると、どうやらあちらも無事なようだ。落下した1人も、肩を借りながらこちらへと歩いてきている姿が見える。
皆あちこちに怪我を負ってはいたが、命に関わるほどの重症を負った仲間は1人もいないようだった。序盤で毒羽が深く刺さった奴も大丈夫だと連絡が来て、
ほっと息を吐く。
一方自分は氷が腕に刺さったおかげでポタポタと血が滴っていたが、怪我してるじゃないですかー!と部下に泣きながらぶっかけられたポーションにより治癒された。戦闘中は感じなかったが、傷に染みてなんとも地味に痛い。
「隊長、いくら強いからって無理しちゃだめですよーっ!」
「はいはい、ありがとな」
ーーー皆、無事で良かった。
そう思った俺はようやく、気を抜いたのだった。




