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奪われた冠  作者: 彩雅
25/98

25.懺悔と祈り

2人がバタバタと部屋を空にした後、私は1人部屋の中で俯いていた。誰もいない部屋に、部屋の主を見送る自分。私は頭を下げて皆の無事を祈ることしかできず。

(···マリアナに、言われた通りだわ)


ーーー貴女は誰のルートでも自分は安全圏にいて、必ず相手だけを送り出していたものね。

 

「···自分は安全圏、か」

この国を支えることが生まれた時から決まっている殿下ほどではないが、私も婚約者としてこの国の未来を支えるために勉強をしてきた。その自分の身分のこともあり、そう簡単に気持ち1つで動けばどれだけの人に迷惑をかけるのかを考えればーー不用意に動くことができなくなっていた。

その考え方を、雁字搦めの生き方を、『自分から動かない』と表現するのであれば、確かにそう見えるかもしれない。結局なんだかんだそれらしい言い訳をして、怖いところに行きたくないのだろうと言われればそれまでだ。

でも、それでも。見送ることしかできないのは、とても辛い事だ。ハーピー討伐時にいってきます、と言った彼等を見送り、冷たくなって帰って来た事。彼等にも無事に帰ってくることを祈り、待っていた人がいた。恋人、両親、子供、家族。人は、色んな人に支えられて生きている。人1人の人生というものは、決して軽いものではない。

亡くなってしまった彼らは、どれだけ怖かっただろう。王都に帰ってきたかっただろう。どれだけ、死にたくなかっただろうか?後悔は尽きることなく、悔やんでも悔やみきれるものではない。


ーーー自分の身を危険に身をさらす真似なんて、できやしない。相手が死んでしまうことだってあったのに、貴女は呆然とするばかりで。


(···相手が、亡くなる?)

その言葉を思い返し、ぞくりと背中が寒くなる。お二人は強い。そんなことがあるわけがないと思ってーー前程思った事を思い出す。今まで会話をしていた人が、笑っていた人が、明日も生きている保証なんてどこにもないのだと。


ーーーなら、ここで彼らを心配して付いていくのが正解なのだろうか?


なぜかそんな考えが頭に浮かんでくる。私はゆるく頭を振り、その考えを頭の中から追い出した。

(ううん、違うわ。行っても私には何もできない。皆に迷惑をかけるだけよ)

私に何か才能があれば別かもしれないが、私にはなにもない。戦場ではきっとただの的でしかないだろう。

安全を確保された場所に留まっていれば、少なくとも戦っている人に迷惑をかけることはない。突飛な行動は、きっと死を招く。

私にとって魔物は非日常ーーーデルフィランズ様に言われた通りだ。だが彼らにとっては日常的なものであり、私も慣れていかなければいけないもの。だが実際に知識しかなく、魔物を見たこともない私が今できることなど何もないだろう。

(私には、2人のお仕事を手伝うことはできない。なら、別のところで力にならなきゃ)

それでも何かしなくてはいけない、力にならなくちゃーーーこんな風に思うのは、デルフィランズ様が婚約者だからだろうか。それとも、過去の自分と時折重なって見えるからだろうか。

(···どうなの、かしら)

まだよく分からない。もしかしたら、デルフィランズ様に対してこんな私と婚約を結んでくれた、何も関係のない彼に私のせいで迷惑をかけているという負い目があるからかもしれない。

自分でも、自分の気持ちが分からないまま。私はトレーを手に取ると、一度部屋を出てお皿を片付けるために食堂へと向かったのだった。


お皿を片付け、再びデルフィランズ様の仕事部屋へ戻ってくる。本人がいないのに、いくら私室ではないとはいえ勝手に入るのはなんだか抵抗があったが、後で謝ろうと心に決め扉を開いた。

私は改めて机の上を見渡す。机の上には山になっている書類の束。処理が済んだものが床に山になっている物のようだ。

1度机の上から書類を処理済みの物と混ざらないように他の机に置き、上から報告書、要望書、申請書や期限が近いであろう重要そうな書類に分けて揃えていく。その中でも期限が近そうな物は分けておき、上の方に置いた。

「···要望書、これは申請書。これは報告書ね。何か箱があればもう少し見やすいのだけど···」

生憎、手軽に手に入りそうな箱はなかった。私は箱を早々に諦め、仕分けをしていく。

そして、どのくらいたっただろうか。ふと時計を見ると、すっかりお昼を回っていた。仕分けを大方終え、同じもので纏められた書類の束を見ながら軽く目を瞑る。

まだ、デルフィランズ様達が帰ってくる様子はない。


「···いつ、帰ってこられるのかしら」


どうか、どうか無事でありますように。不安な気持ちを追い出すように1度手を止め、息を吐いた。一度集中が切れてしまえば、頭の中は雑念で埋まってしまう。デルフィランズ様の事。ルードルフ様の事。私のこれからの事。そして、やはり最後に思い出すのはマリアナの事だった。


ーーー私ね、何回このゲームをクリアしてもどうしても、主人公であるアリス・ヴェリアが好きになれなかったの。どのルートをやっても、あなたはただ流されるばかりで、自分から行動しようとしない。


『どのルートでも』。『何回このゲームをクリアしても』。『主人公であるアリス・ヴェリア』。

マリアナの言葉をそのままの意味で捉えるなら、この世界自体を彼女は何らかのゲームとして認識しており、そのゲームの主人公が私だと言っている事になる。


「···駄目、やっぱり全然意味がわからないわ···」


そもそもここは現実で、ゲームなどではない。それに私が知っている小説や物語に出てくる物語の主人公は、どれだけ怖くても勇気を持って勇敢な行動をして誰かを救うことが、手を差し伸べる事ができる人。

決して私のように悩んでいつまでも前に進めず、同じようなことを意味もなくグルグルと考えているような人間ではないはずだ。だから、きっと今。『このゲームの主人公』は私ではなく、マリアナなのではないだろうかと思う。

(もしも誰かに相談できたら、見方や捉え方も変わるから何か分かることもあるのかな)

だが、相談すると言っても一体体誰に?そう考えてふと護衛騎士だったテオの顔が浮かんだ。

彼はあの後、一体どうなってしまったのだろう。私の護衛騎士に付いていたことで、彼に何か不利益がなかっただろうか。

(もし、私に加担していたなんて虚偽の疑いをかけられていたら···?)

すっと背中が寒くなる。もう私には確かめる術などないのに、どうしようもないほど不安に駆られた。王都に残してきてしまった人の事。今、戦っている彼らの事。


「どうか···どうか、無事でいて」


ただそうやって祈ることしかできない私は、やはり主人公などではないのだろう。

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