表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奪われた冠  作者: 彩雅
2/98

2.閉じ込められた部屋

注意:無理矢理しようとする表現あり。

嫌いな方は飛ばしてください。


(…私は、これからどうなるのかしら)

あのまま殿下のご命令ですと言われ、家に帰ることすら許されなかった。それがなぜなのかは分からないが、私は現在、一室に閉じ込められる形でお城に滞在していた。

(お父様、お母様…)

不安から、ギュッと強く手を握りしめる。

(…ルーカス殿下は、辺境伯に嫁げと言った)

辺境伯と言えば、厳しい寒さに魔物の襲撃が激しいと言われた北の国境を守り抜く男性の事だろう。彼についての話は、少しだけ聞いたことがある。彼は恐ろしく強く、どれだけ激しく恐ろしい魔物の襲撃があっても簡単に返り討ちにしてしまうのだそうだ。そして、彼についての1番有名な話は。

「…何をしても、死なない。だから、相手の寿命を吸いとって生きているのだと…」

そんな話、ありえるのだろうか。見た目についても、性格についてもほとんど何も聞いたことがない。ただ、彼が20年以上その国境を守っている事から、もう40代のはずだ。一体、どんな方なのだろう。

不安で胸が押し潰されそうになり、ふと大きな姿見が目に入る。 マリアナとは違う、真っ白な髪。母譲りの青いサファイアのような瞳は、いつもと違いどこか濁っているように見えた。

目の下には化粧で誤魔化されてはいるものの、酷い隈ができてきる。

私はこれまでの十年間、ずっと妃教育を受けてきた。私は優秀では無かったから、他の人よりずっと手がかかると教師から言われてきた為、寝る時間も惜しんで何倍も努力した。

体調が悪かろうが、寝不足だろうが、関係ない。常に、完璧であれと、みっともない姿は晒してはいけないと教え込まれてきたから。今までずっとずっと―殿下に釣り合うために努力してきた。

じわり、と涙が滲む。

「…全部、無駄だったんだ」

どれだけ体調が悪くても、辛くても、弱音なんて吐いたことがなかったのに。

そこへ、コツコツと誰かの足音が聞こえてきた。

(…殿下、かしら)

咄嗟に涙を拭い、軽く身なりを整える。扉は、ノックもなしに開かれた。

「ふん。相変わらず酷い顔だな」

「…申し訳ありません。」

「お前はいつも謝ってばかりだな。お前が愚図なせいで、どれだけ今まで苦労をしたか知らないんだろう?」

「申し訳、ありません。」

感情を出してはいけない。それは長い妃教育の間に、何度も何度も繰り返し言われてきた言葉だった。

「うるさい!その謝ることしかできない役立たずの口をさっさと閉じろ!」

「っ!」

罵られ、身がすくむ。怖い。怖くて、体が震えそうになる。しかし何十年も教え込まれた知識と教育がそれを許さなかった。背筋を伸ばし、毅然とした態度で彼に向かう。

「…殿下。私を一度、家に返してはいただけないでしょうか」

「お前は誰に口を聞いてるんだ?お前はもう私の婚約者ではない。ただの公爵令嬢だ。だから、何をされても文句はないな?」

「え?」

ぞくり、と背中に悪寒が走る。この人は一体、何を言っているのだ?

「お前は前から体だけは良いものを持ってると思っていたんだよ。どうせ『死神』に嫁ぐんだ。死神に寿命を吸われるなり、魔物に八つ裂きにされるなりしてお前などすぐに死んでしまうだろう。それにやつは女に興味がないと聞く。あんな年まで誰も娶らなかったのが良い例だ。だからお前が純潔かどうかなど、死神にはどうでもいいだろう」

「い、や、」

「僕にはもうマリアナがいるが、それとこれとは話が別だからな。お前の純潔を奪ったところで、女と違って誰にバレるものでもないし」

嘲るような笑みを浮かべながら、殿下がゆっくりと近付いてくる。

悲鳴をあげようとした瞬間、声は口にねじ込まれた布で封じられ、腕を痛いほどに捕まれた。

(いや、嫌嫌嫌!!!)

無理矢理ベッドに転がされ、ビリッ!と胸元が破かれ、空気に晒される。

「肌だけは白いな。ふん、中身まで美しいマリアナと違って中身は真っ黒のくせに」

「っーー!!!」

何度も必死に腕を動かし、体を捻って抵抗し、抗った。だが、所詮女の力では男に敵うはずもない。生温かい手が太ももを這いあがっていく感触が気持ち悪くて、涙が溢れる。

「僕に触れられて嬉しいだろう?僕も良い練習台がいて嬉しいよ。クソッ、暴れるな!」

ドスリと鈍い音が響き、私のお腹に拳がめり込んだ。口を塞がれていたせいもあって一瞬息ができなくなり、抵抗していた力が緩む。

「ふん。お前が悪いんだ。ただの練習台のくせに、僕に生意気にも抵抗するから。抵抗しなければ少しは優しくしてやろうと思ったのに。」

練習『台』。彼は、私の事を人間だとも思っていないのかと、目の前が真っ暗になった。

抵抗が緩くなったのを良いことに、ぐい、と無理矢理に足を開かされ、それだけは絶対に嫌だと、渾身の力を込めて暴れる私が、何もかも失いそうになった時。


その行為は扉を叩く音で唐突に中断された。


「殿下、国王陛下がお呼びです」

「父上が?…ちっ、おい、今の事は誰にも言うなよ?あることないこと言いふらされたら、いい迷惑だ。まぁ、お前の言うことなど誰も信じやしないだろうけどな」

ゲラゲラと笑いながら、体が離れていく。バタン!と扉を閉じる音が響き、体の震えが止まらなかった。怖い。怖くてたまらない。

このままここにいたら、今度こそ、私は…。恐ろしい考えを頭から振り払い、胸元を破かれた衣服を手繰り寄せながら私は辺りを見渡す。


ここから逃げなくては。


きっと扉の前には、見張りの騎士がいるだろう。

そのままぐるりと部屋を見渡すと、大きな姿見やクローゼット、続いてバルコニーに続く扉が目に入った。そのまま扉を開けバルコニーに出ると、下を覗き込む。


辺りはすっかり闇に染まり、下は真っ黒な海が広がっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ