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奪われた冠  作者: 彩雅
15/98

15.イレギュラーな出来事

階段を登り終え、自分の執務室の扉を開ける。

一体どれくらいぶりにここに帰ってきただろうか。机の上に溜まった書類を見ながら、暖炉に手をかざして火を入れると、ぱちりと火が付く乾いた音が響いた。

椅子に座り、書類に目を通して期限が早いものとそうでないものを仕分けていく。

「…ルードルフはまだ帰らないか」

小さくそう呟きながらも手は止めることなく、淡々と書類を処理していく。

すると男は、とある書類でピタリと手を止めた。どうやらルードルフからの報告書らしいがーーーそれに目を通す前に酷く賑やかな足音が響いてきたと思ったら、今にも扉が壊れそうな勢いで開かれる。


「グレンッ!!!」


バキッ、ミシッ···。

まるで蝶番が壊れたような、実に不穏な音と共に。直ったばかりだというのにまた壊れたのかと思うと、ため息が出てきた。

「…ルードルフ、扉を開けるときはもう少し静かに開けてくれないか」

「うおっ、すまねぇ!…ってそうじゃない!グレン、ヴェリア嬢はどこにいるんだ!?というかなんでそんな血塗れな格好でいるのか説明しろ!まさかおまえ、その格好で会ったんじゃあるまいな!?」

「…本当に知っていたのか」


『嘘だと思うなら、イバリア様に聞いてみてください!お嬢様の事は彼に頼んだと奥様からそう聞いたのですから!』


ルードルフとヴェリア家に関係があるなどと聞いたことはなかったが、本当に関わりがあったのか。

少し意外に思いつつも、再び口を開く。

「彼女からは俺の婚約者だと話をされた。だが俺には何も話が来てないし、そもそも本物かどうかも分からない。剣を避ける素振りは無かったから、暗殺者ではないと思うがーーー」

「暗殺者!?グレン、おまえ一体何の話してんだ!?書類をだいぶ前に置いておいただろう!つーかヴェリア嬢はどこだ!」

「地下牢にいる。それにこの部屋には、ここしばらく戻っていない」

「ち、かろう…?」

まるで信じられないものを見るかのような目で、こちらを見るルードルフ。

「悪いが、身元が不確かな者の話を信じる訳にはいかない。お前は彼女の顔を知っているか?何かしら彼女だと断定できる要素があればいいが、荷物の中にも特に何も無かった。疑うのは当たり前だろう」

「……え…いや、確かにそうかも、しれないが…」

「俺の対応に何か問題があるのか」

「…グレン」

「なんだ」


「…お前、ヴェリア嬢を見ても何とも思わなかったのか?」


「…?それはどういう意味だ?」

「どういう…って…本当に、本当に何も?何も思わなかった?」

「ルードルフ、言いたいことがあるならハッキリ言え。見ただけで分かると言う事は、彼女の容姿のことか?それとも素性のことか?」

「…綺麗、だと」

「は?」


「ーーー綺麗だと、思わなかったのか?」 


「…何を言ってるんだ、お前は」

この男がここまで酷く狼狽するのも珍しい。まるで焦っているかのようにルードルフは頭を抱えた。おかしい、なんで?と独り言のような言葉を拾って聞き返すも、今はとにかく地下牢にいかせてほしい、俺は彼女の顔を知っている、とのことだった。

どうやら先程の言葉の真意を語る気はないらしい。

(何なんだ、一体。綺麗だと?俺に対して報告するなら殺せなどと言う女に対してなぜそんな感想を抱くと思うんだ)

彼女は見た目だけなら、確かに整っている部類に入るのだろう。だが、それだけだ。それなのに、なぜルードルフはそこに拘るのか。

ルードルフは1度も嘘をついたことはない。だとすれば、彼女の顔が俺の好みだと思ったからこの話を受けたとでも言うのか?

彼女自身が何か訳ありなのは確かだろうが、だからといって曖昧な判断は時に背中から刺されることもありえる。一方的に信頼しろとだけ言われて信頼を置くのは無理な話だ。

「ルードルフ、彼女が彼女であるという証明ができない限りは牢から出す訳にはいかない」

「…荷物にも、何も無かったんだっけ」

「あぁ。王命だと言う話だが、特に書状も無かった」

「…なんで…ヴェリア嬢は…いや、とにかく会ってくる」

「俺も行こう」

「…いや、いい。グレンはここで待っててくれ」

「?」

「いや、シャワー浴びてから待ってろ!!」

「…ルードルフ。なんでお前はそんなに俺に風呂に入れと?」

「いいから!そんな格好で会ったらヴェリア嬢に失礼だろうが!書類仕事は後だ後!!」

「はぁ…分かった。分かったから押すな。浴室に行ってくる」

手を暖炉の前でパン、と打ち火を消す。浴室へと向かって歩くグレンを見ながら、ルードルフは地下牢へと早足で向かいながら頭を抱えた。

「…どうなってやがる。なんかイレギュラーな事が起こっているのか?」

ヴェリア嬢と会ったのにも関わらず、あのグレンの反応だとすれば、一体何をどうしろというのだ。

本人だと証明する物も、婚約を示す物も何も持っていなかったと言うが、そもそもここに辿り着いている以上、ヴェリア嬢本人以外はありえないと言うのに。まぁもう1人一応ここにも辿り着けはする奴がいるが、今その女のことは考えなくていいはずだ。


「…訳が分からん」


だが、まずはヴェリア嬢をあんな寒いところにこれ以上入れておく訳にはいかない。風邪で済めばいいが、最悪凍死してしまう。

酷い扱いは受けていないだろうか。心細くは無かっただろうか。とにかく心配なことしか浮かばない。

流行る気持ちに歩く足が徐々に駆け足になり、ルードルフは考えるのを止めて地下牢へと向かったのだった。

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