13.手紙鳥
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ばさりと言う鳥の羽ばたきの音に目をやると、手紙鳥が頭に降りてくるところだった。もさりとした毛玉が頭に乗っかると実に温かいのだが、手紙が読めなくなるのでやめてほしい、と切実にルードルフは思っている。
いつも通り腕を伸ばして手紙鳥を頭から下ろすと、クルルル…と不服そうに鳴かれた。
足から手紙を外すと、用は済んだとばかりに手紙鳥は再び頭の上に戻っていく。
だから何故、グレンだと肩なのに俺は頭なのだ。いやまぁ、温かいけども。
本来、この鳥の正式名称は連絡鳥というらしいが、ルードルフは手紙鳥と勝手に呼んでいた。
忙しくてあまり考えていなかったが、そろそろこの手紙鳥の名前も考えてあげるべきかとぼんやりと考える。
「今頃ヴェリア嬢に会ってんのかな…」
ここの所、ルードルフはグレンと別行動を取っていた。知識をつけてきた魔物が左右に別れて時間差で暴れることがあるため、別の場所に待機する必要があるためだ。
グレンはヴェリア嬢を怖がらせていないだろうか。
血まみれのまま会いに行ったりしていないだろうか。
というか、グレンは女性に対しての扱いは心得ているのだろうか?
腐っても元貴族な訳だし、昔、それは遠い昔に女性に対するマナーぐらいは叩き込まれているだろうとは思いつつ、今はまったく接する機会がない。
そもそも今はグレンが貴族だった頃から20年ほど立っている。20年もたてば、何もかもが変わっている筈だが…そんなに前の知識は果たして使えるものなのだろうか。
「…果てしなく心配だ…」
なんだか大変に嫌な予感がする。もっとグレンの報告書に書きたかったのだが、書いている最中に魔物の残党に襲われ、中途半端なまま送ってしまった。ルードルフははやる気持ちを抑えながら、手紙を開く。
『こちらは軽症者3名。処理を終え次第砦に帰還する。レッドバロンの対策についてだが、これ以上犠牲者を出さないためにも何か策を講じたい。疲れているところ悪いが、帰ったら会議を開く。そちらの隊も重症者は先に砦に戻し、殲滅が完了次第戻るように。他のものは食事を取り休ませろ』
「だーっ、会議とか後で良いんだよ後で!いや、必要なのは分かってる!グレンが隊のことを考えてるのは分かってるけど!」
「る、ルードルフ隊長!?どうされましたッ!?」
「あ、いや、すまない…重症者は砦に戻ったか?」
「は、はい、先程隊長が魔物の残党を引き付けてくださいましたので。他のものも撤退準備をしているところです」
「そうか。準備が完了次第、我々も砦に帰還する」
「はッ!」
部下との会話を終え、ルードルフは再び報告書に目を落とした。
『そして報告したかったのはヴェアーラズの事だろうか。あの魔物は久しく見ていないが、また出てきたのか?あの魔物の幻覚作用は酷くやっかいだ、詳しく話を聞きたい』
「ヴェアーラズ!?なんでそうなる!?」
「ルードルフ隊長!今度はどうしました!?今、ヴェアーラズと聞こえましたが、ヤツが現れたのですか!?数年ほど見ていないと先輩から聞いていたのですがッ!」
「違う!俺も数年前に見たきりだ!俺のことは気にしないでくれ!」
「そんなに大きい声なのにですかッ!?」
最もなツッコミだが、ちょいちょいと先輩騎士が手招きしていることに気がついたのか、先程までルードルフに突っ込みを入れていた騎士がそちらに駆け寄っていく。
「おい、隊長のでかーい声に、特に報告書読んでるときは反応しなくても大丈夫だぞ。お前は確か新人だったか」
「あ、は、はいッ!私はまだ新人であります!」
「そうか。まぁ隊長は声がデカイからな。号令のようにも聞こえるから最初の方は区別がつきにくいかもしれんが、気にしなくても大丈夫だ。この隊で逞しくなれよ、新人」
「先輩ッ…!」
『…そして心配してくれるのはありがたいが、俺の休みは最低限で構わない』
「俺の書いた言葉は無視なのか!?休みどうこうなんて書いた記憶ねぇんだけど!?」
「どうしましたかルードルフ隊長ォ!」
「いやだから違う!」
「…今年の新人は、律儀なやつだなぁ」
グレンの婚約である、ヴェリア嬢のことを書いた書類。
それは、少し前に必ずグレンの目に触れるであろう仕事部屋に置いてきたはずなのだがーーー。
「グレン…まさか俺が上げた書類読んでない…なんてことはないよな…?」
だとしたら、由々しき事態だ。
まずい、こんな所で呑気に手紙鳥を頭に載せている場合ではない。
「すまないが、大切な急用を思い出した!俺は砦に戻る!」
「えっ…た、隊長!?」
「お前らも準備ができ次第砦に戻ってくれ!新人をカバーするように!」
ガーっと魔物が吠えるように喚き立てると、そのままルードルフは馬に飛び乗り、連絡鳥を頭に乗せたまま風のように去っていった。
ピィイイイイ、というなんとも物悲しい連絡鳥の声が聞こえたのは、気の所為ではあるまい。
「な、なんて速さだ…」
「よーし、新人。準備はいいか?撤退するぞー。」
「は…はいッ!私も戻ります!」
そしてルードルフは気がついてない。グレンが自分の婚約者が来たという事実を知らないのだから、当然周りに周知などされていない事実に。
そしてその結果、ルードルフの言う【グレンの婚約者】がどんな目にあっているのかも、まったく気がついていなかった。




