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奪われた冠  作者: 彩雅
12/98

12.消された令嬢

酷く冷たい剣先が、首に充てがわれている。

きっとそのまま剣を引けば、私の首など簡単に吹き飛んでしまうだろう。

だが、それをしないのはきっとまだ、何かしらの余地が私にあるからだ。

だが私は、王命の書を持っているわけではない。デルフィランズ様に、直接話を通しているわけでもない。

もはや詰んでしまったゲームのように、切れるカードがないのだ。

だからもう、手詰まりならそれでも仕方がないと。俯いていた顔を上げ、アリスは美しく微笑む。そして見事なカーテシーを行った。


「お初にお目にかかります、グレン・デルフィランズ様。私はヴェリア家が長女、アリス・ヴェリアと申します」


「…ヴェリア家?」

家名に聞き覚えがあったのか、ピクリと彼の表情が変わる。

「はい。王都から、何か噂等は聞いたことがありますか?」

「…いや…詳しくは知らないな。そもそもヴェリア家といえば、殿下の婚約者だったはずだろう。それがどうして、俺の婚約者になるなどの話になるんだ」

「…殿下からの、直々のお話と王命がありまして」

「たとえ王命だとしても、俺のところには何も連絡が来ていない。ヴェリア嬢には悪いが、その話を信じるわけにはいかないな。だとすれば一度、王都の方に連絡をーーー」


「連絡すれば、私は殺されます」


「…連絡を取れば殺されるとは、随分物騒な話だな。悪いが、俺からしてみれば貴女が死のうがなんだろうが関係無いんだ」

「……そう…ですね」

そうだ。私の生死など、この人には関係が無い。

殿下に裏切られた事も。

ただの道具であり物だと、人形だと罵られた事も。


この国からーーーアリス・ヴェリアという、存在自体を消された事も。


何1つとして、彼には関係無いのだ。

だが、1つ確実なのは、このまま王都に連絡をされれば、今度こそ私は確実に殺されてしまうであろうことだけ。

きっと大勢の国民に罵られ、石を投げられ、断頭台で首を切られ、死んでもなお、見世物として腐るまで公衆の面前に括り付けられるのだろう。

友人を殺そうとした、悪女として。

(嫌、だ)

そんな風に死にたくない。

浅ましいと言われようと、誰に罵られようともーーーそんな死に方だけは、したくなかった。

「だが、先程貴女はこの者に上官は誰かと問いかけていたな。それはなぜだ?」

「…デルフィランズ様のことを、死神と呼んでいたからです」

「別に俺がなんと呼ばれていようが、貴女には関係無い筈だが」

「人を敬う気持ちがあれば、そんな呼び方はしません」

「……」

「デルフィランズ様。私のことが、信じられないというお気持ちはよくわかっています。ですから、どうか」


「王都に連絡を入れるなら、せめてここで私のことを殺してください」


「……俺に貴女を切れと?」

「デルフィランズ様のお手を汚してしまうことは…申し訳ないと思っております」

「…!」

首元に突きつけられていた剣を握りしめ、自分の首にもう一度充てがう。

剣を素手で握りしめているため、じわりじわりと冷え切った手が朱に染まっていく。

赤い、血溜まりが。

むせ返るような、臭いが。

彼の服は、最初からついていたのか、それとも新たについたものなのか。血で酷く汚れていた。

くらり、と意識が遠のいていく。

意識が途絶える直前、彼の綺麗なアメジストの瞳が一瞬だけ、見開かれた気がして。


アリスの意識は、闇に飲まれた。

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