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奪われた冠  作者: 彩雅
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10.砦からの報告

血生臭い臭いが辺りに立ち込める。  

剣を振り、血を払うとビシャリと音を立てて地面が赤く染まった。

辺りの気配を探るが、もう魔物の気配は無い。ジュウウ、という腐った肉が焼けただれるような臭いと共に、魔物の死体がズブズブと溶けていく。

その溶けた黒い塊に火が落とされ、一瞬で燃え上がり、灰になった。

「…これで終いだな。総員、撤収。怪我人は優先して砦に戻せ!」

「「はっ!」」

「…最近は随分と魔物が増えた。出てくる量も、知識がついてきたのか動き方も変わった…早々に手を打たないと厄介だな」

今日中には会議を開いたほうが良いなと考えながら一息つくと、どこからか鳥の鳴く声がする。

そちらの方へ振り返ると、別働隊の連絡鳥がグレンの肩へと降りてきた。やんわりと体を撫でてやると、嬉しそうにクルルと鳴き、手紙の付いた足を差し出してくる。

足から手紙を取り外すと、ルードルフからの報告書だった。

「ルードルフからか」

ここの所、ルードルフとはしばらく別行動を取っていた。知識をつけてきた魔物が左右に別れて時間差で暴れることがあるため、別の場所に待機することが多く、久しく顔を見ていなかったのである。


『こっちは重症者が1人出た。魔物のレッドバロンのブレスをもろに食らった』


レッドバロンと呼ばれる鳥型の魔物のブレスは、非常に厄介だ。

空から唐突に急転直下し、人間に向かって炎を吐く。モロに喰らえば鎧や兜が溶けてしまうほどの高温で、負傷者が後を絶たない。

ブレスを吐くまでの時間で嘴の中に剣を突き刺すか、弓兵が固い翼を上げた際に見える弱点の腹を射れば一瞬で絶命させることができるが、他の魔物に気を取られているとそれも難しいだろう。

犠牲を抑えるためにも何か手段を講じねば、と眉間に皺を寄せながら先を読むと、下の方にまだ何か書いてあった。


『グレン、帰ったら風呂に入れ』


「……は?」

風呂に入れ?思いもよらぬ言葉に、思わず呆けた声が出る。

つまるところ休め、いつでも動けるように少しは疲れを取れと言うことだろうか?

『そして着替えろ。ヴェ』

そこで字がぐしゃぐしゃに途切れている。おそらく敵襲にあったのだろう、報告の手紙を書いている最中に魔物に襲われると、互いにそうするように決めていた。

「…なぜ着替え?そしてヴェ…ヴェアーラズの事か?だがあの魔物は、しばらく見ていないはずだが…また出てきたというのか」

疑問に思いながらも、こちらも用紙に報告をまとめる。

『こちらは軽症者3名。処理を終え次第砦に帰還する。レッドバロンの対策についてだが、これ以上犠牲者を出さないためにも何か策を講じたい。疲れているところ悪いが、帰ったら会議を開く。そちらの隊も重症者は先に砦に戻し、殲滅が完了次第戻るように。他のものは食事を取り休ませろ。そして報告したかったのはヴェアーラズの事だろうか。あの魔物は久しく見ていないが、また出てきたのか?あの魔物の幻覚作用は酷くやっかいだ、詳しく話を聞きたい』

そこまで書いて、一度ペンを止める。

風呂に入れ、着替えろ。

真意はよく分からないが、ルードルフのことだ。単純に自分を心配しての言葉かもしれない。

『…そして心配してくれるのはありがたいが、俺の休みは最低限で構わない』

そう書き終えて手紙を足に括ると、連絡鳥は頬に体を擦り付けると、一声鳴いて再び空へと飛び去っていった。

そこで、グレンの耳は違う音を拾った。手紙から目を離してそちらを振り返ると、砦の方角から門番が馬に乗り駆けてくる所だった。

「デルフィランズ様!」

「カークか。どうした、砦か別働隊の方で何かあったのか」

「いえ、デルフィランズ様にお会いしたいと言って、砦に来た人物がいるのですが」

「俺に?」

「…やはり、心当たりはないですか」

「心当たりはないが…一体誰がこんな所まで来たと言うんだ」

「…それが、その、デルフィランズ様の…婚約者だ、と仰る女性の方でして…?」

「……」

俺の婚約者?

思わずその言葉に、目を瞬いた。

それは一体なんの冗談だ?

正直そんな簡素な言葉しか出てこないほどに、一瞬戸惑ってしまう。

暗殺者か、あるいはーーー。


「その女は今どこにいる」


酷く冷たい声が出た為か、カークが一瞬怯んだような顔をする。

「ち、地下の牢屋に閉じ込めています。抵抗はしませんでした。始めは暗殺者かと思い剣を向けましたが、一瞬で首を掻き切ることができそうなほどに隙があり…暗殺者とは、とても思えませんでした」

「…分かった。今すぐ砦に戻る」

存在も、名前も知らぬ婚約者。

カークがすぐに殺さなかったということは、暗殺者ではないと踏んだのか、又は別の理由か。

しかしこればかりは、自分で確認しないと何とも分からない。

「は…はっ!」

グレンは馬に跨ると、できる限りの速度で砦へと馬を走らせたのだった。

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