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【村の攻防戦Ⅵ】

 車輪を手で回して砲を前進させる。

 たった37mmの砲弾を放つだけなのに、このPaK 36の重量は300㎏以上もある。

 派手に戦車を潰したことで、後ろを取られた事を知った敵が退路を確保するために何名か戻って来て俺たちの進路を阻む。

 前進は一旦諦めて、応戦し膠着状態に陥る。

 敵は10人近く居て、こっちは4人。

 圧倒的に分が悪いうえに、隠れる場所はPaK 36の坊盾とタイヤくらいしかない。

「砲で蹴散らすか!?」

「徹甲弾では無駄だ!」

「チクショー!使えねえなぁ」

「ここではギュウギュウ詰めで駄目だ、マイヤーとグリーデンはトラックの影に移動しろ!1,2,3で援護する」

「了解!」

「シュパンダウ、マガジンを変えておけ」

「なんで??」

「フルオートで撃つからだ。クレタの時みたいに撃ち出した途端にマガジン交換は頂けねえからな」

「わかったよ」

「よーし、いくぞ!1,2,3‼」

 シュパンダウと2人、フルオートで撃つ。

 発射速度の速いFG42は直ぐにマガジン交換になるが、いきなり機関銃並みの銃弾を食らった敵たちは、面食らってしばらくは撃ち返してこなかった。

 目の前に居座っていたM4が撃破された事で委縮していた正面を守る味方の動きが活発になり、前を塞いでいた敵兵を駆逐してくれている間に俺たちはPak36を押して再び前進を開始した。

「Cannon‼」

 突然現れたPak36を見たアメリカ兵が叫ぶ。

 まさか銃弾の飛び交う中をノコノコと押して来るとは思っても居なかったらしい。

 M4戦車も国防軍の立て籠もる牛舎に頭を向けたままで、見事にケツを俺たちに向けてくれている。

 距離は200m弱。

「止めて射撃体勢!」

 もう少し近付きたいところだが、M4が車体の向きを変えてしまえばあと100mも前進しなければならなくなる。

 ここが限界。

 真直ぐにケツをこっち向けてくれている今なら、車体後面装甲を抜ける。

「シュパンダウ1発勝負だ。よく狙え」

「了解!」

 ズドン。

 直に放たれた3.7cm砲は、まるで吸い込まれる様に見事に敵の機関部に穴を開けた。

 乗員が慌てて車両から外に出ようとするが、ことごとく銃弾を食らい零れ落ちる。

 戦車を失った敵の歩兵たちは、今までの攻勢が嘘の様に慌てて村を出て行った。

「見ろよ、奴等ケツを捲って逃げてゆくぜ。おいマイヤー野郎のケツに1発撃ち込んでやれ」

 シュパンダウの言葉を真に受けて、マイヤーが構えた銃の筒先を降ろし止めるように言う。

「なんで?俺たちを殺そうとして来た奴等だぜ」

「俺たちも同じだ。だがお互いに殺人鬼ではないだろう?」

「まっ、そりゃあそうだけど……」

 納屋に戻ると、そこにカミールが居ないことに気が付いた。

「ロス、カミールは?」

「まだ、戻って来ていません」

「お人好しのカミールの事だから、その辺で倒れている負傷兵の世話でもしているんじゃねえのか?」

「探しに行くぞ!」

 道草をするような男ではない。

 だから不安が過った。

 絶対に当たって欲しくない不安。

 しかし、戦場で感じる不安と言うやつは、嫌というほどよく当たってしまう。

 探し出して直ぐに、村の西にある小屋と小屋の隙間で、まるで昼寝をしている様に倒れているカミールを見つけた。

「カミール‼」

 呼んでも起きない。

 彼はもう、天に召されていた。


 敵が居なくなったからと言っても、安全が確保されたわけではない。

 次の敵の攻撃に備えるために、体勢を立て直す必要がある。

 先ずは3.7 cm PaK 36の位置変更と、7.5 cm PaK 40を覆っている瓦礫の撤去が急務。

 それに負傷兵の移送。

 村の西側を守っていた国防軍の部隊は被害が甚大で、3個分隊の半数以上が負傷していて、その日のうちにトラックに乗せられて後方の本隊の居る街に送られて行った。

 俺たちはカミールの遺体を村はずれの、よく日の当たる暖かい場所に埋め、新たな防衛網の構築に取り掛かった。

 カミールの死を悲しんでいる余裕はない。

 今は、今できる事を完璧にしておかなければ、次の攻撃に晒されたときに犠牲者が増えるだけ。

 必要なのはカミールが死んだ哀しみではなく、何故カミールが死ぬことになってしまったのかという事実の検証と対策なのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言]  感傷に浸っている暇も無く、次の行動。  目まぐるしく、戦場の凄惨さが繰り広げられて、お腹いっぱい。  だけど、戦場の兵士はそこから逃げる事はできないんですよね。  どれほどの強さが要求され…
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