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【村の攻防戦Ⅴ】

 林におとなしく隠れていたホルツと共に納屋に引き返すと、仲間たちが歓迎の雄叫びを上げて出迎えてくれた。

「ロス、首尾はどうだ」

「こっちには余り敵が回って来ません」

「堅牢だからなぁ。敵さんビビッて、来れねえとさ」

 聞いても居ないのにシュパンダウが機嫌よく付け加えた。

 小さな村とは言え、俺たちの布陣している村の東端からは、中央や西側の様子が分からない。

「グリーデン、無線で様子を聞け」

「それが、何度か連絡を試みましたが、反応がありません」

「シュパンダウ、折角堅牢な所に居るのに何だが、カミールを連れて様子を見て来てくれ」

「OH!なんてこったい‼」

「ホルツはその間、ザシャに付け」

「了解しました」

 シュパンダウは、なんだかんだ言いながらもルッツの指示には忠実で、直ぐに外に出てカミールを連れて村の西側に偵察に出て行った。

 そしてホルツはザシャの隣、MG42の給弾係りに着いた。

 双眼鏡で見える範囲の状況を確認する。

 村の入り口には破壊された戦車と、履帯を壊されて動けなくなった戦車が2輌。

 動けなくなった方は、砲台として味方のサポートに回っている。

 そして、その2輌の直ぐ後ろでは、しきりに無線機のアンテナが揺れているから、敵はここに中隊本部を置いているに違いない。

 村の入り口から目を離すと、横転したクルップ・プロッツェの向こうに置き去りにされた3.7 cm PaK 36。

 その向こうには、避けられたStielgranate 41HEAT弾の爆発を食らったアメリカ兵数人の死体が道に横たわったまま放置されていて、敵の応援が来る気配は今のところはなさそうだ。

 “さあ、どうするルッツ!”

 考えているうちに、偵察に出ていたシュパンダウとカミールが戻って来た。

「状況は?」

「エライことになている。戦車1輌の援護を受けた2個小隊が村を蹂躙じゅうりん、味方が立て籠もっていた建物は戦車砲で潰されて」

「7.5 cm PaK 40は、どうなっている」

「いま何人かで崩れ落ちて砲に圧し掛かったレンガや床を撤去しているが、それも敵の攻撃に対応しながらだから、いつになる事やら」

「……カミール、悪いがもう一度西の戦線に行って、向こうの指揮官にパンツァーファウストを対歩兵用に使用するように進言してきてくれ」

「ハイ。でも戦車は、どうするんですか?」

「戦車は俺たちが撃破すると伝えろ」

「了解しました」

 カミールを送り出したあと、コーエンの分隊からパンツァーファウスト1門を受け取ったついでに納屋も任せて俺はシュパンダウとグリーデン、それにマウアーの3人を連れて納屋を出て林伝いに村の入り口前に置き去りにされている3.7 cm PaK 36を目指した。

 敵の攻撃は村の西側に集中しているから、特に敵に遭遇することなく林の端までは来ることは出来たが、PaK 36に辿り着く前に敵の後衛部隊に発見された。

 距離は50m程だったので、銃では応戦せずに迷うことなくパンツァーファウストを斜め上の空に向けて放つ。

 大きく放物線を描いた弾頭が奴等の頭上に舞い降りる。

「Get away‼」

 敵兵の叫び声がここからでもハッキリと聞こえ、その直ぐ後にドーンという爆発音が轟き爆風が舞う。

 吹き飛ばされる敵など見ている暇もなく、PaK 36にかかっている泥を払い落とし、4人がかりで向きを変える。

 狙うのは履帯を破損したまま村の入り口に居座っているM4戦車のケツ。

「装填します」

 グリーデンが砲弾を装填し、シュパンダウが照準を合わせるためにハンドルを回す。

 国防軍や親衛隊の歩兵と違って、俺たち降下猟兵は様々な武器を使えるように訓練を受けている。

 M4の方もまた、俺たちを駆除するために急いで砲塔を旋回させている。

 ガリッ。

「チクショー!ギアが石を噛んで動かねえ‼」

「どっちだ⁉」

「チョイ右」

 こっちのトラブルなどお構いなしに、敵戦車の砲塔はもう直ぐ俺たちを捉える。

 噛んだ石など除去している暇はない。

 逃げるか撃つか、直ぐに判断を下さなければ全滅してしまう。

 敵の歩兵から絶え間ない銃弾を浴びされながら、マイヤーとグリーデンに指示して3人で本体ごと右に回す。

「OK!」

 シュパンダウの声で、皆が手を放し、その場に伏せる。

 ズドン!

 直ぐに発射音が響き、砲が後退してストッパーが地面にめり込む。

 ドーンという音が前方から聞こえると、直ぐに熱線と叫び声が届く。

 伏せていた顔を上げると、火だるまの戦車兵たちが脱出しようとしてハッチから車外に飛び降りるが、その火が道路に漏れ出したガソリンに引火して大きな炎を上げ戦車の後方にいた歩兵を飲み込む。

 不器用に暴れ出す炎に包まれた人間たちの影。

「撃てー‼」

 俺たちは敵兵の苦しみを早く終わらせるため、一斉に射撃を開始した。

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