【決断Ⅴ】
この突撃が失敗したことにより、敵は体制を建て直さなくてはならず、しばらくは攻撃を仕掛けて来なかった。
だが敵の優位さは変わらない。
増援が来るものと、来ないものの差は大きい。
次の攻撃はどの方面から仕掛けられるか分からないが、先ずシュパンダウが使ったM4戦車から潰しに掛かって来るのは目に見えているので、無駄に戦力を消耗させたくないから戦車本体と装備一式を破壊した後で配置していた戦力を一旦陣地に控えさせた。
「シュパンダウ、1発で決められなくても2発目では決めてくれよ。隊長が居なかったら全員オダブツだったぜ!」
「仕方ねえだろう! 照準器が使い物にならなかったんだから! オメーこそ隊長に突撃させて自分は陣地に隠れて援護だなんて、良い身分だな」
「なにを、この野郎!」
「おっ? やるのか!?」
「2人とも止めろ‼」
珍しく言い争うロスとシュパンダウ。
いつもの冗談ではなく、2人とも本気だったので止めに入った。
よくない傾向。
上手くいかない時、戦況が不利だと分かっていると、兵士たちは苛立ちお互いの悪い所ばかり見えてきてしまう。
放っておけば、次に来るのは沈黙。
こうなれば隊内での意識の共有が難しくなり、作戦はおろか行動自体がバラバラになるうえにミスが増え何事も上手くいかなくなって組織として機能しなくなり、行き着く先は“壊滅”。
特に発言はしなかったがザシャも、どうやらロスと同じ気持ちを持っているらしくワザとシュパンダウと目を合わさないようにしているのが分かる。
この場に居て、冷静さを保って居るのは俺以外では新米のホルツだけと言うのが何とも情けないが、それだけ皆が疲れて戦況に疲弊していると言う事だろう。
「ホルツ、グリーデンと替われ」
「ハイ」
こうした雰囲気を打ち破るには、新しい風を入れるのが一番いい。
しかも早いうちに。
折角敵の2個小隊を撃退して安心している国防軍にも悪い雰囲気が伝染してしまうから。
幸い、マイヤーとグリーデンは離れて冷静に戦況を見られる場所にいたし、2人ともイザコザを起こすような自我の強い人間ではない。
もちろんホルツもそうだが、彼の場合“当事者の1人”と言う立場にあり、その落ち着いた態度は悪くすると“当事者のくせに”と批判の対象にもなりかねない。
しばらくして重い無線機を背負ったグリーデンが、ホルツと交代してやって来た。
「隊長、戻って来ました。上で見ていましたが、さすがですね」
グリーデンは無線士という立場上、常に顔の見えない相手と会話をしているので、その分人の気持ちを敏感に察知する事が出来る。
「こうやってまた戦車を撃破できたのも援護してくれたロスとザシャ、それに敵の注意を引きつけたうえに砲撃でハッチを開けてくれたシュパンダウたちが居たからだ。おっと、上から狙撃をしてくれたマイヤーと、その指示を出してくれていたお前の存在も決して忘れてはいない。みんな有り難う」
「何言っているんですか、隊長だからこそ、あんな凄いことが出来たんだと思います。恥ずかしながら僕なんか、まるで高みの見物でした」
「違ぇねえ。あの状況で手りゅう弾一つ持って突撃出来るのは、ドイツ軍の中でも俺たちの隊長くらいじゃねえか?」
「シュパンダウ、それは褒め過ぎだ」
「いいや、シュパンダウの言う通りでさぁ。撃破した壊れた戦車だから初弾で命中させるのは無理だったとしても、隊長の突撃で敵戦車のクルーが混乱したからこそ、奴等は初弾を大きく外しちまった。それが無けりゃあシュパンダウは今、この場には居ねえ」
「おいおいロス、俺を勝手に殺すなよ」
「違うのか?」
「いや……違わねえな。そうなれば、今のこの場はまるで“お通夜”だな」
「馬鹿、オメーが死んだぐれえで、誰が“お通夜”のようにシンミリしちまうんだよ。なあゼーゼマン」
「いや……そりゃあ、ちょっと悲しいかも」
「ほれ見ろ!オメーだってそうだぜ屹度」
「あー、ロス伍長は結構情にもろいから、屹度一番泣きそうですね」
「なんだそれ、グリーデンどうして、俺が情にもろいっていうんだ?」
「だって、カミールが戦死した時も、クルッペンやゼーゼマンの時も、一番泣いていたのはロス伍長だったでしょ」
「ああ、ゼーゼマンの時なんざぁ、生き埋めになったゼーゼマンを掘り出すために、素手で掘って、銃が使えなくなるほど指から血を流しやがって。そのあと直ぐにルーアンに撤退したから良かった様なものの……」
「うるせえ!あん時は、どうしようもなかったんだよ!」
急に話が途絶え、場がシンミリしてしまう。
「すまない、俺のせいで多くの仲間を失ってしまった」
「何言ってです。隊長せいじゃありません!」
「そうだ。ロスの言う通り。何もかもこの戦争が悪いんだ」
グリーデンを呼んだことで、確かに悪い流れは断ち切る事が出来たが、こうもシンミリしては戦意に支障が出てしまう。
だがこれで結束は更に強くなった。




