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【決断Ⅲ】

 パンツァーファーストは無いが、これで対戦車兵器の確保は出来、その事を国防軍の兵士たちの士気も元通りに上がった。

 あとは、これを有効かつ効果的に使用して敵の突破を食い止めるだけ。

 国防軍の兵士から2名の志願者を募り、2輌のM4戦車の砲塔に備え付けてあるブローニングM2重機関銃を任せた。

 本来なら俺達が銃座に着くべきところだが、それをしてしまうと本来守り抜くべき拠点であるこの陣地の士気が落ちてしまう。

 ここに国防軍の将校が居て、俺が未だ軍曹なら問題は無いが、少人数の降下猟兵を連れているとはいえ俺はこの陣地の将校だ。

 一番位の高い物が、陣地が危機に面した時にチョロチョロ動き回るのは他の者達の不安を煽る。

 だから戦線が落ち着くまでは、ここにドッシリと腰を据えて陣頭指揮を執らなければならない。

 M4戦車はシュパンダウに任せた。

 彼なら出来る。

 今は部下を信頼する事が肝心だ。


 30分もすると、俺の予想通り敵が攻勢を掛けて来た。

 先ずは重機関銃をはじめとする一斉射撃。

 そして工兵隊が、公園の周囲に掘った対戦車壕に仮設橋を設営するために機材を運び始めた。

 もちろん、こちらも只見ている訳ではないが、彼等を阻むほど人数に余裕がない。

 ものの1時間もすると仮設橋が出来たらしく、M4戦車1輌を先頭に5輌のハーフトラックと、その後に追従する1個小隊の歩兵による公園正面への突撃が始まった。

 敵は戦車1輌、機械化歩兵1個小隊にプラスして歩兵1個小隊の戦力。

 対する俺たちは、僅か3個分隊。

 歩兵の数を定員に直してみれば100対30だが、お互いに定員など満たしていないはず。

 直ぐにシュパンダウが捕獲したM4戦車の砲塔を敵に回し、その戦車の上では国防軍の兵士たちが戦車の砲塔に備え付けてあるブローニングM2重機関銃をハーフトラックに向けて撃ち始めると直ぐに車両は穴だらけになって停止した。

 我々ドイツ軍のハーフトラックSd Kfz 251の装甲厚は最大で14.5mmで、しかも避弾経始の概念に基づいた傾斜装甲を採用しているのでこの様にはならない。

 しかしSd Kfz 251は、その分構造が複雑になり生産性が悪く、いまだに十分な配備が為されないまま。

 逆にこのアメリカが作ったM3は、普通のトラックをハーフトラックに改造してボディーに鉄板を貼り付けだけのような簡単な構造だから、当然生産性は格段に上がり部隊にも十分に行き渡る。

 M4戦車も似たようなもので、ボディーや砲塔部分は簡単に作成できる鋳造品で出来ている。

 連合軍の装備全般に言えるのは、性能的な魅力は無いが生産性に優れた大量生産に向いた設計。

 大量生産に向いた設計と言うのは、当然部品点数も少なくなってくるのでトラブルが少なくて扱いやすい。

 逆に我がドイツ軍の装備は、素晴らしい性能を持つが故に複雑な構造となり、生産性が悪く現場でのトラブルも多いと言える。

 どちらがこの戦争に向いているかは、既に戦局が物語っている通り。

 いかにティーガー戦車が優れていても、最前線で数が揃わない事には戦局を変える事は出来ない。

 ハーフトラックの車列を無事止めることに成功したが、問題はM4戦車。

 敵はプロの戦車兵。

 こっちは撃ち方を知っているだけのアマチュア。

 しかしシュパンダウなら必ず出来る!

 お互いの砲塔の回転は、ややシュパンダウの乗るM4の方が早く敵を捉えそうだ。

 初弾で決めれば勝ち。

 外してしまえば、完全に敵が有利になる。

 気がかりなのは、乗っ取った被弾したM4戦車の照準器が正確な位置に向いているかどうか。

 こればかりは撃って見ない事には分からない。

 シュパンダウの操作するM4戦車の砲塔の回転が止まり、直ぐに砲弾が発射される。

 しかし無情にも砲弾は敵戦車の左の履帯に当たり、その動きを止めたに過ぎない。

 敵の戦車は左の履帯が外れた事で車体も大きく左向きになり砲塔の回転も一瞬止まった。

 少しだけだが、これで時間の猶予は出来た。

 だがシュパンダウたちが次弾を装填して発射するまでの時間はない。

 なんとかしなければ、動かない棺桶の中に留まっている彼等の死は確実に訪れてしまう。

 ジュリーとの約束。

 それを果たすためには、自らの命を大切にしなければならない。

 かといって仲間を見殺しには出来ない。

 大多数の敵の眼は今、俺達が利用している捕獲した2輌の戦車に向けられている。

 この場所を飛び出して再び戻って来る事は出来ないかも知れないが、敵の隙を突いて戦車の近くまで辿り着ける可能性はある。

 “すまないジュリー!俺は君との約束を守れなくなるかも分からない”

「ザシャ!俺を援護しろ‼」

「たっ、隊長!」

 俺はその時間を少しでも伸ばすために結束手りゅう弾を片手に持って、勢いよく塹壕から飛び出した。

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