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【決断Ⅰ】

「ルッツ遅えぞ‼」

「すまん。ロス、状況は!?」

 口の悪いシュパンダウに怒鳴られるのも無理はないくらいの乱戦。

 直ぐにロス伍長に状況を聞くと、敵は正面の2つの通りから新しい小隊を投入して来たらしい。

 一応今のところはザシャのMG42機関銃で食い止めてはいるものの、仲間が遣られてスッカリ戦意を喪失してしまっていた国防軍の5人は逃げ出してしまった。

「グリーデン、ホルツの2名は、そこら辺にあるありったけの銃弾などを集めろ!」

「了解!」

「集め終わったら、いつでも運べるようにして俺に知らせろ」

 いくら陣地があると言っても、要塞ではないから7人で1個小隊の敵を食い止める事は難しい。

 特に敵にとって“初物”なら攻め方も分からないだろうから“時間稼ぎ”くらいなら十分できるが、何度も攻撃を仕掛けて来るうちに敵も馬鹿じゃないから様々な攻撃方法を試して来るし、こちらの弱点も見えて来る。

 この陣地の優位点はラウンドアバウト(環状交差点)に集まる数々の通りを見渡せることで、それは逆に多方向からの敵に囲まれてしまう事にもつながる。

 せめて迫撃砲かパンツァーファーストの様な飛び道具があれば状況もまた変わるだろうが、この陣地に立て籠もるには俺達7人では少な過ぎる。

「撤収するのか!?」

「俺達の装備では、ここは時間の問題だ。何かもっと言い手があるなら別だが、シュパンダウ、何か良い考えがあるのか?」

「うんにゃ、ルッツにしちゃあ珍しく、勝手に撤退してしまうんだなって思ってよ」

「悪いか!?」

「いや、最良の決断……いいや、英断だな」

「言っておくが“撤退”ではない」

「じゃあ、場所を変えて戦うのか?」

「ああ、元の場所に戻る」

「元の場所!? それこそ、敵に囲まれちまうぜ‼」

「だから、戻る」

「し、死にに行くのか!?」

「逆だ。あそこを守る国防軍と共に“生き残る道”を探す」

「隊長! 準備が出来ました」

 グリーデンが移動準備の完了を知らせ、ホルツと2人で手際よく各自の持ち場に銃弾と手りゅう弾を運ぶ。

 手りゅう弾は個人では持ちきれないほどあったので、余った分は個人ごとに2個と、信管の安全ピンにワイヤーを付けた物などを数個用意して陣地に仕掛けた。

「よーし、各自手りゅう弾投擲準備! 爆発と共に一斉に、ここを脱出する」

「了解‼」

「投擲‼」

 各自が手りゅう弾を1つずつ投げ、爆発と同時に一斉に陣地から飛び出す。

 飛び出し際に2個目の手りゅう弾の安全ピンを抜いて、適当に敵の方に放り投げながら全力で走り全員が無事に通りの端の建物の陰まで移動した。

 丁度その頃、俺達が居た陣地目掛けて敵の1個分隊が突撃して誰も居ない陣地に飛び込んだ。

 勇猛果敢。

 と、褒めてやりたいところだが、迂闊過ぎて我々の思うままで戦場経験の浅い彼等を哀れにさえ思う。

 彼等のうち何人かはグリーデンが仕掛けたワイヤーに体のどこかを引っ掛けて、自らが知らぬ間に手りゅう弾の安全ピンを抜いた。

 直ぐに気が付いて再び陣地から飛び出そうとすれば、建物の陰から陣地に狙いを定めている俺達が始末され、気が付かずに陣地に留まっていれば爆風に吹っ飛ばされる。

 いずれにしろ、もう彼等の運命が好転する事は無い。

 俺達ドイツ軍が使用するM24型柄付手りゅう弾は爆圧で敵を倒す攻撃型手りゅう弾で、有効範囲は10m。

 威力は有連合軍の使用するマークII手りゅう弾よりも大きい。

 室内などでは遮蔽物に爆圧を遮られて効果は薄くなる欠点はあるが、土嚢で囲まれた陣地内での爆発なら土嚢の外側に伏せていない限り逃れる事は出来ない。

 やがて彼等はトラップに気付かないまま、爆圧に吹き飛ばされて倒れた。

「やりぃ‼」

 シュパンダウが喜ぶが、いつ彼等に訪れた不幸が俺達に降りかかるかは分からない。

「あれっ、グリーデンさん、このワイヤーは?」

 ホルツがグリーデンの持っているワイヤーに気付く。

「ああ、これは手動用だ」

「手動?」

「ホルツ、生き残っている限り、どうして生き残れたのかをよーく考えて覚えな」

 シュパンダウがホルツの疑問に答える。

「どうして生き残れたか?」

「グリーデン、ここは俺に任せろ!」

 ホルツが気付いた時には、既にルッツはロス伍長たちを連れてジョワージ公園の陣地に向かって走り出していた。

「いいか、俺達の役目は敵の数を減らす事と、敵の動きを封じ込める事だ」

「敵の動きを封じ込める事?」

「見てな」

 さっきまで居た陣地に目を向けると、丁度敵の分隊が今度はいきなり陣地に飛び込まないで積み上げられた土嚢の外側に取り付いたところだった。

「そこで、このワイヤーを引く」

 シュパンダウがワイヤーを引いて5秒後、今度は土嚢の外側に仕掛けられた手りゅう弾が爆発して後で来た分隊を吹き飛ばした。

「いつの間に!?ルッツ隊長は何も指示していませんでしたよね」

「ああ、だが奴は、こういう場合どうすればいいか日頃から俺達に指示していたからな。つまり俺たちはルッツがした事をひとつひとつ覚えて、より生き残りやすく敵にダメージを与える術を身に付けたって言う訳だ。まあアイツが沢山勲章をぶら下げて少尉になれたのは言ってみれば優秀な俺たちの“おかげ”でもあるってこと」

「でも、それはルッツ隊長の“おかげ”でしょう?」

「まあな。つまり、上に立つ者は部下の教育を怠っていては何もできないと言う事だ。ボケボケしていると、また敵が来て泥沼になる。俺たちも隊長を追って行くぞ!」

「はいっ」


※連合軍の使用するマークII手りゅう弾は破片型で、その有効範囲は4~9m程となる。

ただし、手りゅう弾本隊外側にある破片を飛ばすため爆圧は減少され、その吹き飛ばされた破片も均等には飛ばないため近くで爆発しても破片に当たらない場合もある。

 ただし破片の勢いは凄まじく、テーブルなどの遮蔽物は突き抜けるし、爆発地点から40m程離れた場所に居ても運が悪いと破片により致命傷を負う事になる。

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