【村の攻防戦Ⅱ】
サイロを陣取る見方が敵の接近を知らされると、直ぐに国防軍の伝令もやって来て同じ報告を受け取った。
敵は1個中隊(約200人)に4両のM4シャーマン戦車が護衛に随伴している。
歩兵の数も砲門数も、こちらの2倍。
厳しい戦いになる事は確実だ。
問題はM4戦車を早急に無力化できるかどうかがカギとなる。
はたして村の入り口付近に隠れている対戦車砲3.7 cm PaK 36が役に立つかどうか。
3,7mmでは高初速のPzgr.40弾でも、M4の砲塔装甲64–76 mmを撃ち抜くには100m以内まで接近を許す必要があり車体前面の51mmでも傾斜角が有るので難しい。
100m以上だとM4の2個の起動輪の間にあるトランスミッションカバーの先端にピンポイント当てなければ弾かれてしまう。
履帯は破壊できるとしても、それでは砲としての攻撃力は残ってしまうから戦車の脅威を半減出来たに過ぎない。
仮にStielgranate 41HEAT弾(砲身に装着して撃ち出す成形炸薬弾)を持っていたとしても初速が遅いうえに命中精度も低いから、これを動く目標に当てるにもやはり100m以内に誘き寄せる必要があるが戦車の前衛には対戦車兵器の露払いとして1個分隊を出すのが定石だからこれも難しい。
タタタタタ。
村の入り口付近で、ついに前哨戦が始まった。
敵の前衛に居る歩兵分隊と、味方の3.7 cm PaK 36の陣地前面を守る歩兵分隊の戦い。
この国防軍の分隊長はベテランらしく、対戦車砲陣地前面から直ぐに道を渡り、敵の注意を反対方向へと反らすことに成功した。
“これならイケる‼”
だが発射後の退却を焦ったのか、それとも功を焦ったのか3.7 cm PaK 36は距離200mからStielgranate 41HEAT弾を発射した。
Stielgranate 41HEAT弾は毎秒110mと非常に遅い速度で飛ぶ。
発射から着弾迄約2秒。
その間にM4は左に回避行動を取ったから、極端に角度が浅くなった側面装甲に当たって爆発した弾は戦車に損害を与えることが出来ずに戦車の後ろに居た歩兵数人をなぎ倒すに留まり、逆に発射位置を暴露する羽目になってしまった。
敵の攻撃が3.7 cm PaK 36に集中する。
「援護射撃をしますか?」
サイロを守る分隊長コーエンに聞かれた。
援護してやりたい気持ちは分かるが、それではこちらの隠れている位置が早くから敵に知れてしまうだけ。
サイロの構造は多くの者が知っているはずだから、天辺にあるこの窓は乾草の投入口に過ぎず、機銃など設置できるようなものではないと言うことは分かるはず。
いま射撃してしまえば、昨夜からこの位置に射撃用の土台を据え付けた苦労が水の泡となり、遠距離から敵の戦車砲に吹っ飛ばされてしまうだけになるだろう。
村の入り口ではクルップ・プロッツェのエンジンに火が入り、白い排気ガスを上げた。
大慌てで3.7 cm PaK 36を懸架装置に固定しようと作業する砲兵隊員たちは気付かないだろうが、彼等が一晩掛けて施したカモフラージュは、この白い排気ガスによって全て台無しにされている。
立ち上がる白い煙を目掛けてM4の75mm砲が火を噴き、撤収作業を急ぐ隊員たちの傍に土埃を上げて何人かを爆風で吹き飛ばす。
撤収を諦めたクルップ・プロッツェが、3.7 cm PaK 36を置き去りにしたまま走り出すが、至近距離に居る戦車を相手にカモフラージュから飛び出して姿を晒してしまった車体は、あっと言う間にM4の餌食になり横転して黒煙を上げてしまった。
その間、守るべきものがなくなった国防軍の分隊は最前線に留まらず、敵の注意が3.7 cm PaK 36に向いている隙に無事村への撤収を完了していた。
“あの分隊長は引き際も鮮やかだな……”
「さあ来るぞ!」
コーエンに引き際を見誤らないように注意して、サイロから下へ降りて部下たちに敵の情報を知らせ、戦闘前の最終チェックを行った。
主な確認事項は現在持っている銃弾数と、各自の持ち場と万が一負傷した場合に誰が対応してどこに連れ出すか、そして銃弾が少なくなってきた場合に誰が何所に取りに行くかなど。
少ない人数なので全員で戦いたいところなのだが、サポート要員は必ず必要だというのが俺の考え。
サポート役は一番経験の浅いホルツに任せる。
当然直接敵と戦う時間は少なくなるので、その分銃弾はより射撃の上手い先輩に多く渡すことが出来るし、敵の銃弾を食らう確率も下がるから戦いを生き残る可能性も高くなる。
しかもサポート役は、直接敵に目を奪われないので視野が広く持て、回り込んでくる敵や伏兵にも気が付きやすくなる。
サポートを受ける方にも利点はある。
負傷時に迅速に安全な場所へ避難が行える。
通常敵の弾を食らう場所と言うのはそれだけ敵の攻撃に晒されている場所なので、被弾したままその場に留まれば2発目3発目の銃弾を食らう可能性も高く生き残る可能性も低くなる。
撤退時に軽傷であれば何とか連れていけるが、重症となれば移動時の出血も多くなるので連れて帰れないことになるし、無理に連れて帰ろうとすれば負傷していない隊員の負傷率も上がってしまう。
もし誰も運ぶことができなくなれば、部隊はそこで終わりと言うことになる。
更に負傷者の持っている残りの銃弾を、まだ戦っている他の隊員に回せることも重要な要素になる。
何よりも、常に自分の状態を誰かが見ていてくれるという事が、安心して攻撃に専念できる環境をもたらすという事だ。
これは我々が幼いころから育ってきた環境、つまり家族の中に居る安心感をもたらす。
いくら戦場とは言え、安心感のない人間は不安に押し潰されてまともな判断は出来やしない。