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【パリ市街戦Ⅲ】

「ルッツ!やべえぜ‼」

「どうした!?」

 シュパンダウの素っ頓狂な声がした時は、冗談じゃすまない程の緊急事態なのだ。

「他の者は自分の警戒範囲から目を離すな!」

 そう言って慌ててシュパンダウの所に行くと、小隊長の居るサン・ミッシェル橋周辺が大変な事になりつつあった。

 橋を渡ろうとした警察車両を止める事に失敗した上に、レジスタンス達は地下鉄の駅とサン・ミッシェル広場からも同時に出てきていた。

 しかもこの状況はその向こう側にあるヌフ橋でも同じように行われており、1個分隊しか配置していなかったヌフ橋の守備隊を突破した警察車両は、セーヌ川沿いにコンティ通りをサン・ミッシェル橋へと向かって来ている。

 その数は総勢約60人余り。

 小隊長の所には定員には満たないものの3個分隊、合計27名の人員が居る。

 敵の数は2倍強ほどで装備は貧弱だから通常なら負けることはないが、警察車両に橋を突破されてしまった事と不意を突かれた事で隊員たちの多くが慌てて混乱しているため、効率よく敵に対処できていない。

 俺が見た時には、警察車両を何とかしようとして建物から飛び出してしまった4人が、地下鉄から出てきたレジスタンス達に背後から撃たれて倒れたところだった。

 おそらくこれは、この位置から死角になって見えないサン・ミッシェル広場側でも似たような状況に陥っているに違いない。

 一旦混乱してしまった戦場は、まるで雪崩のように崩れてしまう。

「グリーデン!小隊本部に無電で、建物を放棄して俺の所まで来るように伝えろ‼みんな気をつけろ、こっちにも来るぞ!」

 既に右隣のアルシュヴェシェ橋も突破され、警察車両はセーヌ川沿いにこっちに向かっていて、通りには案の定レジスタンス達も現れた。

 小隊本部と似た状況。

 ただ俺たちに有利な条件は、正面の橋を突破されていないことと、地下から出て来る敵が居ないこと。

 そして不利な条件は、たった7人で守らなければならないところ。

 他所の火事を見ている暇などない。

「グリーデン、小隊本部からの返信は!?」

「ありません!」

「チクショウ!……中隊長に連絡!セーヌ川南岸に架かる6本のうち5本が突破されている。応援か撤退のいずれかを要請する」

「了解!」

「みんな落ち着いてよく狙って撃て!相手の装備は貧弱だが、弾を浪費してしまうと1日持たない」

 俺もFG42にスコープを装着して、狙撃に徹する。

 狙うのは利き腕の肩。

 ここを撃ち抜けば、ほぼ銃は撃てなくなる。

 狙撃の場合は狙って撃つ余裕があるから、無理に殺す必要はない。

 まして相手は市民や治安を守る警察官。

 武器を持っているとはいえ殺したくないのも確かだが、それ以上に上層部が徹底抗戦でパリを死守する考えが無い以上、無駄な血は流したくはない。

「グリーデン、中隊長からの返信は!?」

「まだです!」

「小隊本部は!?」

「そっちも、まだです!」

「シュパンダウ!悪いが、小隊本部迄行ってクンケル少尉ごと部隊を連れて来い!ただし情けは無用!走れる者以外は置いて行け、さもないと戻って来られなくなる」

「了解!でもなぜ、俺??」

「将校に対してタメ口で話せる奴は、お前しかいないだろう?」

「ちぇっ、こりゃあ日頃の行いが災いしたな」

「お前の良いタイミングで合図を出せ!援護する」

「了解!ちょっくら行って来るぜ!帰りは友達沢山連れて帰るから、楽しみに待っていてくれよ」

「ああ、楽しみにしているぜ!」

「シュパンダウ、出ます!」

「よし、みんな一斉に撃てー‼」

 この時ばかりは弾を惜しむことなく、フルオートで撃ちまくった。

 銃弾よりもシュパンダウの命の方が惜しい。

 みんな気持ちは同じ。

 一斉に降り注ぐ銃弾の雨に敵は一旦脚を止め、その中を無事にシュパンダウは通り抜けて小隊本部が入る建物へ飛び込んで行った。

 あとは無事に戻って来ることを祈るのみ。


 小隊本部に飛び込んだシュパンダウだが、クンケル少尉は既に戦死していて3人居るはずの下士官も全員死傷している。

 指示を出す者も居なくて、押し寄せる敵のペースに呑まれて無線機の前には誰も居ない。

 これでは幾らグリーデンが無線で呼びかけても誰も出ないはずだ。

「撤収するぞ、みんなを集めろ‼」

「負傷者は!?」

「走れるものだけ連れて行く」

「軍曹が足をヤラレテいる」

「置いて行く」

「そんな!分隊長ですよ‼」

「分隊長であろうが小隊長であろうが、関係ねえ!今は戦力が必要なんだ。嫌なら残れ、国に帰りたい奴だけくればいい」

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