【ジュリーとバスルーム】
どういうことか分からないが、据え膳食わぬは何とやら。
そう思って、俺も彼女の服を脱がせに掛かると、ピシャリと手を叩かれた。
“えっ!なんで??”
「パンツとシャツと靴下は脱いだら外に出しておいて頂戴」
そう言い残すとジュリーは、部屋から出て行った。
言われた通り下着類を外に出してバスタブに浸かると、季節はもう7月中旬だというのに、お湯の暖かさが体に染みわたり溜まっていた疲れを癒してくれる。
お湯に浸って、のんびりしていると、浴室のドアがノックされた。
誰だろうと思って振り向くと、期待通り下着姿のジュリーが居た。
「背中、流してあげよっか……?」
超美人だから男なんて百戦錬磨で手玉に取るものだと思いきや、意外に頬を少し赤く染めて照れながら言われ、否が応でも胸が高鳴ってしまう。
「ありがとう。でも、どうして?風呂なら昨日も頂いたよ」
ジュリーに背中を流してもらいながら聞いた。
「折角、お洋服が新しくなったのに……それに、パリまで列車で行くんでしょ」
「それはそうだけど、一昨日会ったばかりの君が、ここまでしてくれる訳が知りたい」
「訳なんて……」
「あるんだろう?」
「当ててみる?」
「当てたら、何を?」
「アナタの好きなもの。ただし答える権利は1度だけよ」
“Jesus Christ!これは外すわけにはいかない”
考えろ、ルッツ!
ここは戦場で、部隊がヤバいと思って……。
俺とSEXがしたい?
いやいや、これではお風呂の用意が出来るまで俺を待たせた意味の説明が付かなくなるし、単にSEXするだけならワザワザ風呂の支度をする必要もない。
俺が臭かったから?
いや昨日お風呂に入ったし、そもそも臭くて我慢できないのであれば、好意的に近づく必要はないはず。
すると理由は彼女の言う通り、服が新しくなったからと言うのが本当のところだろう。
でも、これは答えになっていない。
「どう?分かった?」
背中越しに、彼女の甘い息が問いかけてくる。
“甘い息”
待てよ。
そもそも彼女は何でここに居る?
何故クリーニング店に居た?
何故俺のチケットを観た?
ここは当然彼女の叔父さんの家だから居てもおかしくはない。
だけど、今は勤務中のはず。
最初のクエスチョン以外、普通なら説明のつかないことばかり。
……。
「分かった」
「本当に?」
「ああ」
「じゃあ、聞かせて」
「その前に、確認させて」
「なぁに?」
「本当に、俺の好きな物をくれるの?」
「いいわよ」
「世界一好きな物でも構わない?」
「私にできる範囲内であれば」
「じゃあ、当てるよ」
「ええ」
「同じ列車で、しかも俺の隣の席か向かいの席に座り、君もパリに行くからだ。……これで、どう?」
「まあ!完璧ね。まるで探偵さんみたい。どうして分かったの?」
驚いて丸くて大きな瞳を、更に大きく見開いて俺を見るジュリー。
「じゃあ、御褒美を頂くね」
「えっ、ええ、欲しい物は一体何かしら?んっ……」
俺は体を捻り、裸のまま彼女の唇を奪う。
そして軽く身を引こうとする彼女の脇に自分の腕を絡めて引っ張ると、ジュリーはまるで小鳥が囀るようなキャーっと小さな悲鳴を上げて下着を着たままバスタブに落ちた。
そしてまた可愛い唇を奪うと、もう彼女は抵抗もせずに俺の上に圧し掛かってきてお互いの体を……いや、お互いの愛情を求めあった。
御褒美を貰い終わった後、彼女が甘えるように尋ねてきた。
「ねえ、どうして分かったの?」
俺の胸を背もたれにして上機嫌のジュリー。
「クリーニング店に行ったあと、君はここに俺を真直ぐに連れて来ただろう」
「それだけ?」
「その行動の引き金になったのは、俺のチケット。それに君も俺と同様に午後からの勤務はない。これでどう?」
「じゃあ、お風呂は?」
「それは最初に君が説明してくれた通り、洋服が新しくなったのにという理由もあるだろうけれど……」
「あら、その他にも何かあると言いたいみたいに聞こえるけれど」
「言いたいけれど、いい?」
「いいわ」
「それは、俺とこうなるかも知れないと言うこと。そうだろう?」
「まあ。意外と自信家さんなのね」
「ち、違うのかい?」
「うふふ、内緒よ」
ジュリーはそう言うと向き直り、自らの唇を俺の唇に当ててきて、俺たちは2回戦を楽しんだ。




