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【ノルマンディーⅠ】

 6月6日はフランス北西部にあるノルマンディー海岸に連合軍部隊が上陸してきた日。

 その前日まで俺たちの部隊はカレー郊外に駐屯していた。

 これは、敵の上陸地点を軍上層部が見誤ったため。

 空軍及び国防軍の将軍の多くは敵の上陸地点をカレーまたはそこから35km離れたダンケルクと予想する者が多かったが、ロンメルはノルマンディーを予想していた。

 夜明け前、敵の艦船多数がノルマンディー沖で発見されたという報告が入り俺たちも出動準備を命じられたが、一向に移動の指示は出されず昼過ぎまで待機状態を維持したままだった。

 これはこの地区を管轄していた本部がノルマンディーへの上陸をカレー上陸作戦の陽動作戦であると見誤った判断をしたためで、フランス北部の沿岸部を守る部隊の大部分がここカレーに集結していて、夕方近くにようやく俺たちに出動命令が下ったときには既に連合軍上陸部隊に海岸線を突破されていた。

 敵の空襲を警戒しながらの進軍は思う様に進まず、また燃料の補給待ちもあり部隊はバラバラになってしまい、俺たちの分隊がカーンの街に入ったのは出発して3日後の6月9日の事だった。

「酷えなこりゃあ、中隊は何所に行った?迷子にでもなっちまったか?」

「悪いクジを引いちまったな」

 シュパンダウのボヤキにロスが答える。

「降下猟兵の小規模部隊とは所詮こんなもんだ。クレタの時に比べれば到着時に2分隊揃っているだけでも充分だろう」

「たしかに軍曹の言う通りだな。

 クレタでは分隊と言うよりも人間個人個人がバラバラになっただけでなく、装備すら見当たらない状況になっていた。

「ワインツマン。国防軍の本部を探して宿舎を聞いてきてくれ」

「それに、メシもな!」

 シュパンダウが、また余計な事を言う。

 メシを探すのは、本部を探し当てるよりも難しい。

 第4分隊のワインツマン伍長を本部に行かせて、とりあえず休憩を取る事にした。

 思ったよりも各部隊の集結状態が悪い。

 嫌な予感しかしない。

 嫌な予感は、俺を待たせるようなことはしない。

 直ぐにワインツマンが戻って来て、部隊の移動要請を告げた。

「ルッツ軍曹、直ぐに第7軍の救援のためバイユーに向かえとの事です」

「やれやれ、休憩もまともに取らせてくれないのか」

「どの師団と合流する?」

「第21装甲師団に合流して、空いているⅣ号戦車の背中に乗って移動しろとの事でした」

「やだねーっ。的の上に乗って移動するくらいなら、歩いて行った方がマシだぜ!」

「シュパンダウ!言葉を慎め‼」


 俺たちは直ぐに広場に集結していた第21装甲師団を見つけ、Ⅳ号戦車の背中に分乗した。

 出発すると直ぐに違う広場に待機していた第12SS装甲師団「ヒトラーユーゲント」を見つけた。

 ユーゲントとは英語のYouthユースと同じ意味で若者を示し、まだ徴兵義務のない若者たちの志願兵を集めた部隊。

 敵からはミルクのマークのビラが配られ、味方からも“子供部隊”と馬鹿にされているが、小隊長以上の指揮官クラスは親衛隊だけでなく国防軍からもエース級が抜擢されていて練度は高い。

 師団長は武装親衛隊の英雄、パンツァーマイヤーの異名を持つクルト・マイヤー大佐だ。

「あっりゃぁ~、子供たちが戦車に乗っていやがる」

 シュパンダウが素っ頓狂な声を上げて指差した先には、まだ20歳にも満たない青年たちが出撃して行く俺たちにヒットラー式の敬礼を見せていた。

「敬礼を返せ」

「子供にぃ!?」

「馬鹿、子供であろうが老人であろうが国のために命を捧げていることは俺たちと何も変わらない」

「確かに……でも、死んじゃあお終いだぜ」

 彼等若者からエールを送られた俺たちは、敬礼を返す事で彼等にエールを送り返した。

 但し、返したのはヒットラー式の敬礼ではなく、俺たちが普段使う普通の敬礼だ。


 歩兵を乗せてくれるのは有り難いが、これでは戦車単独で行動しているのとそう変わりがない。

 もしバズーカ砲や対戦車砲が隠れていたら、裸で身を晒しているような物。

 こういう進軍の仕方は、まだドイツ軍が強かった時には決してなかった。

 必ず装甲車に乗った機械化歩兵が付いていた。

「周囲の警戒を怠るな!」

「ちぇっ、のんびりタクシー代わりに使える程、戦場は甘くねーな」

「当たり前だ」

 戦車長は砲塔上部のハッチから身を出し、照準手と装填手は砲塔の左右にあるドアから身を出して周囲の警戒にあたっている。

 おれたちも、のんびり構えている訳にはいかない。

「軍曹!10時方角に白煙!距離約500」

 マイヤーが叫ぶと直ぐに、車列の先頭を走っていたⅣ号戦車が被弾して黒煙を上げ、俺たちが乗る戦車の周囲にも次々に土埃が舞い上がる。

 攻撃を受けて照準手と装填手は直ぐにハッチを締めて車内に入り、戦車長だけが勇敢にも周囲の警戒に当たりながら砲塔を10時の方向に回すように照準手に指示を出す。

 白煙の見えた位置を指さして詳しく教えている最中に、幾つもの銃弾が車体に当たる。

 敵が撃って来たのは林の向こう。

 だが戦車の影は見えない。

 敵は対戦車砲と歩兵だ。

「榴弾装填‼」

 戦車長が装填手に榴弾を装填するように叫ぶ。

 敵には徹甲弾と榴弾、2種類の砲弾が搭載されている。

 徹甲弾は厚い装甲板を撃ち抜くための砲弾で、主に対戦車用に使用される。

 榴弾は当たると爆発するようになっていて、厚い鉄板などを貫通する事は出来ないが、その爆発によって砲弾の破片を飛ばすことにより広範囲に人や物にダメージを与える事が出来る。

 防盾の薄い対戦車砲が相手の場合、徹甲弾を使っても防盾に穴を開けるだけなので、対戦車砲の細かい部品や人員を殺傷する能力の高い榴弾が用いられる。

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