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あの日の後悔、彼の隣には…。

作者: ペペロン丸

日間ランキング2位になりました…

皆に気に入っていただけて何よりです!


「シノ、俺と付き合ってください!!」


 夕日が差し込む校舎、そんな教室での告白は学生なら誰もが恋焦がれるシチュエーションだろう。ましてや、この二人は小さい時からずっと共に育ってきた幼馴染。


 誰もが憧れるこんな関係、その二人の告白は――


「ごめん、ユウ……ユウの事、そういう風には見れないよ…」



 彼女の答えはNO。いや、それですらない。


「でもユウとは離れたくないし…これからも”友達”でいよ?」



 いっそのこと接近禁止を言われたほうがまし。


 気まずい関係になれば近づくことはない。


 けど、彼女がそれを許さない。


 両親どうしが仲がいい二人は学校で縁を切ろうと家で縁が繋がっている。


 そんなことを気にしての彼女の発言だった。


「お父さんも、お母さんもユウの事は”家族みたいだ”って…」


 ユウもそれぐらいの事は分かっていた。告白し断られた場合は家どうしがきまずくなることなどわからないはずがない。

 妹だって彼女の事を姉の様に好いている。彼女の妹だって俺の事を兄のように慕ってくれる。


 でも、そんな幸せな関係を掛け金にしてでもユウは前に進もうとした。


 だが彼女は現状維持を望んだ。


 (あぁ…俺はスタートラインにすら立っていなかったのか…)


 自分の真の立ち位置を理解した瞬間であった。


 一番近い異性? 気の置けない男の子? 家族の様に当たり前の存在?


 いや違った。彼女は自分の事を異性として見てはいないのだ。


「あぁ…わかったよ。急にこんなこと言い出してごめな…」

「いや、大丈夫…だよ。明日からも”仲良く”してね。ユウ」



 始まりがあれば終わりがある。でも、始まってすらいない物はどうやっても終われないのだ。


 …………


 「ひゅ~~、お二人さん今日も一緒の登校かい?」

 「や、やめてよ~~」

 「……茶化すなよ~……」


 翌日から普段と同じ関係が始まる。


 男性にモテる彼女の幼馴染。ユウはそんな彼女に一番近い異性。


 彼女は今まで幾度と告白されてきた。そんな告白の中にユウの告白も埋もれるように、何も他と変わらないように同じ日々が始まる。




 「みんなでお弁当食べよ~」


 彼女が中心となり、彼女の友人、俺の友人も入れての昼食がいつもの日常。


 「それでさ~、~~~がね~~~!!」


 何も変わらない。昨日と同じ今日。今日と同じ明日。

 和気あいあいと昼食をとる女性陣だが、ユウの親友だけはこの異変を知っている。


 「おい、お前昨日告白したんじゃないのか?」

 

 彼女らに聞こえないよう配慮してくれる友人。


 「したよ。それで振られた」

 「っ!! それじゃ、なんでいつもの感じなんだ…」

 「シノが今までの関係がいいんだってさ…」

 「なんだよそりゃ…」


 友人だからこそその苦しみが理解できる。


 「ユウ、お前はそれでいいのか?」

 「いいも何も…これを続けるしか…」

 「でも!! …いや、そうなるのか…」


 目論見が甘かったのはユウの方だ。シノ、彼女にとって昨日のことはユウの気の迷い。その程度の考えなのかもしれない。


 「でも…お前の覚悟はどうなるんだよ…」

 「……」


 もう、このメンバーで仲良くいられない覚悟を持っていた。


 シノとは仲良くできないと覚悟していた。


 生まれてずっとそばにあった物を手放すことも覚悟していた。


 そんな覚悟はユウの腹の中でくすぐる。だが、それが表に出ることはない。


 「そこの二人~~、何イチャイチャしてんのよ~!」

 「え~、もしかして…キャ~~!! 男同士で!」



 そんないじりに対してユウは…


 「おいおい、なめるなよ…俺は親友を愛しているぜ!」

 「はははぁ! うける~」


 いつものお惚けキャラを続ける。


 「笑えねぇ…笑えねぇよ…ユウ」




 「うっ、ウゲェェェェ…」


 男子トイレに響く嘔吐の音。


 あの告白から二週間、変わらぬ毎日の代わりにユウは昼食を吐く。


 「ユウ…そんなお前をみてられねぇよ」

 「はぁ…はぁ…」


 彼女と今までどおりに過ごすストレスは想像以上である。家族以上に好き、

いや愛してさえいた女性に拒否され、それほど大切な彼女と離れる覚悟、未だに変わらぬ日常を過ごしている事。すべての事実は腹から他の物と一緒に吐き出される。


 「なぁ…いっその事ほかに彼女を作れよ。お前は優しいし、イケメンだし、お前に好意を持ってくれている女子は…」

 「そんな簡単に変えられる程…安くないんだよ…」

 「でもお前…このままでいいのか?」


 このまま…。


 確かに、このままでいいのだろうか。


 この関係を進めた先に何かユウにとって幸せなことはあるのだろうか。


 きっと、彼女は同じ進学先にする。今までがそうだったんだ。今回も同じだろう。


 大学でもこれを続けるのか? 彼女が本当に好きな人を見つけるまで?


 それが自分である可能性は? 他の男とくっつくまで自分は彼女の日常であり続けるのか?


 「あぁ…そうか。足りなかったんだ…」

 「はぁ?何が足りないんだ?」

 「覚悟」


 関係を切る覚悟ではないのだ。


 環境を切る覚悟が必要だったんだ。


 彼女に関する関係をやめれば? そんな事ではどうにもならない。

 話さなくたって彼女は同じ学校にいる。隣の家にいる。家族同士で会う。それは人間関係では無い。


 環境だ。


 「俺…この学校を出るよ」

 「…!? お前そこまで…いや…」


 たかが告白にそこまで、と言いそうになるがユウの告白とはそういう物なのだ。


 たとえユウとシノが離れたとしても、妹どうし、親どうしは今までの様に仲良くできるのか。

本来、告白にそんな事を考えるな!と言いたいところだが、ユウは優しすぎるのだ。


 自分より他人を本気で思えるからこそ自分の事でここまで苦しむのだ。


 「…そうだな。でも、その道は簡単じゃないぞ?」

 「応援…してくれるのか?」

 「おう、この不器用野郎!」


 背をたたかれたユウの中に、何かが始まった瞬間である。



 ………


 誰もが馬鹿なことだと笑うだろう。

 意味のないことだとあざ笑うだろう。


 でも、始まってすらいない物を終わらせるには、やはり始めるしかないんだ。



 そこからユウは死にものぐるいで勉強とバイトを始めた。


 来る日も来る日も、ひたすらバイトと勉強の日々。


 ユウの覚悟を知らない者達はただの青春にしか見えない。


 だが、彼は今までの日常を続けながら死に物狂いで努力した。


 ある日、


 「ユウ、最近頑張ってるよね」

 「えっ? あぁ、そうかもな」


 昼食後の空き時間。


 幼馴染どうしの会話だが、いつもと違うのはユウの目線だろう。


 どんな時でさえ、ユウはシノの目を見て話す。当たり前の光景と動作だがそれがユウだった。


 だが彼は必死に何かの問題集を解きながらシノの問いに答える。


 「けど頑張りすぎて体壊しちゃだめだからね」

 「……そうだな…」


 それでも彼は手を止めない。シノはこの時何かの変化を感じ取る。


 同じスピードで、同じ向きに進んできた彼らの人生は確実に方向と速度が変わっている。そんなわずかな変化だが、幼馴染は敏感なのだ。


 (最近ユウがどこか変わってきてる気がする…)


 今までと変わらないと言われればそうかもしれない。


 いつもの家族ぐるみの食事や、姉妹、兄弟でのショッピング。学校での昼食。


 すべて今まで通り。


 けど、ユウの目が違う。


 見ている先が違うのか、見方が違うのか。彼は確かに変わっている。



 「ねぇ、ユウ。今度の日曜日なんだけどさ…一緒に…」

 「悪い、日曜日は予定が入っているんだ」

 「えっ、あっ、そうなんだ…」


 ユウは一瞥もくれずにデートの誘いを断る。


 ユウの中で何かが変わってきていた。


 ………


 「よっしゃぁぁぁぁぁ!!」


 ユウはある封筒の中身を確認して歓喜の声を上げる。


 直ぐに家族がいるリビングへと向かう。


 「父さん、母さん、話があるんだ」

 「何々、急に改まって…」



 「俺、アメリカの大学に行きたいんだ」





 「それにしても我が高校から東大や京大ではなく、アメリカの大学に飛び級で転入なんて史上初だぞ」

 「これからずっと称えてくれていいっすよ」 

 「バカ、調子に乗るな」

 「さ~せん」


 ユウは自身の高校の担任に転入する旨を伝えていた。


 「にしても、最初聞いたときは驚いたぞ。この前の全国模試もオール満点だそうだな」

 「話が早いっすね。頑張りましたんで」

 「親御さんはなんて言ってる?」

 「しぶしぶ認めてくれましたよ」


 すべては自分の環境を変える為。やれるとこまでやってみようと思いついた

だけだ。

 文字通り血反吐を吐く思いだったが、何とか合格することができた。

 引っ越し費用も自分で稼いで、全てを用意した状態で許可をもらっただけだ。


 「あっちは優秀な生徒にはいろいろと譲歩してくれますからねぇ」

 「耳が痛い話をするな…」

 「さ~せん」

 「クラスのみんなには別れは言ったか?」

 「えぇ、先程」


 最初、みんな度肝を抜かれたように驚いていたが純粋に応援してくれた。

 最初に背中を押してくれた親友には感謝しかない。


 「それで、いつ出発するんだ」

 「これから出発しようと思ってます」

 「それは…急だな」

 「自分から始めたことなんで、止まらないだけです!」



 学園から出るとき、教室からみんなが手を振ってくれていた。


 それにこたえるように校舎を後にするが、その中に彼女の姿は無かった。


 空港に向かうため、タクシーを待たせていたが、その中には既に彼女が乗車していた。


 「学校はいいのか?」

 「…特別に外出の許可もらったから」

 「そうか」


 それだけの会話。


 タクシーが走り出し、もう後戻りはできなくなる。


 「「……」」


 ずっと無言の二人。ユウは既に語ることは無い。


 シノは語り始める。


 「日本の大学じゃ…だめなの?」

 「おう。自分がどこまでできるか知りたいからな」

 「どれぐらいの頻度で帰ってこれるの?」

 「さぁ? 世界でも秀才が集まる大学だ。そんな暇はないんじゃないかな」

 「帰って…来ないの…?」

 「かもな」


 既に彼女が求めていた日常は瓦解した。


 彼女は何となく思っていたのだ。何となく日々を過ごして、何となく大人になり、

何となく仕事をして、もしかしたらその時までずっとユウがそばにいるんだと。


 だから事を早める必要はない、と。


 あの時、シノは選択することを恐れた。


 だが、ユウは選択した。


 自分の道を選ぶことを選択したのだ。


 「ユウ…私あの時、そんな風に思えないっていったけどさ…」

 「……」

 「けど、ほんとは――」

 「それ以上は言わないでくれ。頼む」

 「えっ…あっ…」


 それでもユウは前を見る。


 「私…ユウがいなくなったら彼氏作っちゃうかもよ?」

 「だろうな、お前モテるし」

 「…それならユウだって…」


 そうこうしているうちに空港へ到着。


 何も解決していない。何も終わっていない。


 気持ちの整理も、気持ちを終わらすことも。


 ユウは家族と別れを惜しみながら税関へと向かう。


 「行ってきます!!」


 彼はずっと笑顔だった。


 一瞬、ユウはチラリと見て柔らかく笑う。


 その瞬間だった。


 彼女の当たり前が消えた瞬間は。


 


 シノ視点


 それからの毎日は何かがぽっかりと空いてしまっていた。


 彼が居なくても日々は進む。


 考えないようにすればするほど、ふとした瞬間に彼を求めている自分がいることが、すごい虚無感を生んでいた。


 誰に告白されても前ほどドキドキは無かった。


 今まで通りの日常。家族どうしの付き合い。ショッピング。


 みんなが数週間もあれば慣れていた。だが私が慣れることは無い。


 そんな日々が続き、私も大学生となった。


 新しい生活が始まり、新しい自分になろうと思った。


 サークルでかっこいい先輩に声をかけられて、告白までされた。

確かにかっこいいし、自分を変える為と思って一日デートした。


 正直、全く楽しくなかった。


 先輩はきっと女子にモテモテのエスコートをしてくれた。誰もが喜ぶ店で誰もが喜ぶものを食べ、誰もが喜ぶプレゼントをくれた。


 「君のために有名店の限定品を用意したよ」

 「君のためにレストランを用意したよ」

 「君のためにプレゼントだ」

 「君は美しいね」


 けど、それは私が欲するものではないと気が付いた瞬間、

彼がたまらなく愛おしく感じてしまった。


 ユウ、ユウ、ユウ!!


 なんで今なの! あの日、あの瞬間に気が付いていれば…

彼は…。


 そう思った瞬間、私は先輩の誘いを断っていた。


 高級ジェラートのスイーツより、彼と一緒に食べたコンビニのアイスが欲しい。

 夜景が見えるレストランより、夜食に彼と食べたカップラーメンが食べたい。

 高級なハンドバッグに自分の荷物を入れる事より、

 彼のバッグに荷物を入れたい。

 美女だ、綺麗だ、可愛い、なんて声より、彼の「ただいま」が聞きたい。


 何となくではない。明確に彼を欲した瞬間だった。


 高校の頃に戻りたい。


 自分の恰好を見返す。


 誰かに好かれるための化粧、誰かに好かれるためのオシャレ、誰かに好かれるための私。


 そんな量産型の私がたまらなく嫌になった。


 持っていたハンドバッグを投げ捨てる。


 こんなもので私は誰に好かれたいんだ。誰でもよかったのか。いい感じのお金持ちで優しくて、かっこいい人に好かれるためか。


 その時、バッグからスマホが飛び出ていた。そのカバーは高校の時、どれがいいか迷っていた時に彼が選んでくれたものだった。


 バッグから抜き出し、スマホを強く握り抱きしめる。


 「ユウ…」


 その時、スマホが光り文章が目に入る。

送り主は高校の同級生。タイトルは同窓会。

たった一言。


 『彼、参加するって』




 成人式はまだだが、高校の同級生での同窓会が催されることとなった。


 卒業してからまだ1年だが皆がそれぞれの事を懐かしむ。


 そんな中にシノの姿があった。


 派手に着飾ることなく、髪型やメイクは高校の時を思い出させるものだった。


 そんな彼女は周りの男どもの目を集める、が誰一人として彼女を狙うようなことはしなかった。


 口々に『がんばれよ』『きっといけるさ』『応援してる』などといった声が多数ある。


 「だよね。あんな可愛い幼馴染に思われるなんて…彼は幸せ者だな~」

 「……」


 かつてユウとシノの友人だった者達の会話。だがユウの友人は知っている。

彼がどんな思いで日本を出たか。そして不安に思う。どんな気持ちで帰ってくるのか。


 そんな彼を待つシノはただユウの到着を静かに待つ。


 だが彼女の心の内はぐちゃぐちゃであった。


 (もし、彼に拒否されたら…)


 その可能性を考えるだけで目の前が真っ暗になりそうになる。

もし彼の隣に女性が居たら…。いつか彼の隣に自分以外が立ったら。


 かつてユウが感じた思いをそのまま感じ取るシノ


 (ユウもこんな気持ちだったのかな…)


 自分という存在をはっきりとさせなければ彼といられるかもしれない。

幼馴染というあいまいな存在だったら彼といられる。


 そんな考えが彼女の手を震わす。


 「ユウ…」


 「おう、久しぶりだな!」


 その時、シノの頭をなでる人物が現れた。

 彼女の最も聞きたい声で、最も触れたい手で、最もそばに居たい人物。


 成長した二人が向き合う。


 その二人を邪魔する物は居ない。


 「背…大きくなったね」

 「そういうお前は美人になったな!」


 あぁ…たまらなくうれしい。


 一番聞きたい声で聞けたことは彼女に勇気を与える。


 「あっちはどうだった?」

 「刺激的な毎日だったぞ!」


 彼の日々は進み続ける。


 私はずっと止まってる。


 「めっちゃ楽しかったけど…」

 「けど…?」


 鼓動が早くなる。止まっていた時が進み始める。


 「なんか物足りなくってな…無い物ねだりってやつだな」

 「無いものねだり…」


 私だって足りなかった。物足りなかった。一度捨てたものがたまらなく欲しかった。


 「帰ってきたのは…始めたことを終わらせる為…」

 「……」

 「シノ…俺…」

 「待って…」


 かつてと同じように止める。


 彼の道は終わらない。終わらせない。

 『好きだった』

 なんて過去形は絶対に言わせない。


 「今度は私が始めるの…」

 「シノ…?」

 




 「ユウ、私と―――ー」

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