夢と回顧と現在と【短編】
初投稿です。
読みにくい部分もあるかと思いますがよろしくお願いします。
ご注意?
今主流となっているような書き方とは違うと思います。
現代風の言葉遣いを極力使わないようにし、
会話、地の文に名詞以外の英語、和製英語、カタカナ表記をしないようにしています。
夢・・・を見ているのだと思う。
世界は白と黒、二色の濃淡で描かれた絵画のような夢。
薄暗い部屋に一人、俯き、床に座っている子供が見える。
明かりはない。木の壁・・・と、思われる隙間から多数こぼれる光だけが、わずかに部屋を照らす。
足もとを“意識”する。地に足をついている感覚がない、よくよく思考を巡らすと、見えている子供を見下ろしていることに今になって気づく。
周辺を“意識”してみる。約三メトレ四方でほぼ真四角、高さは二メトレ程度か、屋根と天井は隙間もなさそうな鉄製に見える。三方は木の壁、一方のみ太い円柱が何本も立ちあがっていて、その一部が扉のようになっていた。
―――牢屋?―――
何処か既視感を覚えた。
―――何に?―――
もう一度子供に“意識”向ける。
その子に近寄った感覚があり、先ほどよりもよく見える。
が、表情も見えない。ただうつむいている子供が目の前に見えているだけ
伸ばしっぱなしと思われる髪は床にまで届き、襤褸と思われる服は所々破れ、見える肌には傷跡もあった
―――右腕に傷?―――
何時か見た気がした。何処か嫌な感覚が蘇ってきた。
薄汚れた、まだ幼い子供、決して広くはない牢屋、長いままの髪。
―――そうか、私か・・・―――
やっと気づく。“私が私”を見ていたのか・・・
これは何時を夢に見ているのだろう。
わからない、でも、確かに、あそこに座り俯いているのは過去の私だ。
もう、どのくらい昔なのかも正確には思い出せない。
急に、何かに“意識”を引っ張られる感覚になる。
音も、動きもなかった世界に変化があった。
“意識”を向けると、牢の扉が開いていた。そして一人の人物が立っていた。
白と黒の世界でもはっきりと分る位の純白の重装の鎧を身にまとった男だった。
―――そうか、あの時か―――
男をみて、何時だったかを思い出す。
衝撃的だったはずだ、だが、あの時、彼を見て何を思い、何を感じたのかが全く思い出せない
古い記憶であることは確かだが・・・・・・
男に気づいた“過去の私”が顔を上げていた、“意識”を向けると、目が合った感覚があった。
―――っ!!―――
昏い目だった。その目から放たれたかと思うほどの闇に包まれ・・・
私は覚醒した―――
目を閉じていながらも光を感じる。
どうやら朝のようだ、そしてこの感じる光の強さから、部屋のカーテンが開けられたらしい。
動き回る気配がする、誰かなんて考える必要すらない、この屋敷には、私以外もう一人しかいない。
「起きてる?母さん?」
もう一人の住人である娘が声をかけてくる。
「ええ、いま目が覚めたわ」
ゆっくりと瞼を上げ、声のしたに目を向ける。
銀髪で、暗褐色の瞳をした私の娘が居た。
顔立ちは端正で、細身で長身、そして、特徴的な先のとがった長い耳
私の血を色濃く受けついだ、ハイエルフの少女・・・身長以外ですけど・・・
「なんか、変なこと考えてない?」
胡乱な目を私に向ける。
「そんなことは・・・・・・・・・・・・・ないわよ?」
体を起こしながら間をごまかす
「そう?ならいいけど・・・ほんとかなぁ」
相変わらずの胡乱な目で全く信じた様子のない娘に笑顔を向ける
「それより、どうしたの?私の部屋に来るなんて」
普段から出入りしていないわけではないが、朝から部屋に来ることは珍しい
「何言ってるのよ、なかなか起きてこないからよ、何度もノックしたけど全然返事がないんだもん」
やや拗ねる感じで言葉を返してくる。
「え?」
そう言われ、窓の外を見る、確かにいつもより外が明るい、続けて、部屋の壁にかけている時刻機を見る。
「もうこんな時間なのね・・・ごめんなさい」
いつもより二時間も寝坊したらしい、こんなこと滅多になかったのに・・・
「ううん、謝らなくていいよ、別に今日何か予定があったわけでもないし、眠り・・・深かった?」
何処か心配そうに声をかけてくる。
「そう・・・ね、そうかもしれないわ、ずいぶんと昔の夢を見たのよ」
「夢?」
興味津々という感じの目を私に向けてくる。
ベッドに腰掛けるように体の向きを変え、娘の目を見ながら
「初めて、お義父さんにあった日を見たのよ」と、伝える。
「そう・・・なんだ」
少し悲しそうな目をして私を見つめてくる。
過去は覚えている限り伝えている。当然大人になってからだが、多分それを思い出しているのだろう
何時までもそんな目をしてほしくなかったので、立ち上がり、軽く頭をなでてあげた
・・・私が背伸びをして・・・
「母さん、私もう子供じゃないし」
と、すっと身を引いてしまった娘を見て
「背、だいぶ伸びたよね・・・」とつぶやいてしまった
「今更?母さんは低すぎるし、童顔すぎるのよ、何度逆に間違われたことか、まったくぅ」
ぶつぶつと言いながら、私を軽く睨んでくる。
町で並んで歩いていると、私の方が娘と思われることもしばしば・・・ごめんなさい、ほとんどです
その都度、語気を強め“母です”と娘が強調している。
気持ちはわかりますよ、ええ、ですが、姉妹と間違われた上に、姉と思われることに関しては笑顔で対応した上に上機嫌になるのは何故?少し納得がいきません・・・
「そ、それで?おじいちゃんの夢って?」
露骨に話題転換してきました。何か感じ取られたでしょうか?
「初めて会った瞬間を見たという感じかしら、はっきりとは思い出せないのよ、ただ、お義父さんに目を向けた過去の私と目があった瞬間に目が覚めたのよね」
あの昏い目、あの時の私はあんな目をしていたのだろうか・・・
気が付いた時には、あの部屋だったと思う。
実の両親のことも知らない、なぜあのような形で捕まっていたのかすら分らない。
最低限の食事だけ与えられ、どこに出られるわけでもなく、ずっとあの部屋にいた。
色々と知ったのは、義父に助けられてから、数か月後だった。
私が捕まっていたのは、奴隷商人に、だった。
もともと、あの国に奴隷制度はあった、が、それは救済の意味も強く、奴隷契約はあったものの
決して、奴隷のみが不利を被るものではなかった。
むしろ引き取られる先によっては恵まれている位と言えるほどでもあった。
ですが、やはりそれでも、奴隷の扱いについて異を唱える者も少なからずいた
制度は変えられない、しかし、自分の欲求を満たすための自由になる奴隷が欲しい。
その需要があったため、違法な奴隷商人も当たり前の如く現れるようになった。
それらは、寒村や、過疎化した村から連れて行ったり、場合によっては、そこの領主と結託していたりと、ひどいものだった。
国は当然取り締まりを強化はしたが、いずれも末端のみが処理されて、根元の部分が残り続けるという、最悪の循環を繰り返していた。そのうち国の中枢までも浸食されるようになっていったようだ。
徐々に奴隷制度の在り方そのものも悪い方向へ変化しつつある中、一部の上級貴族達が立ち上がり、違法な奴隷商人の撲滅に乗り出したらしい。
その中の一つに私がいて、その殲滅隊を率いていたのが、私を引き取ってくれた義父だった。
残っていた資料を洗いざらい確認したようだったが、私の事について分かったことは、三年前に連れてこられたこと、元々何かの襲撃を受けた村の住人が、孤児になっていた私を売った事だった。
年齢については、三歳(仮)と書いてあったらしい。これ以上の事は何も分からなかった
私の人生は六歳(仮)から始まったといって良いと思う。
結局は正確な年齢がわからず、そのまま通した、という感じだった。
引き取られて、栄養のある食事をとり、ガリガリだった体も人並み程度に戻った頃だったか、耳に変化が訪れた。
それまでは普通の人間と同じだったはずの耳の先の方が伸びだしたのだった
そんな変化もありながら、語学、算術、歴史、礼儀作法を教え込まれた、と言うのも、私を引き取ってくれたのは
その国でも有数の大貴族であり、王室とも古い繋がりのある公爵家だったのだ。
そのおかげもあり、色々な知識と技術を身につけた。
十歳を迎える前に、耳の成長が止まった、と言うと語弊があるが、全体の調和が崩れなくた。
四年間で蓄えた知識で様々な文献を読み漁った結果、私自身がハイエルフという種であることを知った。
通常のエルフとは違い、生まれてから十年は凡そ人と変わらぬ成長をし、その後耳に変化が訪れるそうだ
見た目についてはエルフと同様らしいが、五十年かけてゆっくりと成長していき、その時点で人間でいうところの二十歳程度の見た目になり、その後は本当にゆっくりと成長し、せいぜい人の言うところの四十歳程度までの見た目にしかならないらしい、エルフは八百年ほどの寿命で、七百年を超えたあたりから老化が始まるようだ。
ハイエルフはというと、・・・正確な文献はなかった、何千年と生きるらしいということだけがわかった。
十二歳になり、冒険者登録をして、屋敷以外での活動も増えた。
様々な人や物、そして、人ならざる者と出会い、徐々に活動範囲を広げていった
幼いながら、出会いと別れを繰り返し、十四歳頃までだろうか、別れのたびに大泣きしていた記憶がぼんやりある。
薄れそうな記憶ではあるが、むしろその頃の自分を思い出す方が楽かもしれない。
十五歳になり人間族でいう成人になったとき義父から
「お前に、ウィンスバーグの姓を与える。この名に恥じぬ行動をしなさい」
と、強い意志を感じる目で告げられた。
義両親には子供ができなかった。ウィンスバーグという公爵家でありながら、世継ぎを儲けるために側室を置いたりもしなかった。
その事に義父は
「最悪の場合は、分家から養子を受け入れるさ、直系血族にこだわる必要などないと思っているからな」
あまり広くもない交友関係ではあったが、義父については、少し変わり者と評されることもあった
二十二歳の時、最初で最後の結婚をした。
十四歳の時に出会い、長年一緒に冒険者をしていた男だった。
最初から意識していたわけではなかったし、幾度か長期にわたり別行動していた時期もあった
一緒に行動していた期間は全部でも三年程度だったと思う。
その男との間に、双子の男女を授かった
不思議なことに、二人ともハーフエルフとして生まれたのではなく、男の子が人間、女の子がハイエルフだった
女の子がハイエルフと分ったのは、八歳を超えたころだった、私と同じように、その頃から耳に変化が現れたのだ
妊娠がわかってから、この子たちが成人するまでの間、私は公爵家へと戻り子育てに専念した。
その後も、息子娘の成長を見守りつつ冒険者稼業を続けていった。
三十八歳の時に、夫を亡くした。
依頼者でもあった護衛対象の裏切りだった。
冒険者をやっていれば少なからず起こる事だ、依頼者については入念に調べたはずだった
注意を怠らなかったにもかかわらず、見抜くことができずに、盗賊に偽装した何処かの騎士団によって襲撃を受けた。
私含め十名いた護衛は、最終的には三人となり、何とか窮地は脱したものの、喪ったものは大きかった・・・・
生き残ったうちの一人は、夫が庇ったことで生き残れたと、謝罪と感謝を繰り返していた。
悲しみは大きかったが、常日頃、夫から言われていた言葉を胸に前を向き歩みをすすめた。
五十歳の時に義母を、52歳の時に義父をなくした。
この世界において、80歳近い年齢で亡くなったことは、十分すぎるほどの長寿だった。
しかし、義両親ともに私個人としては決して納得のできる別れではなかった。
義父を喪った直後の喪失感は筆舌しがたいものだった。
救い出してもらい、とても良くしてくれた義両親には、今でも感謝している。
百七十歳頃に、一人息子が亡くなった。
ハイエルフの血を引いていたからか、153歳という年齢での老衰だった。
義両親に子供がいなかった為、この一人息子が、ウィンスバーグ家を継いでいた。
全く血のつながりもない為、当然、反発も反対もあったが、紆余曲折の末、継いでいくこととなった。
息子は、三男二女を儲け、長男を家督とし、次男はのちに商家を立ち上げるため、懇意にしていた商人のもとに修行へ出し、三男は私に預け、冒険者としてほしいと懇願された。
そして、長女は王家へ、次女は同格の公爵家へと、ウィンスバーグ家を永劫継いでいくための礎を作っていった。
息子はたくさんのものを残してくれた。
今なお、ウィンスバーグ公爵家は安泰であり、ウィンス商会としてそちらも成功を修めている。
冒険者となった血筋も絶えることなく、今なお受け継がれている。
そして今。
息子を亡くしてから、すでに三千年以上の時が流れた。
たくさんのことがあった、もちろん印象深いことも、出会いも、別れも
しかし、救出され、導いてもらい、授かり、教え導き、そして喪失
初めて接した自身に近しい人たちのこの流れが、私にとって大切な記憶であり、色あせないものでもある。
目の前で手が振られている・・・ことに気づいた
「ちょっと母さん?どうしたの?きづいてますかー?」
少し、あきれた感じで私に問いかける娘
「ごめんなさい、少し考え事を・・・・ね」
そう言い娘に笑顔を向ける
「そっか、ま、いっけどね」
私に笑顔を返し、身をひるがえしながら
「ご飯食べよ、そしたら旅に出よー」
背を向けている娘が右手を上に突き出している
「旅?」
扉まで歩いた娘がこちらに向き直り
「そう、旅、もう何年も屋敷にいるじゃない、そろそろまた旅にでようよ、流石に退屈になってきた」
あはは、と笑いながら伺うような雰囲気で提案してくる。
「そうね、また自由に冒険者でも始めましょうか、世界に変化があるのかないのか、それを見るのも楽しいですしね」
「そうそう、もう百年?位外の世界に行ってないよ、流石にまずくない?」」
私は苦笑しながら
「あはは、そろそろ実家と商会に顔ださないといけませんね」
長い時間を生きてきたため、時間の尺度が変わりすぎていた
多少進歩した文明のおかげで、遠距離での意思疎通の方法は色々できたが、未だ文字か声のみなので
そろそろ流石に会いに行くべきかと、思い出す。
「それなら、まずは実家へ行きましょうか、どうしますか?何で行く?」
「せっかくだから、馬車でゆっくり行こうよ、転移とかは・・・なんか嫌」
「わかりました。じゃ、ご飯食べて、準備して、明日朝から行きましょう、実家までは一か月位かかるわね、十分な準備をしましょう」
扉の方へ歩きながら娘へと答える
長い永い時間を生き、三千年超えてなお老化の兆しすら見えないこの体
この長い時の中で探した、ハイエルフという種に関しての資料や情報は少なすぎた
自身で、自分の記録を少しずつ残していくしかないと、思い考えたのはいつだったか
すでに、どう保管したらいいか迷うくらいの日記やら活動録やらがある。
また、旅が一息ついたら纏めようと思う。
そうだ、せっかくだから題名をつけようか・・・とは言え、名前つけ苦手なんですよねぇ・・・
後の世に残ればいいなと希望をもち、この題を付けたいと思う
--- ハイエルフ精霊術師の回顧録 ---
最後までお読みいただきありがとうございます。
お豆腐メンタルなので感想欄は今のところ閉じています。
ごめんなさい m(_ _)m
ご評価いただければ嬉しいです。
たくさんあるから、きっと埋もれちゃうんだろうなとは思ってます(笑
※これ以下は読まなくてもおっけーw
この話は、若いころを書こうとして、先にこっちが思いついた的なものです
評価いただけたり、ブクマが増えるようだったら連載考えようかなという感じです。