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覆面の風来坊 ~不二の盟友に捧げる者~  作者: バガボンド
第2部・純愛
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第1話 育ての親2(通常版)

 この瞬間から、俺達の新たな生活が始まった。




 まずは育児用具の確保。駅ビルの中にある幼児用フロアに赴いた。こういう場合は女性の意見を聞いた方がいい。4人にもご足労願った。


 次は食べ物に関する情報だ。これは後日ヴァルシェヴラームが訪問した折に聞けたが、それ以外では俺達で担わなければならない。


 何も分からない状態なだけに、雑紙などを見て知識を会得していく。手探り状態だったが、4人の手助けもあり何とかこなしていった。


 ちなみにこの時4人がヴァルシェヴラームに詰め寄ったのが印象深い。流石の彼女も4人の真剣な詰め寄りと質問攻めに、完全に参ってもいた。何とも・・・。



 現役の主婦からのアドバイスも聞いて回る。ターリュとミュックの母親のメルア。アサミとアユミの母親のナツミYU。そしてエシェラとエシェツの育ての親でリュリアの母親であるシュームにも。


 特にシュームは事態を重く見て、暫くの間一緒に行動をすると言ってくれた。そこまでは重大ではないのだが・・・。まあこれは俺達の経験不足が補えるまでの間の助け船だろう。本当に頭が下がる思いだ・・・。




「これでよしっと。」

「ありがとうございます。」

「気にしない気にしない。」


 今はエシェラの自宅へと赴いている。シュームはリュリアに作った幼児用の衣服を女の子に着せてくれた。見ただけで寸法などが把握できるそのスキルには恐れ入る。流石現役の母親であろう。


「しかし・・育ての親ねぇ・・・。最初この子を見た時は、何時の間に4人のうちの誰かと子作りに励んでいたのかと思ったわぁ~。」

「なっ・・・。」


 何という事を言い出すんだ彼女は・・・。またその発言を聞いた4人は、今だかつて見た事がないほどの大赤面をしている。耳まで赤くして俯いてしまった。


「髪の色からすればラフィナちゃんが一番の候補者だろうけど、父親の遺伝で髪の色が受け継がれる例もあるし。そうすると4人とも候補者に挙がるのかな。」

「か・・・か・・か・母さんっ!!!」


 やっとの思いで言葉を発せられたのか、裏返った声は今のエシェラの心境を物語る。だが言葉として出せたのは彼女だけで、他の3人は俯いたまま赤面しっ放しだ。


「あら、本当の事を言っただけよ。この子は血の繋がりがないけど、貴方達が彼との間に生まれた子供は同じになるわ。いい事じゃない、何を今更って感じに慌てて。」


 言われてみれば確かにそうだが・・・。それにしてもシュームの発言は爆発寸前の核爆弾を投げ付けるようなものだ。恐ろしい事この上ない・・・。


「いっその事、4人とも彼の子供を身篭ったらいいじゃない。彼を心から愛しているなら、表向きは結ばれなくても夫婦になれるわ。世の中にはそうした人達も沢山いるのよ。」


 真剣な表情で語る彼女。その言葉には世間体やモラルといった概念を超越した意味が込められているようだ。いやらしいといった部分を一切感じさせない。怖ろしいまでの一途さである。


「正直ね、周りの目を気にしての形式ばった幸せなんか下らないわ。本当に心から愛しているなら、絶対という言葉なんか存在しない。無論、それ相応の代償は受けるけどね。私が貴方達と同じ立場だったら、自分の素直な気持ちで進むわよ。」


 強いなぁ・・・。ここまで愛を語れる人物は、そうそういるものじゃない。人生論を語る彼女の言葉に、嘘偽りや無粋な考えなど微塵も感じられなかった。


「ありがとうございます、シュームさん。」

「まあちょっと過激な部分があったけどね。」

「用は決意という意味なのでしょう?」

「決意も言葉の1つよ。動物全てにある愛情も、特に人間の愛には絶対敵わないわ。言葉では言い表せない大切なもの。その欲望とも言える愛に駆られるのが、人間の悪い部分でもあり良い部分でもある。それでもね、人は愛しい人のために動いてしまうのよ。」


 どんな経験をしてきたか分からないが、シュームの言葉には痛感してしまう。それは赤面をし続ける4人も、表情だけは真面目さが滲み出ているほどだ。



「そうだ、ミスターT君。私と再婚しない?」

「はぁ?!」

「前に言ったでしょ、私なら貴方を一生涯面倒見れるって。それにね・・・、君は亡き夫に似ているから・・・。そのね・・・好きになっちゃってさ・・・。」


 今まで見た事がない表情のシューム。頬を染め照れる仕草は形作ったものではない。心から惚れ込んでいる人物でしかだせないものだ。野郎としては嬉しいが・・・、何とも・・・。


「あ・・ごめんね・・・、ちょっと思い出しちゃった・・・。」


 涙を流しながら俯く。今の発言で亡き旦那さんを思い出してしまったようだ。それに今までの渾身の語りもあったのだろう、今になって罪悪感が出てきているようだ。



 俺は傍で静かに泣く彼女を抱きしめる。今の俺にしかできない事だ。普段気丈な彼女が泣くというのだから、心中ではどれだけの思いが渦巻いているのか分からない。


 それに俺はとんだ思い違いをしていた。シュームもナツミYUみたいに歳が離れていると思い込んでいた。だが実際には俺と彼女との年齢は1つしか違わないのだ。普段気丈でいるのは、それだけ無理をしている現われだったのだ。



「・・・ありがとう、シューム。君には何度も助けて貰ってるね。」

「そんな事ない・・・。エシェラちゃんやエシェツちゃん・・・、それにリュリアの面倒を見てくれている・・・。それに・・・こうして心の支えにもなってくれた・・・。」


 精一杯に応えるが、今までの強気のシュームはなかった。自分と同じ年代の女性であり、どれだけ無理していたのかが今になって分かった。俺は情けない・・・。


「辛かっただろう。自分を押し殺してまでエシェラ達を育ててくれた。顔は笑っても、心では泣いていたんだね・・・。ごめんな・・・、君の悲しみに気付けなくて・・・。本当にごめん・・・。」

「う・・うう・・・ううっ・・・。」


 感情の蓋が外れたシュームは大泣きしだした。今まで溜まっていた悲しみを涙として出しているかのように。その彼女を強く抱きしめ、胸の中で泣かせてあげた。




 どれぐらいそうしていただろう。シュームを抱きしめたまま時は過ぎていった。周りにいる4人も、ただ黙っていてくれた。女の子もシュームの泣き声で泣かず、黙ってくれている。


「・・・実はね、亡き夫とは未婚なの。まだ彼と会う前に別の女に誑かされて、いいように振り回されていた。そんな中、暴漢に襲われそうになった私を助けてくれたの・・・。最初は下心があると思ってた。でも・・・私といると安らぐと言ってくれた。その心に惹かれてね、好きになったのよ・・・。」


 徐に語りだす。それは彼女の本当の過去話。俺は驚いたが、今は静かに聞きに徹した。また4人も静かに聞き入っている。


「彼を心から愛してしまった・・・、どうしようもないほどに・・・。もちろんお互いを求め合ったわ・・・、数え切れないほどにね・・・。でも・・・ある日、その女にバレて大変な事になったの。大喧嘩に発展してね・・・、愛しい人を刺し殺したのよ・・・。自分も後を追うんだって言って、女の方も自殺したわ。」


 再び泣き出すシューム。しかし声色はしっかりとしていた。その後も心の内を語り続ける。今まで心の内に留めていた事を洗い浚い語っているかのようであった。


「悲しかった・・・。彼が死んでしまったのもあるけど・・・、守れなかった事が何よりも悔しかった・・・。でも彼の子供、リュリアを身篭る事ができた。彼との大切な子供よ、だから命に代えてでも守らなきゃって・・・。」


 シュームが愛しい人に対して異様な執着を示す事を窺った。4人が俺の事を思う姿は、彼女の過去を照らし合わせているようなものだろう。それに今も行動できていない彼女達を見て、我慢できずに動いたのだろうな。


「・・・一時の幸せを、か。」

「リュリアが大人になったら、この事を話そうと思う。嫌われてもいい、私の愛しい人の大切な子なのだから・・・。」

「嫌わないさ、必ず君の心を理解してくれるよ。シュームがリュリアを心から愛しているのだから嫌う筈がない。君に似て肝っ玉が据わってじゃじゃ馬でお転婆だけど、心は君と同じでどこまでも純粋で一途だ。誇りに思っていい。」

「・・・ありがとう・・・。」


 リュリアなら必ず理解してくれる。シュームがこれだけ愛を注いでいるのだから間違いはない。どこまでも純粋に自分の生き様を貫くだろう。




「ごめんね、見苦しい所見せちゃって。」

「気にしないで。」

「お姉さんの強さ、しっかりと理解しましたから。」

「全部自分で背負う事はありませんよ。」

「私達姉妹じゃないですか。」


 落ち着いたシュームは4人に謝りだす。普段気丈な彼女の本当の一面を見れた彼女達は、構わないと語っている。それに激励もしだした。これにシュームは涙を流して感謝している。


「貴方達も頑張りなさい。これだけ魅力的で優しい人なんか絶対にいない。後悔してでもいい、彼との思い出は必ず持ちなさい。」


 力強く発言する。その意味合いを感じ取った4人。頬を染めながらも、力強く頷いている。女としての激励をしてくれた彼女に、俺も男としての激励をしないとマズいよな・・・。


「これは恋愛に結び付けるなよ。」


 俺はシュームをソッと抱き寄せ唇を重ねた。驚いた表情を浮かべる彼女だったが、まるで気が抜けたように身を委ねてくる。いや、積極的に口づけをしてきた。これが大人の力というものだろう。これで少しは慰めになればいいのだが・・・。




「・・・今の言葉だけど無駄だからね。私を本気にさせたらどうなるのか、必ず後悔すると思うわよ。」

「・・・だろうと思った・・・。」


 長い口づけを終えて胸の中で余韻に浸る。その彼女が徐に語りだした。これは言わば宣戦布告だろうな・・・。でもいいか、彼女の支えになれるのなら・・・。


「フフッ、半分は冗談よ。でも・・・半分は本気に取らせてね。貴方を愛してしまったのは間違いないから・・・。」

「ま・・待った、心に決めた人はどうなるんだ?」

「心に決めた人との大切な宝物はリュリアよ。あの子を幸せにするのが私の使命だから。でも私自身も、もう一度幸せになる事も必要よ。エシェラちゃん達から厄介がまれても構わない。貴方を心から愛している・・・、この思いは誰にも負けたくない・・・。」


 そう言うと再び唇を重ねてくる。怖ろしいまでに積極的だ、濃厚な口づけに焦るしかない。4人はと言うと、赤面して見入っている。彼女達もシュームが相手では反論できないようだ。ここは素直に彼女の厚意に従うしかないな・・・。




 その後本店レミセンへと戻った。女の子の衣服をくれた事よりも、シュームの生い立ちと後の出来事に当てられた。野郎としては嬉しいが、彼女の一途さは尋常じゃない。


「・・・愛かぁ・・・。」


 厨房で女の子に飲ませるミルクを作る。その中で小さく呟いたシンシア。大人の女性の一途さを当てられた彼女、その余韻は今も続いているようだ。


「純粋に愛しい人を思う・・・、私にもできるのかな・・・。」

「今も世間体を気にしていている俺には無理か・・・。」

「確かにそうですけど・・・。」

「ミスターT様はまだ私達より一歩先にいらっしゃいます。シューム様を虜にするほどの純粋さを持っていますし。」


 シンシアが作ってくれたミルクを哺乳瓶に入れる。それを女の子に吸わせると、勢いよく飲みだした。食欲旺盛の姿を見れば、今後の食事は問題なさそうだ。


「・・・ごめんな、一線を超えられない馬鹿で。」

「き・・気にしないで下さい・・・。実際に行おうとするには・・・勇気が要りますよ。」

「勢いあってのキスならできるけど、シュームさんみたいに積極的には・・・。」

「貴方は凄いですよ。私達がその瞬間に望んでいる事を、見事にしてくれていたじゃないですか。」

「母さんが惚れる訳だよ。今も憧れるぐらいだから・・・。」

「・・・ありがとう。」


 シュームの場合は特別なケースと言えるのだろうか。恋は盲目と言うが、彼女の場合は恋は我武者羅に突き進めが似合う。


 しかし俺も彼女達もそこまでは行き切れていない。それが本当に正しいのかと言われると、答えは非常に出し難いが・・・。



「あのさ・・・、わ・・私は何時でもいいからね・・・。」

「ば・・馬鹿野郎!」

「こらぁ~、女の子に向かって失礼だよ貴方はっ!」

「一大決心の告白なのですから、少しは気遣ってあげて下さい。」

「もちろん私達も同じですけどね・・・。」


 頬を染めながらも力強く語る彼女達。この4人には世話になりっぱなしだな。その彼女達に最大限応じれないのであれば、俺としての原点回帰に相反するものだろう。


 かといって直ぐに動けとは無理だろうなぁ・・・。シュームの我武者羅に突き進むという心を分けて貰いたいものだ・・・。




 形はどうあれ、4人の期待に応えねばならない時が必ず来る。それは間違いない・・・。その時に俺は心から応じる事が出来るのか・・・。


 その時こそ、俺の人生で最大の戦いになるのだろうな・・・。


    第2部・第2話へと続く。

 シュームさんの過去が明らかに。この設定は、風来坊独自のものですが、警護者や探索者などでのシングルマザーの設定は同じとなります(内容を語られていないだけという)。本当に、作品を描く創生者は、登場するキャラを生かすも殺すもお手の物ですよね。ある意味、嫌になる役割ですわ・・・。


 それでも、描き続けねば作品は完成しません。この矛盾とした部分に抗うのが、創生者たる使命なのかも知れませんね。今後も奮起していかねば・・・。

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