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覆面の風来坊 ~不二の盟友に捧げる者~  作者: バガボンド
第1部・恋愛
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第2話 躯屡聖堕2(通常版)

「あんたら何やってんだ?」


 突如声を掛けられ、飛び上がらんばかりに驚く。背後にはスーツ姿の女性がいる。俺達の行動を不審がっていた。


「あ・・いや何だ・・・。」

「はは~ん、あんたらヤル最中だったのか。邪魔して悪かったね。」

「ち・・・ち・違いますっ!」


 な・・何を言い出すんだコイツは・・・。まあ、勘違いされるだけならまだいい方かもな。だがエシェラの方は大赤面で慌ててる。これは何とも言い難い・・・。


「だったら何よ、そこから何かを見てたというの?」

「・・・分かった、正直に話すよ。」


 この女性には嘘は付けられないようだ。仕方がない、彼女に素直に話そう。それに突破口になるかも知れない。



 俺はここまで来た経緯を丁寧に語った。それを改めて知ったエシェラも驚いている。ある意味お節介の偽善者的な振る舞いだ。


 それでも後悔してからでは遅いのだ。今できる事をするのが、風来坊たる俺の生き様の1つでもある。




「本気で言ってるのか、それ・・・。」


 やはり驚いている。彼女は米山百合子。躯屡聖堕のヘッド、東山天城の恋人だ。彼女もまた暴走族という事だが、普通のOLもしている。


 週に1回の会議の際、周りの様子を窺う警備役を担っている。その最中、俺とエシェラを発見したという事だ。


「どう考えてもおかしいだろう。あれだけ周りを気遣いながら動くのは。周りに何とかしてくれと訴えかけている。俺にはそうとしか捉えられない。」

「とことん馬鹿だよアンタ・・・。」


 呆れ返っているユリコY。しかし出会った時よりも表情が柔らかくなっている。彼女もまた、彼らと同じ考えなのだろう。


「分かった。アンタをアマギHに会わせてあげる。ただどうなっても知らないよ。」

「俺の命で彼らが更生されるなら安いものだ。喜んで捧げるよ。」


 俺なんかの命で人が助かるのなら構わない。それも躯屡聖堕の規模は日本中。となれば本当に安いものだろう。


「何かあった時、彼女の事は任せな。安全な場所まで逃がすから。」

「恩に切るよ、ユリコY君。」


 俺の言葉に小さく照れる仕草を見せる彼女。今の今までこうやって会話された事がなかったと思われる。これはこれでいい経験をしたものだ。


 その後ユリコYに案内され、アマギH達がいる駐車場へと向かった。いよいよ躯屡聖堕のヘッドとご対面だ。




 周りを取り囲まれる。とはいっても見守るというのが正しいか。俺の目の前には族長である東山天城がいる。彼の目を見て直感した、揺るぎない信念を据える事を。


 離れた所ではエシェラが見守っている。傍らにはユリコYも一緒だ。俺の言動でこちらを認めたのか、ユリコYの表情は出会った頃より完全に穏やかになっている。



「で、何なんだテメェは。」

「ミスターTという風来坊さ。」


 彼らの素性は知っているため、今は簡単な自己紹介を行った。それよりも大事な事があるのだから。


「それよりも、今のお前達は満足なのか?」

「何だぁ、テメェにとやかく言われる筋合いはないっ!」

「大有りだよ。お前、自分の目を見た事はないのか?」

「だから何だってんだよ、俺達に構うなっ!」


 ヤンキー口調で怒鳴り続けるアマギH。だが会話の節々には、どことなく悲しみを感じた。間違いない、彼は助けを求めている。


「交通規則を守り、周りに多大な迷惑を掛けない。煙草は吸わず、規律は乱れていない。これのどこに愚者を感じさせる。明らかに助けを求めているじゃないか。」


 俺の発言に一同黙り込む。図星だ、明確な決定打を突き付けたのだから。彼らは無意識に行動していたようではあるが、見ている人はいるとういう事である。


「7年間日本中を回ってきた。その中で色々な暴走族やヤンキーを見てきた。だがお前達は全く違う。規模も違うが規格も違っている。それだけの力を何故いい方に使わない。下手をすれば日本を変えるだけの力があるんだぞ。」

「・・・アンタに何が分かるんだよ。」

「少なくても自分から逃げている事だけは分かる。正しい道を進みたいと思っていても、それができるかどうか分からない不安も。進めるだけの力はあるのに進まない、それに対しての己への強い怒りと悲しみ。」

「・・・お人好しの戯言だな。」


 難癖を付けるが、先程までの威勢が完全に失せている。周りの仲間達もすっかり意気消沈だ。それだけに俺の叫びは彼らの心にしっかりと届いているだろう。


「いい加減自分を許したらどうだ。己を許せない故に非行に走る。その気持ちは分かる。変革は自分自身が強く変わろうという一念、それがあればできない事はない。」


 俺は今までそうやって生きてきた。自分自身を見つめ直す旅、それこそが風来坊の理だ。この生き様は彼らにも十分伝わるだろう。


「少なくとも俺は味方だ、誰が何と言おうがな。でなければこんな損な役割、話する筈がない。お前さん達を修正はできなくてもできる事はある。背中を押す事ぐらいはね。」


 徐に一服する。過去を振り返りながら話す場合、どうも煙草を吸う癖がある。まあ自分自身を落ち着かせるという意味合いもあるが。


「・・・・・。」

「直ぐに答えを出せとは言わない。お前達が変わりたいと思った瞬間こそが、愚者道から脱する突破口だ。」


 意気消沈した彼ら。先程までの勢いは一切なく、ただ俺の言葉に耳を傾けるだけである。どうやら説得は効いたようであろう。


「・・・分かった、アンタを信じる。」

「ヘッド!」

「何も言うな。お前達も彼の考えに急所を突かれただろう。もう終わりにしよう。」


 先程までのアマギHとは比べほどにならないほど穏やかだ。一瞬にして変革したといえる。いや、それだけ変えたかったのだ。自分自身を・・・。




 彼が話終えた直後、何かを引く音がする。これは・・・弓の弦、まさか・・・。


 俺は咄嗟にアマギHの左側へと進み出る。直後空気を切り裂くような音が響く。それは彼の左側から向かってきた。だがそれは俺の右肩に突き刺さり、肩を完全に貫通する。


 この威力、間違いない。本格的なボウガンだ。この軌道だと間違いなくアマギHを狙っていた。つまりは殺しに掛かったという事だ。



「おい大丈夫かっ!!!」

「・・・あいつは誰だ?」


 その場に膝を着く。流石にこの痛みでは膝を着かねばやってられない。咄嗟に気遣いの一面を見せる一同。この部分を見れば、根は心優しい好青年だという事が痛感できる。


「あ~あ、ダメになっちゃったねぇ~。」

「テメェ、ゼラエル。どういう事だ、何故テメェがここにいる?!」

「気付かなかったのか。集団行動をしていた時、1人だけギラついた殺気を放っていた奴がいたのを。おそらく何らかの刺客だろう。監視されていたという事だ。」

「ほぉ~、名推理だ事。だが無駄な事、テメェ等はこの場で潰されるんだからなぁ。」


 そう言うと夥しい人物が現れだす。どうやらゼラエルの仲間達のようだ。おそらくは躯屡聖堕の会議を襲撃するつもりでいたのだろう。


「抵抗したって無駄だよ、テメェ等はここで潰す。そして新たな躯屡聖堕を設立し、俺様が支配者になるんだからなぁ!」

「・・・哀れだな。」

「何だとっ?!」


 俺の肩の傷を見て安心したのか、徐に立ち上がるアマギH。そこに集まる仲間達。今までにないほどの、怒りに満ちた表情だ。


「俺はヘッドだが、仲間達を支配したつもりはない。それぞれ独自に稼ぎ動き、しっかりと生活は賄っている。カンパは募ったが、それぞれの車両などは自前だ。支配という無粋な考えが働くようじゃ、テメェにはリーダーの資格はない。」

「貴様・・・。」

「テメェに躯屡聖堕の言葉は似合わねぇんだよっ!」

「そうだな・・・。似合うとすれば、悪陣営ぐらいかな。」

「ぐっ・・・お前等やっちまえっ!!!」


 ゼラエルの号令で次々と襲い掛かる手下達。アマギH達も応戦しだした。そこに飛び入り参戦でエシェラとユリコYも入っていく。何だかなぁ・・・。



 凄まじい戦いだが、アマギH達の方が圧倒的に有利だった。それに見る所、躯屡聖堕側は相手の顔・股間・それ以外の急所は外して殴っている。それだけ余裕を持った応戦だ。


 エシェラとユリコYだけは容赦ない一撃を繰り出している。女をなめるなといった雰囲気が色濃い。この場合は手出しはしない方がいいだろう・・・、何とも・・・。




 徹底的に叩き潰されたゼラエル達。躯屡聖堕側とエシェラ・ユリコYは全くと言っていいほどダメージを負っていない。それだけ相手が弱い証拠だろう。いや、彼らの方が強いのか。


「ぐ・・・ぢぎじょう・・・。」


 哀れだ、可哀想にも思える。だが悪には変わりない。一歩間違えれば殺人者になっていたかも知れないのに。


 俺は地面へ倒れ込んでいるゼラエルの傍へと歩み寄る。右肩に突き刺さった矢が凄まじい程の激痛だが、心は今までになく落ち着いている。


「・・・一応言っておく。殴り合いには応じる、だが凶器だけはご法度だ。今度彼らに同じ真似をしたら、俺も容赦なく貴様を殺すからな。風来坊をなめるなよ・・・。」


 出せる限りの殺気と闘気を振り絞り、ゼラエル達に威圧しながら語る。それを聞いた彼らは悪魔でも見たかのような形相で恐れ慄いている。またそれはアマギH達もそうだった。


 重い足取りでその場を去ろうとしているゼラエル達。これに懲りて悪事を働かなければいいがな。




 その後、騒ぎを聴き付けて警察が現れる。完膚無きまでに叩き潰されたゼラエル達、誰一人として逃げきれず次々と捕まっていく。無論関与した俺達も捕まる事になったが、ここで予想もしない助っ人が現れた。


「まったく、ウィレナ君達が心配して付いて行ったのが正解だったな。」


 そうトーマスC、喫茶店のマスターだ。それにトーマスKもナツミYUもいる。これは何か裏がありそうだ。


「何でまたマスターがいるんです?」

「シークレットサービスの関連で警察のトップと知り合ってね。顔見知りでさ、直々に動いてくれと依頼が入ったのよ。」

「待った、マスターは一戦退いたんじゃないのか?」

「私と先輩は一戦は退きました。ですが動けないという事ではありません。言わば隠居した傭兵とでも言いましょうか。依頼があれば本業に戻りますよ。」


 してやられた。トーマスCもトーマスKもシークレットサービスの副業をやっているようだ。それは本業の時よりも緩くなったが、この日本では警察以上の動きが可能という。依頼が舞い込めば動くと、正しく傭兵そのものだ。


「何故ナツミYUさんまで?」

「こう見えて私も元シークレットサービスよ。隠居した後は小中高大学の校長として行動しているの。子供達を守るためだもの、喜んで志願したわよ。」


 この美丈夫も只者じゃない訳だ。格闘家さながら、本気を出せば凄まじい事この上なし。何時もは何処にでもいる教師の顔を持つが、いざ真の姿を出せば猛者に早代わりである。



「君がトーマスC氏が言っていたミスターT君だね。」

「貴方は?」

「国内全ての警察機構を任されている、ライディル=クルヴェイアという。連れは補佐官のサーベンとチェブレ。私も含めて元シークレットサービスだよ。」


 この巨漢が警察のトップなのか。怖ろしいものだ。でも人柄はよさそうで、熱血漢風の出で立ちが強い。負けず嫌い故に悪は許さないといった雰囲気だ。


「先輩から窺っている。後は任せてくれ。」

「アマギH達はどうなるのですか。彼らも捕まるのなら、俺が代わりに捕まります。発端は俺にあるのですから。」


 今回の騒動の引き金は独断行動によるもの。責任は全て俺にある。アマギH達には何の罪もない。


「フフッ、先輩が言われた通りの人物だ。大丈夫、しょっ引くのはゼラエル達だけだ。」

「ゼラエル達には手を焼かされていてね。かといって一方的に叩くと問題もある。皮肉だが躯屡聖堕の面々を利用させて貰った事になる。」

「何だかなぁ~・・・。」


 苦笑いを浮かべるアマギH達。しかし先程の戦いが悪党退治に変わりはない。心はスッキリしているようだ。それに彼らの顔を見れば痛感できる。今まで背負っていた悪役という役割を脱ぎ捨てられたのが分かった。




 数時間で決着が着く。俺の説得よりも早く、ゼラエル達はライディル達に捕まった。その手際の良さは、さながらアメリカのSWATと同じだろうか。裏の処理係とも言える。


 俺の肩の傷はライディル達と会話中に、移動医療の車両の力で治療された。縫合されたのかどうか分からないぐらい痛みがない。本当に手際良く終わる。


 アマギH達は俺との口約束で躯屡聖堕を解散させた。後々正式に解散表明をだすそうだ。そこまでするならやらなければよかったのだろうが・・・。


 まあ今があるのは彼らのお陰でもあるしな、素直に感謝しよう・・・。



「バイクは持っていくよ。その腕じゃ当分は運転できなさそうだからね。」

「お願いします。」

「任せて。」


 トーマスC・トーマスKは自前のバイクで引き上げていく。ナツミYUはライディル達と一緒に来たようで、俺のバイクを運転して運んでくれた。右肩を矢が貫いたのだ、当分の間は運転は無理だろう。


「俺達も引き上げるが、兄貴はどうする?」

「明日休日だし、暫くしてから帰るよ。」

「分かった。また後日会おうぜ。」


 そう語ると躯屡聖堕の面々と一緒に引き上げていく。衣服は暴走族縁の特攻服だが、今までの爆音は一切出さない帰還だ。正しく異様としか思えない。




「大変でしたね。」


 辺りはすっかり暗闇に覆われている。遠くの方にある大観覧車のネオンが輝かしい。近くの石段に腰を掛け、一服しながら缶コーヒーを飲む。


 隣にはエシェラがいる。先程の格闘術は凄まじいものだった。並居る大人を片っ端から投げ飛ばしていく。隙を与える間さえない、完璧な戦闘スタイルだ。


「君にも迷惑を掛けた。」

「何を言うのです。これほどスリリングな一時はありません。それに、日々鍛錬をしている成果が実ったのです。嬉しい限りですよ。」

「ハハッ、君らしい。」


 まだ10代なのに大人顔負けの強さだ。これで成人を迎えれば間違いなく猛者になるだろう。それに一役買えた事に誇りに思う。


「でも・・・、もう少し自分を労わってあげて下さい・・・。」

「大丈夫さ、心配しなくていい。」

「これが心配しなくてどうするのですっ!」


 突然大声で怒鳴りだした。どうやら先程の興奮による反動が、今になって出てきたようだ。だが実際は違った、これは俺に対する一念か。


「一歩間違ってたら死んでいたのですよ。それに自分の命を捧げるとか、あまりにも身勝手すぎます。心配している身にもなって下さいっ!」

「・・・ありがとうエシェラ。」


 俺の率直な言葉に、今度は泣きながら俯いた。やはり俺の浅はかな言動が、彼女にとっては苦痛になったのか。そこまでして俺の事を想ってくれているのか・・・。


「君には感謝している。出会ってまだ2週間だが、この間に勇気という武器をくれた。でなければ思い切った行動なんかできなかっただろう。君と会わなければ、彼らを救う事もできなかった。本当に感謝している。」


 彼女の存在は大きなものだ。特に勇気という最大の武器を俺に与えてくれた。何げない発言も励みになる、そして癒しにもなる。本当に感謝し尽くせない。


「・・・本当に感謝していますか?」

「嘘を言って何になるよ。」

「・・・なら、しっかりと行動で示して下さい・・・。」


 そう言うと目を瞑り、黙って俺の方を向く。このシチュエーションになるとは、乙女心は全く分からない。というか彼女の手の内で踊っているに過ぎないのだろう。


 だが、誠心誠意応えるのが俺の生き様。目には目を、行動には行動を。これは仕方がないものなのだろうな。



 俺は彼女に行動で返した。端から見れば犯罪とも言える年齢だが、彼女が望んでいるなら応じよう。ソッと唇を重ね、甘い一時を以て感謝に代えさせてもらった。




 その後も俺の左肩に寄り添うエシェラ。こんな俺でも役立つ事があるのだ、実に不思議な気分だな・・・。


 一時の安らぎをくれたエシェラに感謝しよう。


    第1部・第3話へと続く。

 覆面シリーズでの初の、敵側に名前が付いたキャラ、ゼラエルさん@@; 他に4人ほど出てきますが、警護者や探索者を踏まえると、突飛した印象を残したのかと。やはり名前は大事ですわ(>∞<)


 しかし、登場する面々やシナリオを見て、感慨深い思いになります><; 数年振りの同作への対峙は、ある意味原点回帰ザ・レミニッセンスでしょうね(=∞=)

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