第15話 信念と執念1(通常版)
古い年が過ぎ、新しい年へと進む。12月から翌年1月へ。大晦日は4人とも俺の自宅へと押し掛け、新年になる瞬間を祝った。というか何故俺の家なんだ・・・。
行く年来る年の瞬間はエラい騒ぎまくった。俺以外誰も住んでいないアパートだからいいものの、これが普通の状態なら苦情が来る筈だ・・・。
まあ1年に1度の恒例行事だ。このぐらいは大目に見てくれるだろう。現に年々イベントの数も多くなってきているのだから。
ちなみに年齢的に深夜番組は無理ではあるが、それ以外ではエシュリオスとエフィーシュの2人も番組出演している。
ヴァルシェヴラームに触発された後からは、自分自身を曝け出して活動している。それがお堅いお嬢様の雰囲気を和ませ、何処でもいる女の子の姿にさせているのだ。
役者からお笑いまでの幅広い枠のレパートリーを熟知している双子。相手が誰であろうが、自然体で接する姿には恐れ入った。間違いなくこの2人は大物になるだろう。
翌日はライディル達に呼ばれ、警察庁へと赴く。新年早々からの呼び出しとあり、4人も来たがっていた。だが今回は遠慮して貰った。内容がかなり大変だと言うからだ。
「偽警官と覆面暴漢ですか・・・。」
「偽警官は目下捜索中だが、覆面暴漢に関しては情報が少なすぎる。無論君を疑って召喚した訳ではない事は事実だ。我々は君に絶大な信頼を寄せているが、周りには浸透していないのが実情だからね。」
ライディル・サーベン・チェブレと取調室で会話をする。ここなら変な会話は聞かれないと踏んだからだ。ライディル達も内部の不穏な動きに警戒しており、かなりピリピリした雰囲気が強い。
「覆面暴漢が君を利用しようと画策しているかも知れない。充分注意してくれ。」
「俺よりも皆さんがヤバくありませんか?」
俺の存在よりも3人の存在の方が大変である。下手な事をすれば今の地位が危うくなる。それに彼らがいるから今の現状が維持できている。彼らがいなくなったら、彼らを信じて共闘している人達が路頭に迷う事になるのだから。
「こういった修羅場は何度も潜ってるから問題ないさ。悪党は潰すのが俺達の信条だから。しかし関係のない人物まで迷惑を掛けたくないからね。」
「何かあったら優先的に連絡するよ。君の方も何かあったら直ぐに言ってくれ。」
「恩に切ります。」
警察機構トップの人物からの労い。間違いなく信頼を置いてもいい。それに彼らはトーマスCの弟子なのだ。信頼しない方が失礼極まりない。
「何を言っているんだ。君のお陰で世の中が平和になりつつあるんだよ。」
「アマギH君も積極的に協力してくれている。躯屡聖堕の連絡網で犯罪を未然に防ぐという手段も勝ち取れているんだ。」
「返しきれない恩があるのは俺達の方だよ。」
「ありがとうございます・・・。」
3人のさっきまでのキリキリした雰囲気がなくなっている。落ち着いた雰囲気になってると言うか。
そう言えばエシェラ達も苛立っている時に俺と話すと落ち着くと言う。その関係性もあるのだろうな。俺は内部極秘情報を教えて貰い帰宅した。内部の方でも色々と大変だなぁ・・・。
それから数週間後、事件は起きた。例の覆面暴漢が強盗をしたというのだ。しかも負傷者を出したという事から、相手は凶器持ちとなるだろう。
騒然としだした街並みは静まり返っている。学校は集団下校を行い、生徒達の安全を最優先しだした。
また俺の直感と洞察力が騒ぎ立てる。これはゼラエル達のように、何らかの大きな力が存在しているという事を。
俺は躯屡聖堕リーダーのアマギHとユリコYに事の次第を話し、独自に調査を依頼した。このヤマが大きければ、間違いなく犠牲者が出る可能性が高い。先手を打たねば死者が出るかも知れないのだ。
「あまり危ない頼みはしたくないのだが、調べてくれないか?」
「水臭い事言わないで下さい、俺達は兄弟なんですよ。」
「マスターの仰っていた件、内部で調査してみます。」
日本中の躯屡聖堕メンバーの激励から帰ってきたアマギHとユリコY。以前よりも雰囲気が丸くなった。物腰が柔らかくなったとも言うべきか。それでも心中の決意は全く変わらない。
アマギHは日本中の躯屡聖堕メンバーに連絡をして、覆面暴漢と偽警官の足元を調べだす。その手際の良さは以前よりも増して強くなっている。
覆面暴漢が出たのは地元だから、この行動は意味をなさないようにも思える。だが行動拠点が都内とは限らない。ここは全体から一点に絞っていくのが無難な戦法だろう。
ユリコYは新たに発足した女性躯屡聖堕メンバーにアポを取り、女性の武器を生かした戦いをしだした。こればかりは野郎には無理な事だが、大丈夫なのかと心配になる・・・。
ちなみに地元で働く女性達の大半はメンバーである。ユリコYの生き様に感銘を受け、彼女と共に戦いたいと申し出たようなのだ。
やはり時代は女性の力を必要としている。野郎だけが表を支配し、女性が裏に隠れてしまう過去の時代は終わったのだ。
本当に頭が上がらない。女性は素晴らしいものだ・・・。エシェラ達にも感謝しないと。
更に数日後、何と地元で覆面暴漢が出没したという。幸いにも被害は遭っていないが、街は今まで以上に騒然となった。それと同時に俺に対しての目線が痛々しい。
俺も無実を証明するために、地域全体での会議に出席する。無実も何も俺ではないのは事実なのだが・・・。
「彼をそんな阿呆と一緒にするな!」
「ああ、彼ほど周りを気遣う存在など他にいない!」
「何度か迷子になった子供を保護してくれた事もある。私達は信頼しているんだ。」
「俺もそうだ。今回の一件は何か裏があると確信している。時間は掛かるが、尻尾を掴んでみせるよ。」
俺の話題が取り上げられると、周りは一斉に擁護してくれた。本当に嬉しい限りだ・・・。それに普段からの行動もある。
誠意ある対応を、人々に幸せを。その信念と執念は周りにしっかりと評価されていたのだ。
「直接ぶっ叩ければ楽なんだけどね。」
「そうねぇ~。」
この美丈夫は怖ろしい。格闘術をフルに発揮し、今まで痴漢や暴漢を徹底的に潰してきた。そこまで個人としての戦闘力が強い証拠だ。実に頼もしいが、ある意味怖い・・・。
「君は何も考えずにいればいいよ。私達は君に救われ続けているんだから。偶には恩返しをしないとバチが当たるさ。」
「ありがとうございます。」
シュームの発言に一同力強く頷いている。その彼らに深々と頭を下げた。俺はただただ感謝するしかない。本当にありがとう・・・。
翌日。俺はライディルの使いという人物に呼び出され、警察庁へと赴いた。覆面暴漢の情報が得られたのだろう。
だが、現実は真逆へと進展していった。俺の悪い予感が見事的中してしまったのだ。
今俺は警察庁本部の独房に叩き込まれている。ライディル達は地方の公演と激励に向かっており、ここには俺を知る人物はいない。それが仇となってしまった。
臨時で指揮を任されている総監は、俺が覆面暴漢と言い放ち逮捕に踏み切ったのだ。現状が全く把握できない状態だったが、これだけは言える。間違いなく裏に何かあると・・・。
「貴様が犯人だという事は挙がっているんだ。大人しく白状したらどうだ。」
「黙秘を続けさせてもらう。話す義理も義務もない。」
こういう場合は下手な事は一切話さない方がいい。逆に動揺すれば相手に付け込まれる隙を与えてしまう。
「悪人に黙秘権などない。悪は悪なのだからな!」
「ならそちらが正義とも言い切れない。人を信じれない自体、警察官として成り立たない存在だ。」
「貴様、まだ減らず口を叩くかっ!!!」
激怒した総監は手に持つ資料を俺に叩き付ける。これだけで充分な傷害罪となるが、今はただ黙っていた方がいい。
「噂は聞いている。周りの人物を惑わし、自分のいいように事を運んでいると。特に警察機構トップの人物と大変仲がいいと言うじゃないか。今までの犯罪全て、奴らに揉み消して貰っていたのだろうがっ!」
どこからこんな事を言うのだ、呆れ返るしかない。だがライディル達をよく思っていないという事は理解できた。これは間違いなく逆恨みだ。
もう少し様子を見たいが、俺の堪忍袋が耐えられればいいが・・・。
「躯屡聖堕もそうだ。あんな屑の集まり何の役にも立たん。今更お膳立てしても悪党は悪党だ。それに荷担する三島ジェネラルカンパニーの連中もだ。貴様も奴らと同じ、屑なんだよ!」
・・・ああ、俺の堪忍袋の尾をキレさせるには充分な内容だな。もう我慢する必要もないか、反撃を開始するとしよう・・・。
俺は対面する総監に向かって逆に資料を投げ付ける。堪忍袋の尾が切れ、溜まっていたものが一気に噴出していった。
でもラフィナの時のようなブチ切れ状態にはならない。これは相手がどう考えてもおかしいと把握できているからだろう。不思議なものだ・・・。
「ほぉ・・・そうかそうか・・・。ライディル達も躯屡聖堕も三島ジェネカンも屑と言い切るのか・・・。なら貴様が彼らを超える行動をしたら、全てを正直に話そう・・・。まあ絶対に無理だろうがね。」
「貴様ぁ・・・、私を侮辱するかっ!!!」
俺の胸ぐらを掴み、顔を殴ってきた。反動で後ろへと吹き飛び、壁に頭をぶつける。しかしお陰で完全にキレていた自分が覚めていく。頬には激痛が走ってるが・・・。
「素直な事を言ってるんだよ阿呆。貴様が言い並べるような事態にあるのなら、証拠をしっかりと提示しな。俺の癖・生き様・信念・執念を懇切丁寧洗いざらい言い切れるのなら、全てが証拠となるだろう。貴様の力を見せてみなっ!!!」
怒発天を通り越した総監は近くにあったパイプ椅子を手に取る。そのまま俺に向かって叩き付けようとした。
だが直後、とんでもない事が起きた。
彼から左側、俺からすれば右側の扉が開く。そこから飛び出してきた人物にドロップキックを喰らった。総監は吹き飛び、机に思いっ切り激突している。
ドロップキックを放ったのは、ライディル達の仲間のチェブレだ。表情は今まで見た事がない程に激怒していた。
「内部から破壊活動を行うとはな、ベロガヅィーブ。だがテメェの悪事もここまでだ!」
再び立ち上がろうとするベロガヅィーブを、遅れてきたサーベンとチェブレが取り抑える。その手際の良さは流石は元シークレットサービスだ。上手い事この上ない、見事過ぎるわ。
そして彼らの後から入室してくるのは、何とトーマスCとトーマスKだった。落ち着いてはいるが、彼らもかなり怒り心頭である。
「まさか整形して声色まで変えてくるとはね、恐れ入ったよ。だが今度こそ逮捕する。」
「何を言いやがる、そこにいる覆面野郎も同罪だっ!!!」
この期に及んでまだ言ってやがる。そこまでして周りを巻き込もうとするのか。何だか哀れに思えてきた・・・。
「甘いな。先程噂の覆面暴漢が掴まったよ。しかも捕まえてくれたのは女子学生だった。もう少し強い人物を出すべきだったな。」
凄いものだ。覆面暴漢をとっ捕まえたのが女子学生という。それだけ相手のレベルが低いという証拠だろう。しかし・・・女子学生という言葉が気になるが・・・。
「覆面暴漢が全て白状した。貴様に脅されて騒ぎ立て、ミスターT君を捕まえるという計画をした事もな。それはライディル達に親しい存在という事を利用し、ミスターT君が逮捕されれば責任を追われて辞職されると踏んだのだろう。そこをあわよくば自分が警察機構トップに踊り出るともな。」
ライディルとサーベンに掴まり動けないベロガヅィーブ。そこにチェブレが近付き、両手に手錠をはめた。一件落着といった雰囲気かな・・・。
「それにな、貴様は1つ思い違いをしている。まあそれを話しても意味はないがね。」
トーマスCが頷くと、ライディルとサーベンがベロガヅィーブを牢屋へ連れて行こうとした。あれだけ悪態を付いていた奴だが、手持ちのカードがなくなったようで大人しくなっている。
一応今後のために、楔を打っておくか・・・。相手への言葉での確固たる粛清を・・・。
第15話・2へ続く。
事実無根? 私、だん・・・げふんげふん(何@@; ともあれ、理不尽な対応を一蹴と@@; この理不尽な対応の描写ですが、とある有名サイトさんの“家族愛”を主題とした作品に感化されたのが淵源です><; 向こうは主人公の青年さんに対して、それをやっかむクソ野郎が策略した流れでしたが。
話を戻しますが、当然ながら風来坊のミスターT君は警護者ではありません。この手のやっかみ事に対しての完全耐性はありません@@; それなりの経験は積んでいますが、内心はブルっているでしょう。逆に警護者側と探索者側はまあ、日常茶飯事の暴れ事ですがね@@; 何とも(-∞-)