第13話 再会2(通常版)
「乾杯~!」
文化祭の成功を祝しての乾杯。まあ形だけは何かを掲げねば動けない。エシェラの機転ある行動に感謝した。
「う~ん、ここはビールでも飲みたい気分~。」
「ミスターT様はお酒はダメでしたよね。」
「俺は下戸だ。」
それぞれ食事を始める美女達。カウンターに並べられた食事兼夜食は豪勢なものばかりだ。無礼講といった雰囲気の4人は、凄まじいまでに平らげていく。これが彼女達の本性か。
「これで今年の大きなイベントは終わりかな。」
「いいえ、今年も市民ホールで大規模なクリスマスパーティーを開きますよ。」
「へぇ~、そんなのがあるのですか・・・。」
サラダを食べながらエリシェが語る。クリスマスパーティーか。さぞ賑やかなのだろうな。そう言えば俺は今年の4月に帰ってきたばかりで、地域の事は全く知らない。またシンシアもここに来てから数ヶ月しか経っていない。知らないのは無理もないか。
「俺は遠慮するよ。賑やかなのは好きじゃない。」
「なら終わってから二次会を開きましょう。私達だけなら大丈夫でしょうから。」
「ああ、ごめんな。」
「謝らないで下さい。逆に嬉しいぐらいです。」
「何だかエシェラさんの一件から、積極的になっていますよね。」
確かに自分でも痛感できるぐらい積極的になっている。今まではどうしても一歩手前で身を引いて物事を見ていた。それが自分を振りかえる事で、ここまで大きく拓けるのか。
「エシェラが切っ掛けを作ってくれたのは事実だが、3人からの影響もある。俺自身が前へ出るための、勇気を以て背中を押してくれたのだから。」
率直な感想を述べた。エシェラの一件が突破口になったのは事実だが、他の3人のアプローチも大きな要素である。
「どうせなら一生涯背中を押そうか?」
「いいですねぇ~。」
「こらっ、そこ間に受けるんじゃない。」
その感想に対して、シンシアがある意味大切な告白をする。それに便乗するはエシェラだ。しかも平然と言い切っているから何とも言えない。
「あら、いいじゃないですか。」
「私達の愛は、まだまだこの程度ではありませんよ。」
「ハハッ・・・お手柔らかに・・・。」
不気味に微笑む4人は実に恐ろしい・・・。でも仕方がない事なのかな。彼女達を心から本気にさせた俺自身にも責任はあるのだから。
「でも・・・ありがとね、嬉しいよ。」
本当に思う。素直に感謝できる自分自身が嬉しくて仕方がない。周りから見れば大問題発言なのだが、そんな無粋な事など一切省いて考えられる。まあ思うと実行するとでは異なる。そこは弁えてくれているようだ。というか弁えて欲しいが・・・。
「あ、本日は貸し切りです・・・?!」
食事に会話に演奏に明け暮れる俺達。不意の来訪者にシンシアが対応しだす。その人物を見て驚きの声を挙げている。
入り口の方を見ると、先程体育館に訪れた芸能人エシュリオスとエフィーシュがいた。また同伴でナツミYUもいる。これは何かありそうだな・・・。
「ごめんね。エシュリオスさんとエフィーシュさんが、どうしてもミスターT君に会いたいらしいの。」
はっ・・俺にか・・・。というか全くの初対面のエシュリオスとエフィーシュが、俺に会いたいという意味が分からん。
「あの・・・お久し振りです。」
「変わられませんね・・・。」
「失礼だが、俺は貴方達と会うのは初めてなんだが。」
率直な感想を述べた。2人と会うのは今が初めてである。それともディルヴェズのように、前に会った事があるのだろうか・・・。
「いえ・・・6年前、デパートの警備を着かれていた時にお会いしています。あの時迷子になった私達を、両親が来るまで面倒見てくれていました。」
「・・・うわっ・・・あの時の子供かっ!」
偶然というのもあるものだ。エフィーシュの発言で一瞬にして思い出した。それも当時の現状が完全に脳裏に蘇って来る。
風来坊として旅をしていた6年前、地方のデパートに警備員として着任していた。その時に家族とはぐれたという子供達を見つける。
総括に事の次第を連絡し、俺はその子供と一緒に警備室で家族を待ったのだ。家族の方も探していたようで、数分後には再会を果たす。
その子供達が目の前のアイドルであるエシュリオスとエフィーシュなのだ。これはこれで驚きである・・・。
「よく憶えていたね、普通なら忘れるだろうに。」
「そうですね。でも再び思い出したのは、こちらのエシェラさんの事をお聞きした時です。」
「私がですか?」
「ふむ、やはり従姉妹という訳か。」
俺の発言に驚きを示すナツミYU・エシュリオス・エフィーシュ。それは彼女達のセカンドネームのビルティムス。これがエシェラと関係性があると睨んでいた。これで疑問が晴れたという訳だ。
「す・・凄いわねぇ・・・、エシェラさんとの関係を言い当てるなんて・・・。」
「プログラムにセカンドネームが載ってましたから。アレでピンと来ましたよ。」
確信論を語ると、再び驚くナツミYU。元シークレットサービスなだけに、こういった直感と洞察力が強い人物には驚いているようだ。
「私達の母がエシェラさんのお母様の妹でして。丁度私達の両親は養子縁組をして、このビルティムスを継いだと語っていました。」
「なるほど・・・。」
女性が結婚する時、大多数は相方の男性の苗字になる。しかし男性の方が女性の家へと養子縁組すれば、女性の苗字を継ぐ事になるのだ。
何時から決めた事か分からないが、本当によく考えられたものである。感心してしまうわ。
「そうだ、1つ聞きたいのだが。エシェラの両親が亡くなったのは知っているのか?」
俺は前々から気になっていた、エシェラとエシェツの両親の件を述べた。エシュリオスとエフィーシュが血縁関係にあるのなら、過去の事を知っている筈である。
「はい。私達の両親が引き取ろうと言ったらしいのですが、シューム様が責任を以て育てると言われて。」
なるほど、そういう経緯だったのか。言わばシュームは彼女なりの恩返しなのだろう。自分達を命と引き換えに助けてくれたのだから。
「ごめんな、辛い事を聞いて。」
「い・・いえ、とんでもないです・・・。」
「私達の方こそ、エシェラさんの気も知らずに・・・。」
物凄い落ち込んでいる。幼少の頃の出来事なのだろうが、家族が死んだという事実には変わりない。
その2人に近付き、肩に手を置いて語りだすエシェラ。それは少女の行動じゃない。まるで彼女達の母親、いやエシェラの母親そのものだと感じ取れる。まあ実際に会った事はないが。
「気にしないで下さい。もし貴方達と一緒に過ごしていたら、今こうしている事はできないでしょう。そう自分を責めないで。貴方達には貴方達の生き様を貫き通しなさい。」
彼女の発言に泣き出す双子。エシェラなりの真心の篭った発言に、2人は慰められている。
負けずに先へ進めと背中を押してあげていた。俺がエシェラにした行動を、今度は彼女が双子にしている。素晴らしい事この上ない。
「・・・エシェラさんが伯母様に見えます。」
「厳しくも優しかった・・・、今でもしっかりと憶えています。」
「そ・・そりゃぁ・・・私の母だし・・・。」
頬を染めながら照れている。身内に誉められ讃えられれば嬉しいに決まっているだろう。心の篭った姉妹愛に俺も目頭が熱くなっている。
「何か困った事があれば、何でも相談して下さい。」
「偶にしかお会いできませんが、貴方は私達の大切な家族なのですから。」
「ありがとう。」
双子と握手を交わすエシェラ。その一握り一握りは頑張れと決意が込められている。俺も2人に激励しないとな。
「これはエシェラを助けてくれたお礼だよ。」
会話が終わった頃を見計らって、双子の傍まで進み出る。そして彼女達をソッと抱きしめ、それぞれの額に口づけをした。
「お・・お兄さん・・・。」
「そんな・・・恥ずかしい・・・。」
滅茶苦茶赤面している。父親以外の男性からの抱擁は、多分今回が初めてだろう。エシェラ達以上の恥らう姿は何とも言えない。
だが2人の心境は痛いほど理解できる。それ以上何も言うなという意味合いを込めて、長い抱擁を続けてあげた。
「芸能人として周りに愛想を振り撒くのも、君達の立派な生き様の1つだ。だが自分達の本当の姿も曝け出しなよ。これだけの美貌が台無しだ、2人とも可愛いのだから。」
もう一度2人を抱きしめてあげる。今度は力強く頑張れという意味も込めて。そしてその頭を優しく撫でてあげた。俺ができる精一杯の激励と慰めだ。
「辛くても頑張れよ。お前さん達にしかできない生き様を刻むんだ。」
「は・・はいっ!」
「が・・頑張りますっ!」
頬を染めながらも元気一杯に話す。先程までの不安の色は一切ない。これなら大丈夫だろう。この行動だけは周りも黙認してくれている。ここまで嫉妬を抱かれては、何もできなくなるだろうから。
その後俺達に別れを告げて、ナツミYUと一緒に本店レミセンを後にするエシュリオスとエフィーシュ。
ここに来た時は大人びいていた姿だったのだが、帰る時はすっかり少女に逆戻りしている。今までは少なからず背伸びをしていたという事が感じ取れる。まあ俺的には素体の二人の方が好みだが・・・。
双子の帰宅は送迎の車が来ていた。ナツミYUが付き添いで動いてくれるとの事で、俺はそのまま4人と宴会を続ける事にする。本来なら送るのは男の仕事なんだが・・・。
「やっぱ凄いなぁ、僅かな一時であの子達を変えちゃうんだから。」
「無理に大人の雰囲気を作っていたのが、一瞬で子供に戻りましたよ。」
再び宴会を始める4人。俺は一服しながらコーヒーを飲む。その中でシンシアとラフィナが双子の変わり様について語っている。まあこれは本来の自分に戻ったと言うべきか。
「自分を殺してまで周りに併せて動くのは酷な事だ。あの2人はまだまだ若い。青春を満喫できる時は、大いに楽しんだ方がいい。」
青春を満喫できなかった俺にとって、エシュリオスとエフィーシュは不憫でならない。今からでもおそくはない、できる事はした方がいい。自分という個人が生きられるのは、今世でしかないのだから。
「ありがとう・・・。」
「お前さんの妹だからね。」
一服しながら思いに馳せると、徐に背中へ抱き付いてくるエシェラ。カウンターに座っている俺に、丁度立ったままの抱擁だ。その何だ、彼女も胸が大きいな・・・。何とも・・・。悲しき野郎の性は、嬉しくも実に虚しい・・・。
「でも覚悟してね。あの2人もかなり貴方に惚れてるから。」
「知ってるよ。まあ俺が切っ掛けで今より先に進むのなら安いものだ。」
「・・・普通なら否定すると思いますが、貴方らしいですね。」
双子の心中はよく分かる。俺に対して憧れと恋心を抱いている事は承知済みだ。それを利用するのは嫌ではあるが、彼女達が成長するための糧となるのなら喜んでこの役を演じよう。
夜遅くまで騒いでは周りに迷惑が掛かる。俺は4人と一緒にエリシェのマンションへと移動した。もちろん彼女公認での訪問だ。
防音効果はしっかりとしているらしく、下側の部屋には影響がない。というか今は最上階の彼女の部屋より下の部屋はシンシアの住居。確かに騒いでも問題ない訳だ。
「これが夏場だったらよかったのにね。」
エシェラが紅茶片手に外を見つめている。表は寒くて窓は開けられない。窓越しに夜景を楽しむしかなかった。
「ロフトに上がると、空が一望できますよ。」
「うわぁ~、行っていいですか?」
「私も見てみたいっ!」
「・・・勢い余って落ちないで下さいね。」
絶景があると大喜びするエシェラ・ラフィナ・シンシア。我先にとロフトへと上がっていく。それを呆気に取られながら見つめるエリシェ。そんな彼女を見つめながら一服する。
「賑やかな事で・・・。」
「ミスターT様は行かないので?」
「俺はいいよ。若いお前さん達には敵わないから。」
25を超えた辺りから、20前後の若者には到底付いていけなくなった。考え自体に付いていけないというのが実情か。
本当に若者達は羨ましい。俺にないものを沢山持っている。だからこそ魂心を込めた激励をしなければ・・・。
暫くしてロフトから喋り声がしなくなる。心配になったエリシェが覗きに行ったら、何と3人してグースカ寝ていたという。
彼女は押し入れから毛布を複数枚取り出し3人に掛ける。複数枚という部分から、風邪を引かないよう最大限の配慮だろう。
エアコンの暖房による空気循環は上へと登る。つまり寒いと思っていたロフトは、意外にも暖かいようだ。だから複数枚の毛布だけで済んだのか。
仮にロフトから下ろす事になったとしたら・・・、考えただけで重労働だ・・・。それにやれ何処を触ったのだとか言われそうで怖い・・・。
「ごめんな。」
「構いませんよ。疲れたのでしょうから、休ませてあげましょう。」
一応確認しに行ったが、3人して川の字のように眠っている。まるで幼い姉妹のようだ。寄り添い合っているからか、全く寒そうに見えない。また念入りに毛布が掛けられている事もあるのだろう。外見は大人でも中身はまだまだお子様だな。
窓越しに座り表を見つめる。表は夜景が綺麗だ。エシェラが言っていた通り、夏場なら表に出て一服したい所だが。
「そうだ。今までの給料と貯金を合わせたら700万あった。ハーレーサイドカー2台の代金を渡したいのだが。」
「え・・構いませんよ。プレゼントと言ったじゃないですか。」
「それでは俺の腹の虫が納まらない。借りはしっかりと返したい。」
懐にあった全財産が入っている通帳とカードを渡す。俺の決意に折れたのか、エリシェは徐にそれを受け取る。
「・・・ではこれはお預かりします。貴方の血と汗の結晶、大切に保管します。」
「まあ任せる・・・。」
エリシェも肝っ玉は充分据わっている。受け取れないと言い切れば押し通せるのだろうが、今の彼女は静かに従っていた。何か・・嫌な予感がするな・・・。
「ここはお前さんだけしかいないのか。」
「はい。両親と妹達は都心に住んでいます。私だけ学校の都合上、このマンションを使わせて貰っています。」
飲み直しといった感じで、紅茶を差し出すエリシェ。それを受け取って啜る。最近紅茶を飲む機会が多い。コーヒーより健康飲料だからか。俺も紅茶が好きになりそうだ。
「1人じゃ淋しいだろうに。あ・・シンシアが一緒か。」
「下の階の部屋にいらっしゃいますよ。でもこの部屋だけじゃ広過ぎて・・・。」
そう言うと徐に寄り添ってくる。嫌な予感は的中した。だが彼女の表情は以前よりも増して穏やかだ。これはシンシアと同じか。
「・・・本当に落ち着きます。貴方と一緒にいられるだけでも十分嬉しいのに・・・。贅沢すぎますよね・・・。」
「素直じゃないな、淋しいならそう言えばいいのに。」
「・・・はい・・・。」
彼女の肩を抱き寄せ、頭を優しく撫でてあげた。それに至福の笑みを浮かべて浸っている。シンシアとは異なり、彼女の場合は凄まじいまでの重圧が背中にある。何れ社長へとなるのであろうから。
暫く余韻に浸っていると、今度は胸の中に甘えてきた。もう成るがままだ、彼女の好きにさせてあげよう。俺ができる最大限の慰めだ。
「・・・先程代金を受け取りましたが、・・・それ以外にも1つお願いを聞いて下さい。それを聞いて頂ければ・・・、素直に受け取ります・・・。」
そう語ると目を閉じ俺の方を向いてくる。このシチュエーションは・・・まあ仕方がないか。彼女の顎をソッと持ち上げ、そのまま口づけをしてあげた。何だかなぁ・・・。
「これでいいかね・・・。」
「はいっ!」
さっきまでの落ち込みはどこにいったのやら。頬を赤くしながらもケロッとした顔をしている。再び胸の中に甘えてきた。もうただの甘えん坊な女の子だな。
でもいいか。一時の幸せを与えられるのだから・・・。今も胸の中で余韻に浸るエリシェ。その彼女の頭を優しく撫でてあげた。
今思ったのだが、エシェラ・ラフィナ・シンシアは態とロフトに移動したように感じる。俺とエリシェだけの時間を作ったようにしか感じられない。
やはり俺は4人の手の内で踊っているに過ぎないのだろうか。何とも・・・。
第1部・第14話へと続く。
青春してますねぇ(-∞-) ちなみに、エシュリオスさんとエフィーシュさんの初期(“別の陣営”より抜粋する際)の設定ですが、実際にはエシェラさんの娘に当たります。ただ当時、該当する登場人物がいなかったので、急遽従姉妹という形にしました><; しかし、青春真っ只中のエリシェさんですが、怒らせた場合は歴代最凶の怖さを発揮しやがりますが@@; 実に恐ろしいです(>∞<)