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覆面の風来坊 ~不二の盟友に捧げる者~  作者: バガボンド
第1部・恋愛
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第2話 躯屡聖堕1(通常版)

 風来坊を終え、7年振りに東京へと戻った。幸運にも喫茶店のマスター・トーマスCの配慮で、彼の下で働く事もできた。


 また世話焼きのマスターは、数軒所持しているアパートまで貸してくれた。至れり尽せりである。



 あれから2週間。俺はマスターの下で働きながら、後の生活をどうするか考えている。一応の目的を持たねば、風来坊としての生き様が廃れてしまう。


 俺なりの生き様を貫くのが、俺の第2の生き様を築き上げる戦いだ。




 今日はマスターの休業日。しかし喫茶店は休みではない。彼の元部下だったトーマスKが代わりのマスターを務めている。シークレットサービスという役柄、死と隣り合わせの場面も多々あったという。トーマスKとの連携がなければ、生き残れなかったとも言っていた。


 そんな休日のトーマスC。趣味で集めているハーレーダビッドソンを見せてくれるとの事。前職業の収入は凄まじく、それだけで喫茶店とアパート数軒を建ててしまったぐらいである。無論ハーレーもそうで、彼のコレクションは数10台にも及ぶ。


「これ使ってみるかい?」

「いいのかい、高級車だよ?」

「君も大型二輪があるなら乗りこなせる。それに俺の人を見る目は狂ってはない。君なら託してもいいと思ってる。」


 この2週間でマスターとは意気投合した。元部下で親友でもあるトーマスKとも相性がいい。まるで息子のように構ってくれるトーマスCに、俺は脱帽の連続だった。


「こいつを足に使うのもよし、そこは任せるよ。」

「何から何まですまない。」

「言ったろう、君を気に入ったのは間違いない。他人とは気難しいトーマスKですら、一目を置くのだから。それに君を目当てとしたお客も多くてね、商売繁盛この上ない。それから比べたら安いものだ。」


 彼の言う通りだった。この2週間の客足が凄まじい。男女問わず大人から子供まで幅広い訪れである。特にターリュとミュックが広めたのだろう、女子生徒の数の多さが半端じゃない。


「エシェラちゃんも毎日来るようになったしな。ターリュちゃんやミュックちゃん以上に君を追っているようだ。」


 ハーレーのエンジンテストをするマスター。俺は託されたハーレーに跨り、微調整を繰り返す。その最中に話し掛けるは、エシェラ達の事だった。


「別の意味では嬉しいのですが、迷惑を掛けているようで参りますよ。」

「何をぬかすんだ君は、あそこまで想ってくれる人がいるのは羨ましい事だ。野郎として誠心誠意応対するんだ。無様な姿は望まない。」


 俺のどこに魅力を感じているのかは不思議だが、誠心誠意応対する心だけは忘れてない。男女問わず敬意ある対応を、それが己の生き様だ。


「ヘルメットは2つ持っておきな。後で必要になるさ。」

「本当にすまない・・・。」

「まだ言ってる。君を気に入ったといったろう。俺が得られなかった心を、君がしっかりと持っている。その君をサポートするのが俺の定めだとも思ってる。言わば君は過去の俺自身だ。もっと胸を張っていい。」


 俺は深々と頭を下げた。会った事はないが、親父がいるとすれば彼のような人物だろう。いや、彼こそが親父といえる存在なのかも知れない。


 ヘルメットを2つ受け取り、1つを頭に被る。もう1つは後輪のサイドバッグに入れた。久方振りの運転とハーレーの調整も兼ねて、俺はバイクを走らせた。




 7年振りの東京の町並み。俺やマスターがいる場所は下町だが、それでも地方に比べれば賑やかなものだ。目立つのは学校などだろう。どこもかしこも学生でごった返している。


 そう言えば例の暴走族・躯屡聖堕。あれの活動も活発化している。爆音は相変わらずだが、その行動に誰も批判は言っていない。治安維持を司る警察でさえ黙認しているぐらいだ。これがしっかりとしたチームだったら、間違いなく日本一の軍団だろうに。




 新しい地元となった地域にある公園。そこにバイクを止めて休憩を取る。無論バイクは外にある駐輪場だ。しっかりバイクスペースもある。


 自動販売機でコーヒーを買って、それを飲みながら一服する。風来坊時には味わえなかった本当の意味の安らぎだ。



「あの・・・、ちょっといいですか?」


 遠巻きに声を掛けられる。エシェラ達とは違い大学生に近いか。何でこうも声を掛けられるのか、不思議で仕方がない。


「何でしょう。」

「貴方が噂の風来坊さん?」

「ま・・まあそう言われればそうなのですが。」

「きゃー、あの伝説の風来坊だわ!」


 おいおい伝説はないだろ伝説は。そこまで有名でもないし歳もいってない。これはあれか、ターリュやミュックの口コミか。全く・・・。



 俺が座るベンチの両サイドに彼女達は座る。声を掛けたのは2人、更に遠巻きに2人が。何なんだこのハーレムみたいなのは・・・。まあ嬉しい事には変わりないが・・・。


「噂は聞いています。風のように現れて、堅物の校長を口説いたと。」

「待った、何なんだその口説いたというのは・・・。」

「私達の大学でも貴方の話題で持ち切りですよ。女子高のナツミYU先生は堅物で、男性には絶対に気を許さないと評判だったので。」

「それが女子高の女の子達、ある日を境に校長変わったって大騒ぎしてます。」


 あの校門の前での一件か。僅か短期間で気に入られるというのは何とも言い難い。それだけ影響力が大きかったという事だろうな。何とも・・・。


「男子の間でも噂になってますよ。凄まじいオーラの持ち主が現れたとか。」

「う~ん、その伝説の人と話せてる~。幸せかも~。」


 やめてくれ、まるで神を見るような目線は。どうしてこう慕われるのか分からん。あまり過大評価をされたくはないのだがなぁ・・・。


「・・・一応自己紹介しようか。」

「知ってますよミスターTさん。私は中岡ウィム、こっちは妹のウィレナ。」

「よろしく~。」

「で、あそこで見てるのがユウNちゃんにアイNちゃん。今年中学に上がったばかり。」


 ふむ、あのユウNとアイNも双子か。ターリュとミュック、アサミとアユミよりも幼い。本当に物静かな雰囲気の姉妹である。


「姉さんの彼氏の妹さんですよ。」

「彼氏いるのか。双子がいるんじゃ大変だろうに。」

「凄い、よく双子と分かりましたね。」


 直感で当てたと思っているようだ。まあ7年間日本中を回ってきたんだ、直感と洞察力は人並以上あると自負している。現にそれで助かった場面などが多い。



「初めまして、ユウN君にアイN君。」


 今も遠巻きに見つめるユウNとアイNの傍へ行く。エシェラよりも背が低いので、立膝を付いて目線を合わせて自己紹介を。こういった細かい配慮も必要だ。


「は・・初めまして・・・。」

「よろしくです・・・。」


 顔を赤くして俯いている、可愛いものだ。ターリュとミュックにも見習って欲しいものだな。


「お兄さんを大切に、我が侭言っちゃダメだよ。」

「は・・はいっ!」

「ありがとう小父さんっ!」


 また小父さんか、何とも・・・。まあこれも仕方がないか、今後は小父さんで通そう。この2人の笑顔には心が安らぐわ。




「凄いねミスターTさん。」

「どうしたん?」


 ウィンNがユウNとアイNを連れて帰宅する。まだ中学生になったばかりの双子だけに、姉的なウィンNが面倒を見ている形になる。


 俺もウィンNやウィレナに催促され、バイクを公園に置いたまま帰宅を手伝う。その中でウィレナが俺に話し掛けてきた。


「あの2人、殆ど話さないんだよ。」

「ふむ・・・、気を許す存在は兄だけという事か。ご家族は?」

「彼だけ。私達も親がいなくてさ、ナツミYUさんに育てて貰ってるの。」

「・・・すまない。」


 この姉妹も親がいないのか。それでもこの気の強さ、悲しみを払拭させるようだ。俺も同じく親がいない身、彼女達の心中は痛いほど理解できる。


「ううん、気にしないで。優しいのですね。」

「俺も家族いないからさ、君達の気持ちはよく分かるよ。」


 そう、だから風来坊として転々とした。独りでいる悲しみを払拭させるために。でも故郷に戻ってきたというのは、結局は原点はそこにあるのだろう。帰巣本能とも言うべきか。



「あれ、どうしたの?」


 ふと呼び止められるウィンN。呼び止めた相手は男子生徒。話の内容から、どうやら双子の兄と推測する。


「ユキヤNさん。」

「ユウNちゃんとアイNちゃんを家まで送ろうと思ってさ。」

「ありがとう、一緒に帰ろうか。」


 双子にとって兄、多分姉妹にとって思いを寄せる男性。彼の登場で一気に賑わいだす。彼がいれば安心だろう。


 俺は水を差しては悪いと思い、静かにその場を去った。ウィレナが気付き呼び止めようとするが、構わないと目配せをして制した。それに小さく頭を下げる彼女。


 家族か・・・。苦節があれど、彼女達は今が一番幸せなのだろう。




「あ、ミスターTさん。」


 公園へ着いて再び一服する。そこに今度はエシェラが訪れる。どうやら帰宅途中の様子だ。僅か2週間だというのに、以前よりも明るくなったのは気のせいか。


「よう、元気か?」

「はい、毎日が楽しいです。」


 隣へ座る彼女。制服を着てはいるが、その出で立ちは幼さを感じさせない。2週間でここまで変われるものなのか、実に不思議だ・・・。


「貴方はどうですか、ここの生活に慣れました?」

「7年間風来坊し続けたんだ、1つの場所に留まるのは少し苦しい。でも今の生活も充分楽しいよ。」

「よかった、気に入って貰えて。」


 屈託のない笑顔は爽やかそのもの。それほどまでに気に入ってくれているのか。エシェラには感謝しないと。




 暫く雑談をしていると、遠くの方から爆音がしだす。それは例の躯屡聖堕で、公園の外部を通りながら去っていく。この爆音、まるで悲しみの現れのようだ。


 悲しみ・・・、もしかしたら・・・。



「悪い、ちょっと出かけるわ。」

「どちらまでですか?」

「妙に躯屡聖堕が気になる。後を付けてみるよ。」

「なら私も行きます。」


 おいおい大丈夫か。相手は異端児的な躯屡聖堕といっても、暴走族には変わりない。そこに女連れで向かうのは大変だ。


「やめとけ、君を危険な目に合わせなくない。」

「尚更ですよ。こう見えても合気道・柔道・剣道に精通しています。足手纏いになる事はないと思います。」


 そう語ると闘士が放つオーラを放出させる。確かにこの闘気は本物だ。それに素の彼女と全く異なり、隙が一切感じられない。


「分かった。だけど危なくなったら逃げなよ。」

「叩き潰した方が早いですって。」


 不気味に微笑むエシェラ。この表情には流石に青褪める。ここは美丈夫の戦闘力、期待してみよう。



 その後駐輪場へと向かう。ハーレーの左サイドバッグにカバンを入れ、右サイドバッグからからヘルメットを取り出す。それを彼女に手渡した。


「どうしたのですか、これ。」

「マスターから譲って貰った。詳しい話は後で話すよ。」


 ここの駐輪場のバイクスペース。一方通行ではなく、置いた先に出られるようになっている。エンジンを掛けて彼女を後ろに乗せる。エンジンが温まった頃を見計らってから出発した。




 推測だが、躯屡聖堕を暴徒にさせていないのは悲しみかも知れない。悲しみも感じさせないほどの愚者なら、ああまで規律を守る必要はない。爆音だけは別だが。


 なら彼らを救えるチャンスは今しかない。これを逃したら、多分彼らは本当の暴徒になる。


 時は金なり、か。長期のバイト先で世話になった女性が口癖のように言っていた。それが試される時だ。




 俺とエシェラは躯屡聖堕のバイクや車の最後尾を静かに付いて行った。トーマスCが言う通り、信号待ちはするし車線もはみ出さない。更には片側二車線道路を、側道寄りを使って行進している。ここまで徹底している暴走族など見た事がない。


 道路の表示板を見ると、既に葛西臨海まで進んでいる。この道筋だと、葛西臨海公園辺りが終着点だろう。


「エシェラ君。もし俺に何かあったら、構わず逃げろ。」

「何を言うのです、私を見縊らないで下さいよ。」

「そうじゃない。君にもしもの事があれば、死んでも死に切れない。君の未来を奪う事はしたくないから。」


 率直な意見だ。風来坊で帰る場所がない俺なら、どこで死のうと構わない。だがエシェラには未来がある。俺みたいに腐った奴とは違う。


「大丈夫ですよ、大丈夫・・・。」


 俄に震えだした。彼女の身体の震えが背中を伝って分かる。連れてくるんじゃなかったかも知れないな・・・。




 予測した通りだ、葛西臨海公園へと入った。ご丁寧に駐車場へと入り、それぞれ車両を停車させていく。俺もこっそりバイクを駐車場へ止め、エシェラと一緒に後を追う。話すのなら、このチャンスしかない。


「どうするのですか?」

「時下談判しかないな。」


 小声で話してくるエシェラ。尾行という事でカップルを装っての追跡だ。幾分か彼女の声が震えているのは緊張なのか。だが言動はしっかりとしている。



「マズい、こっちを見てる。」


 仲間の1人だろう、街路樹からこちらの様子を窺った。俺は慌ててエシェラを抱き寄せ、いちゃついているように見せ掛ける。


 それを見た仲間は、何事もなかったかのように去って行く。まったく、心臓に悪いわ・・・。


「あ・・あの・・・。」

「ごめんな。」

「い・・いえ。」


 頬を染めながら俯く。ああ、絶対に勘違いしてるぞエシェラは。でも彼女の髪の匂いはいい。相手が女性だと改めて認識させられる。



「ここで何をしてるのでしょうか。」

「明日が休日だから、大方会議か何かだろう。あれだけの統率力だ、仲間内で連携を取り合うのは日常茶飯事かもね。」


 遠巻きに彼らの様子を窺う。駐車場の空きスペース、それも殆ど人気が少ない場所にいた。ヤンキー座りこそしているが、それでも飲み物だけで済ませている部分には恐れ入る。普通の族なら煙草を吸い、大賑わいするだろう。明らかに消極的すぎた。


    第2話・2へ続く。

 真面目な暴走族・・・何とも(-∞-) しかし、ハーレーいいですよね><; 大型自動二輪免許があれば・・・@@;

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