第13話 再会1(通常版)
数日後、文化祭当日。朝から大賑わいの高校と大学。小学校と中学校は昨日行われている。一般参加OKとあり、凄まじいまでの来場者だ。
無論俺も見させて貰った。というか見なかった場合、彼女達からの竹箆返しが怖ろしい。ここは彼女達の戦い振りを参観させて貰うとしよう。
小学生のリュリアが参加したのは学芸部。行った劇は“ヘンゼルとグレーテル”である。彼女はグレーテル役で、前半は中々の高演技だった。
だが途中からパロディ風の流れに発展してしまい、大賑わいしだしてしまう。彼女は型に囚われるという事が苦手らしい・・・。
劇自体は失敗になったのだが、観客側からは大喝采で終わった。それに満面の笑みで応えるリュリアである。う~む・・・何とも・・・。
リュリアは案外、芸能界が合うかも知れない・・・。だが今回のような事があるとすれば、それはそれで大変な事になりかねないが・・・。
エシェツが参加したのは展覧部。彼女は驚く程の絵の才能があり、クラスでもかなりの腕前を持つに至っている。特にカシスに告白した事で、感情を込める事に長けるようになった。
彼女が描き出す作品には心が篭っており、見る人を惹き付けてやまなかった。確かに彼女の思いは尋常じゃないほどに膨れ上がっていると言える。
エシェツは将来、画家になるべきだと思う。まあ本人の決意次第だが・・・。それなりの腕があれば、この先食っていけるしな・・・。
本日は高校側・大学側と、同時進行で行われた。大学側はサプライズゲストがメインともあって、ラフィナの参加は高校のエリシェ側に所属する事になった。
エシェラはエシェツと同じ展覧部に近い。彼女も絵が上手く、その画力に驚かされた。エシェラも画家が似合うかもな。
まずは高校側のイベントが始まった。内容は女子高ならではのものばかり。恋する乙女を表したものが多い。これはエシェラ達の影響なのかも知れない。
メインイベントは高校生と大学生のコラボレーション演奏。そう、エリシェとラフィナのタッグだ。これはかなりの人気となっているようで、訪れている生徒の数が半端じゃない。
会場となっている体育館は全て埋まり、ビデオカメラを用いた映像を外部で見ている程だ。それだけ彼女達が日に日に強くなっているのが十分窺える。
「次は当学園で天才バイオリニストと名高いエリシェさんと、お隣大学出身の華の歌姫と絶賛されているラフィナさんとのコラボレーション。学園を超越した音色をお聞き下さい。」
司会が紹介すると幕が上がる。エリシェが仕立ててくれた赤いドレスを身に纏うラフィナ。そしてエリシェは紫色のドレスに身を包んでいる。どちらも化粧をしているため、普段の面影は一切感じさせない。美しすぎる・・・。
今回は以前ラフィナと一緒に行った交響楽団の曲を抜粋。無論演奏許可は了承済みである。後で聞いたのだが、ラフィナは歌以外にバイオリンも上手いとの事。これは驚くしかない。
クラシック曲を2人のバイオリン二重奏で演奏、その上手さと連携度に度肝を抜かされた。この腕前はプロ級のレベルである。
それに切々と俺に対しての思いが伝わってくる。思い人の為に捧げ、思い人を思って奏でている。俺の存在が彼女達にとってどれだけ大きな存在か。2人の演奏を聞いて痛感した。
最後は有名なカノンとG線上のアリア。それを伴奏気味に演奏しだし、途中からラフィナが歌いだす。本来この曲に歌詞はない、何とラフィナのオリジナルの歌詞だ。これには驚いた。
カノンは思い人を示して、G線上のアリアは思い人を愛して。本当の内容は本人達に聞かなければ分からないが、おそらく当たっている。彼女の思いが痛烈に伝わってくる。
演奏と合唱が終わると体育館は拍手大喝采。それは轟きとも言えるだろう。渾身の演奏を終えたエリシェとラフィナは大満足といった表情を浮かべている。お疲れ様、2人とも。
時間を遡り、エリシェ・ラフィナが演奏しだした頃。大学側はサプライズゲストが来訪。それは芸能界で有名な、エシュリオス・エフィーシュという双子の歌手だ。
若者の間では凄まじいほどの人気で、大学側の体育館は凄まじい数のファンで埋め尽くされている。
ちなみにこの双子はまだ16歳。スカウトされたのは14歳という。短時間でデビューの道を駆け上がったと言えるだろう。
だが正直、エリシェ・ラフィナには到底敵わない。流石は愛しい女性達だ。
午前の部が終わる。高校側も大学側も大熱狂で、午後の部が待ちきれないといった雰囲気が強い。更に別のサプライズゲストも訪れるという。ちょっとハメを外しすぎてないか・・・。まあいいか。
体育館の表玄関に椅子を2つ用意。そこにドレス姿のエリシェとラフィナが座る。何処をどう見てもお嬢様そのものだ。
「素晴らしいとしか言いようがない。」
「貴方への万感の思いを込めました。」
「心の底からの熱い思い、それ以外に何があるというのでしょう。」
やり切ったといった雰囲気が強い。表情は今まで以上に輝いている。それが今の出で立ちと重なり、この上なく色っぽいのだ。
「ミスターTさん、私もこれに思いを込めました。」
そう言うとスケッチブックを手渡す。徐に中を見ると、そこにはあの写真が見事なまでに描かれていた。優しそうな表情の過去の俺に、安心し切った表情で眠る赤ん坊のエシェラ。
「・・・ありがとう、エシェラ。」
感無量だ。形作った言葉など要らない、思いの篭ったスケッチブックを胸に抱くだけでいい。本当にありがとう・・・。
「皆さ~ん、昼食を持ってきました~。」
暫く雑談をしていると、シンシアがバスケット片手に訪れる。頼んでおいた昼食を持っての登場である。彼女も本腰入れての手料理とあり、凄まじいまでの熱意が伝わってくる。
「午後は何をされるので?」
サンドイッチを頬張りながら語る彼女。先の催しは俺と一緒に観賞していた。プログラムの流れを知らない俺達は、運営側に携わるエリシェとラフィナに直接聞くしかなかった。
「午前と同じプログラムですが、内容が異なります。」
「今度は大学側にいらっしゃるサプライズゲストと一緒に演じるそうです。詳しい話は直接お聞きしないと分かりませんが。」
ぶっつけ本番か、大丈夫かね・・・。まあ今までの生き様自体がぶっつけ本番なため、この2人であればどんな状況でも挑めるだろう。
「追加のサプライズゲストの方、何でもゴスペル歌わせると右に出るものはいないとか。」
「ふむ、アイドル系は全く分からないな。」
「働く事が生き甲斐だからねぇ。」
「その表現頂きだね。」
シンシアは生きる為に働いてきた。俺も自分を見つけるために、働きながら風来坊を続けてきた。娯楽に染まる暇など一切ないのが実情だ。
「まあそれでも、生き様を貫くのはいい事だ。お前さん達も、今後の明確な目標を持っていた方がいいぞ。」
「そうですね。」
来年にはエシェラとエリシェは高校を卒業する。おそらく2人の事、大学へと進学するのだろうから。
ラフィナはまだ数年の大学生活が残っている。未来に向けての基礎作りは大切だからな。これが終われば、晴れて社会人として活躍しだすのだろう。
シンシアはどうするのか分からないが、今の腕なら喫茶店のマスターとして生きていける。俺にはマツミの依頼があるしな・・・。
午後の部が始まった。昼食を終えたエリシェとラフィナは体育館へと戻る。エシェラは観賞側に回っていた。俺とシンシアも来賓客側で観賞する。
先のサプライズゲストのエシュリオスとエフィーシュの双子。プログラムに記載されていたセカンドネームを知って驚いた。何とエシェラ・エシェツと同じビルティムスなのだ。
エリシェとラフィナと一緒に演奏するエシュリオスとエフィーシュ。周りは緊張している様子だが、2人は双子に普通に接している。というか知らないっぽいか・・・。
そこに今度はゴスペルで有名という4人が登場。姉のリシューナ、三つ子のフィーシェ・ミューシャ・リェーシュだ。4人の登場で体育館が割れんばかりの大歓声に包まれていく。そんなに有名なのかね・・・、分からん・・・。
午後の部側はラフィナはバイオリン担当で、歌う事はなかった。エリシェと見事なタッグ演奏は、先程以上に冴え渡る。そこにプロの6人が合わさるのだ、鬼に金棒だろう。
歌と演奏の凄さに圧倒されつつ、午後の部は幕を下ろした。生徒や職員・外部の人からの惜しみない拍手が体育館に轟いていた。
その後はサイン会が開かれた。まあ当然だろう。滅多に会えない芸能人が訪れたのだから。この時ばかりはハメを外すのは黙認されるのかな。
高校の校門前にある中央庭園。俺はそこにあるベンチに座り一服をした。どうも賑やかな場所は好きになれない。
というかここは女子高だ。外部の男が堂々と煙草を吸っているのは如何なものか・・・。まあ今は無礼講に近い状態だ、このぐらいは多めに見て欲しいものである。
「お疲れ様でした。」
「大盛況でしたね。」
暫く庭園の自然を満喫していると、制服に着替えたエリシェとラフィナが訪れる。化粧も落とした2人は普段の姿に戻っている。ドレス姿もよかったが、素体の彼女達も実にいい。
また遅れてエシェラとシンシアも駆け付けてきた。エシェラは制服だが、シンシアは女性にしては珍しいタキシードだ。着替える余裕がなかったのも事実だが。
「サイン会にはいかなかったのか?」
「特に興味ありませんよ。」
「私達が興味あるのは、ね・・・。」
彼女の言葉に3人が頷く。ああ、間違いない。これは俺の事だ・・・。それに素直に喜べる自分自身も嬉しい限りである。
「何か呆気なく終わったよな。」
「まだ歌い足りないぐらいですよ。」
今も興奮冷めやらぬ表情を浮かべているラフィナとエリシェ。このまま意気消沈させるのは忍びない。ここは何らかのイベントを打ち出すか・・・。
「本店レミセンのお客さん次第だが、貸し切ってパーティーでも開くかね。」
「マジでー?!」
俺の意外な発言に4人は大喜びする。先程の文化祭以上の嬉しさ溢れる表情だ。これは見ているだけで嬉しいものだ。
「私達だけで大丈夫ですかね。」
「これ以上、誰が来ると思うかい?」
校門前でシンシアが語る。自分達だけ楽しんでは、他の友人達を除いては悪いと思ったのだろう。
だが俺は周りを指し示す。今も体育館ではサイン会へ集中した生徒や来賓者でごった返している現状だ。表は怖ろしいほど静まり返っている。
「正直な話、俺にとってのアイドルはお前さん達だよ。心を癒してくれる大切な存在だ。お前さん達を超える存在など、この世に存在しない。」
「ありがとうございます・・・。」
「嬉しいです・・・。」
感無量といった表情を浮かべるエリシェとラフィナ。2人の演奏は間違いなく最強だと確信している。
「演奏はできないけど、貴方に対して愛を語る事はできますよ。」
「甘いハーモニーを奏でられるのは、私達だけです。」
自分達全員を含めて指し示した。4人の俺に対する愛情は、間違いなく最強のハーモニーだ。前の俺なら軽くあしらうのだが、今は素直に受け止められる。実に嬉しい限りだ。
「よし、明日は休日。お前さん達のハーモニーを楽しむとするよ。」
「任せて~!」
「愛の調べ、奏でて差し上げます。」
「愛のさえずりに酔い痴れて下さいな。」
「特別の手料理でおもてなししますよ。」
笑顔の4人に囲まれながら本店レミセンへと向かう。俺は幸福者だな、つくづくそう思う。最大限の勇気を分けて貰っている。だから先へと突き進めるのだ。俺も頑張らねば・・・。
本店レミセンには人はいなかった。やはり有名人が訪れているという事で、そちらに赴いているのだろう。カウンターにはデュリアとメルデュラが暇を持て余していた。
その場で貸し切りを決定し、今日は早めの閉店とした。デュリアとメルデュラは他の店舗を見に行くといって、本店レミセンを後にする。多分こちらを気遣ってくれたのだろう。
シンシアが作る手料理は、メニューには全く載っていないものばかり。彼女が思い浮かべる作品だと語っている。それだけで絶品料理を作ってしまうスキルには恐れ入る。
また他の3人も手伝っている。簡単な手料理ならできるとあり、それを盛り込んでいる。この意気込みも尋常じゃないぐらい凄まじい。
俺はというとカウンターの隅で一服中だ。丁度真上に換気扇があるため、煙はそちらへと流れるようにしている。
何か手伝いたいと申し出たが、黙って待っていろと言われる始末である。ここは素直に待つのがいいだろうな・・・。
第13話・2へ続く。
今回より2日開け(風来坊→警護者→風来坊→探索者)で更新して参りますm(_ _)m
華麗なまでに音楽を演じるエリシェさんとラフィナさん。この2人が警護者や探索者では、マデュースやガトリングガンを持って大暴れするという@@; 演奏中の場面を窺えば、とても考えられないものですわ><; まあ、各作品でキャラ名こそ踏襲してますが、中身はかなり変わっているので、ご了承頂ければ幸いですm(_ _)m