第10話 交流2(通常版)
エシェツの告白は初めてのようで、少々辛いがここはラフィナに相談役になってもらった。それに快く応じてくれた。ラフィナには頭が下がる。
中学生が大学生に告白するとあって、とにかくピュアな気持ちが大切と教え込むしかない。形作った言葉など無用、思いの丈を全てぶつけるまでだ。
ラフィナは恋愛のイロハを懇切丁寧に教えている。エシェツの心を察知しており、今できる事を最大限行っているようだ。
チャンスはこの交流教室の期間。他にもチャンスはあるだろうが、エシェツ自身に決意を固めさせるには打って付けだろう。
大学前の喫茶店レミセンの訪問をする。切り盛りするリタナーシュとネアリムも、すっかり定着していた。応募してきた時のリタナーシュとは全く違う、女性マスターとして文句ない出で立ちだ。
本店レミセンに戻る際、帰宅中のラフィナと合流。今のエシェツの状態を教えてくれた。過去の自分を振り返っているようで、彼女自身もウキウキしている。
「エシェツさんの思いは半端じゃありませんよ。」
「彼女なら大丈夫だな。」
「私も見習いたいぐらいです。」
羨ましそうに振り返るラフィナ。数ヶ月前の彼女も同じだったのだが、心中では当時の苦節を思い浮かべてもいるのか。幾分か悲しい素振りを見せる。
「ごめんな、本当は思い出したくもないのだろうに・・・。」
「ううん、逆に嬉しいのです。あの出来事が今の自分を支えている。それにエシェツさんを支える事ができる。私でも人のために、役に立てるのだと。」
「・・・ありがとう。」
感謝で一杯だ。ラフィナも苦節を糧として生きる事を進んで行っている。自分の生き様を刻み、それを知識と経験として人の為に行動しているのだ。
息抜きと思い、彼女を連れて公園へと向かう。公園の木々も徐々に紅葉に染まりつつある。ツーリングで箱根へと赴いた時、旅館から眺めた木々。あそこもこれ以上の紅葉になりつつあるのだろう。
「・・・毎日のように思い出します、あの時の事を。」
散策していると徐に呟くラフィナ。やはりあの苦節が今も痛々しい記憶として残っている。取り除いてあげたいが、俺にはどうする事もできない。彼女自身が乗り越えるしかない。
「・・・嬉しかった。本気になって怒ってくれた。役割だけの存在だと思っていたのに、まるで私の本当のパートナーのように激怒してくれた。」
「君の思いを踏み躙ったんだ。あれだけではまだ生温い。あの時は本気で殺そうと思っていたけどね。でも君の優しさが俺を押し留めた。だから今こうしていられる。」
そうだな。あの時身を呈して止めてくれなかったら、間違いなく相手を叩き殺していたのは事実だ。そうなると俺もラフィナに救われたのだろうな。
「・・・貴方を想うと胸が苦しくなる。この想いは本物です。偽りではありません。」
「ああ、それは俺も痛いほど分かる。だが・・・。」
「ええ、分かってます。でも、想う事は自由ですよね・・・。」
「そうだな。ありがたく受け取るよ、君の一途で大切な想いを。」
徐に寄り添ってくるラフィナ。その彼女の肩に優しく手を回してあげた。今の俺にできる最大限の誠意ある厚意。やはり思う、恋愛のイロハは学んでおけばよかった・・・。
交流教室が始まって約3週間。いよいよ終わりに近付いてきた。学年を超えた交流は大絶賛で、彼らが進む進路にも大きく響いていた。
それぞれが抱えている進路などの悩みを打ち明ける事で、先への不安が払拭されていったようである。これは大きな収穫であろう。
そしていよいよエシェツの告白だ。交流教室最終日に、思い人のカシスにアタックする。その為に毎日鍛錬を積んできたのだから。
「頑張れよ。」
ラフィナよりも奥手でもあったため、今回は俺も仲介役として動く。ディルヴェズに頼み、弟のカシスに指定の場所に来て貰うよう催促する。場所は大学の中央広場だ。
ディルヴェズと同じく長身のカシス。エシェツとは頭1個分の差がある。丁度俺とエシェラと同じだ。
「君が先輩が言っていたエシェツ君?」
「は・・はい・・・。」
俺はラフィナと一緒に校舎の陰から見守る。今回は野次馬は俺達だけだ。周りは部活などもあってか、人は見当たらない。
「あの・・・その・・・。」
恒例の上がり性が出始める。何度も克服しようと試みたが、解決せずに当日を迎えてしまう。大丈夫か・・・、物凄く心配だ・・・。
「・・・カシスさん・・・、わ・・・私と・・・つ・・付き合って下さい・・・。」
心の想いを相手にぶつける。精一杯の勇気を胸に秘め、新しい第一歩を踏み出した。彼女にとっては、これが一世一代の見せ場だろう。
「・・・ハハッ・・・そうだったのか。」
何やらカシスが呟きだした。これはダメだったのかと思ったが、表情は今までにないほどの安堵感に満ち溢れている。
「確か君が公園で俺に話し掛けて来た事があったよね。あれからどことなく視線を感じていたのだが、まさか君だったとは。」
「え・・え・・・?」
そう言うとポケットから財布を取り出し、そこに付いているアクセサリを見せた。それを見たエシェツは一気に顔が明るくなっていく。
「そ・・それは・・・。」
「同級生に苛められていた君を助けてあげた時に貰ったものだよ。あれから見違えるほどに肝っ玉が据わって、今では誰にでも負けないぐらい強くなったと聞いている。それに今の俺の心の支えでもある。大切なお守りだよ。」
う~む、そういった過去があったのか。確かにエシェラが語った通り、ある一時を過ぎた辺りから、見違えるように強くなったとも言っていた。
「エシェツ君も俺の事を想ってくれていたんだね。」
「・・・はい・・・。」
「ありがとう、本当に嬉しいよ。俺でよかったら喜んで。」
彼の返しの言葉に泣き出すエシェツ。そのまま彼の胸の中に飛び込んだ。どうやら相思相愛のようである。過去にあった出来事が、まさかここまで発展するとは思いもしないだろう。まあ何にせよ、告白は大成功だという事だけは分かった。
邪魔しては悪いと思い、俺とラフィナは静かにその場を離れた。これからは2人して自分達の時間を共有していくのだから。
「よかった・・・上手くいって・・・。」
貰い泣きをしているラフィナ。まるで自分の事のように喜んでいる。この姿が彼女の苦節時の俺の態度だったのか。感化されて同じ心境になる事を、傍観的になる事で理解した。
「もしあの時と同じになるのなら、カシス君をぶん殴ろうと構えていたんだが。」
「もうっ・・・。」
冗談も踏まえて語ると苦笑いを浮かべるラフィナ。まあ今の考えは事実なんだがね・・・。それでも当時とは真逆の結果となった。本当に嬉しい限りである。
「・・・ありがとうございました。」
「俺は俺ができるまでの事をしたまでさ。」
一服しながら語る。俺達ができる最大限の行動、それができた後の一服は実に美味いわ。ラフィナも何時になく爽やかな表情を浮かべていた。
「エシェツさん成功したんですか?!」
「よかったぁ~!」
エシェツの成功に本店レミセンで祝杯を挙げる。とはいっても酒は飲めない。それぞれはコーヒーやジュースでのものだ。
「ありがとう・・・支えてくれて・・・。」
「背中を押しただけさ。後は全てエシェツ君の力だよ。」
「貴方のお力でもありますよ。」
カウンター越しに5人で座り、祝杯を交わしながら会話に明け暮れる。今の厨房はデュリアとメルデュラが担ってくれている。2人とも先日調理師免許を取得し、晴れてマスターとして活躍していた。
「変革は己が変わりたいと強く思い実践する事。彼女は言葉で上手く表せない分、それを強く願っていた。だから叶ったんだ。」
「そうですね。」
「思いは無駄にならない。強い思いが勇気となり行動力へ、そして突き進み掴み取る。」
「それこそが生き様になるのだろうな。」
コーヒーを飲みながら思った。生き様はすなわち勇気そのものだとも。勇気がなければ先に進む事はできない。できたとしても直ぐに止まってしまう。勇気こそが変革なのだろう。
「私達も負けてられません、頑張らないと。」
「振り向いて貰うために、とにかく突き進むしかないね。」
「逃げずにぶつかって下さい。逃げたら更に追い続けますから。」
「覚悟して下さいね。」
凄まじいまでの決意で俺を見つめる彼女達。その瞳は活気に満ち溢れている。そして実に怖ろしい。でも、物凄く嬉しい。4人の純然たる一途な思いに感謝した。
交流教室は終わったが、色々なものを残してくれた。最大の収穫としては、変革であろう。体育祭もそうであるが、合同で行う事など今までになかった。
一歩前を踏み込んで、先へと突き進む。それの繰り返しこそが変革なのだ。その瞬間を大切に生き抜く事こそが、今回の最大の要点であろう。
目覚ましい程に変革を繰り広げる現在。それは個人から地域、そして国へと広がる。少しでも切っ掛けを作れた事に感謝している。そして俺の存在も・・・。
俺はまだまだ先に進める。否、突き進んでやる。我武者羅に・・・。
第1部・第11話へと続く。
告白事変は、恋愛シミュレーションゲームの影響でした@@; と言うか、弱気のラフィナさんですが、警護者や探索者ではバリバリのスーパーウーマンを醸し出しています@@; しかも、重力制御ペンダント効果はあるものの、ガトリング砲を振り回す様相ですし@@; 恐ろしい仕様ですわ(-∞-)