第10話 交流1(通常版)
9月も終わり、10月へと入る。真夏の暑さは去っていき、徐々に涼しさが訪れている。真夏よりも今の気節が一番過ごしやすい。一歩間違えば風邪を引くのは言うまでもないが。
ゼラエルに穴を空けられたコートも問題なく着用できる。傷は見事に塞がっていた。いい仕事してるわ。それに俺はこの出で立ちの方が性に合う。覆面の風来坊たる出で立ちだ。
学園全体のイベントはまだまだ続く。今度は交流教室だ。小中高大のクラスをトレードし、学年を超えた勉学に励むという。
物凄く不安なのが、小学生と大学生は折り合うのかという。ここはナツミYUやエリシェの手腕に掛かっているだろう。
喫茶店ザ・レミニッセンスも繁盛している。本店よりは4つの店舗の方が賑わっている。まあ美女が運営しているし、当たり前といえば当たり前か・・・。野郎の性が悲しい・・・。
「お待ちどう、お願いします。」
「あいよ。」
本店は俺とシンシアとで切り盛りするのが当たり前になった。厨房担当はシンシアに任せ、俺は接客を中心にしている。簡単な飲み物作成だけはできるが。
「そろそろお時間じゃないですか?」
「もうそんな時間か。」
そうそう、更に人員を雇う事になった。今回も4姉妹、双子のペアである。女性のマスターに憧れて願い出たようだ。まあ4人だから、またバラバラに担当して貰う事になるが。
「しかしまぁ・・・。」
目の前の席に座る4人。名前はフィムス・ラウファ姉妹、ネシェル・デュネム姉妹。年齢は前後で1つ違うが、4人とも怖ろしく似ている。
「どうでしょうか・・・。」
「通りますか?」
「あ、いや。採用はするが・・・、こうも双子が多いと呆れるぐらいで。」
履歴書に目を通し、採用決定をする。というか履歴書がどうあれ、肝っ玉さえ据わっているなら問答無用で採用するが。OKサインが出た事で、4人は飛び上がらんばかりに嬉しがっている。
「人選は任せるよ。直接店舗に赴いて、先駆者に挨拶してくれ。」
「分かりました~。」
「ありがとうございます~。」
早速4つの店舗に向かう4人。ターリュ・ミュックに勝るとも劣らない程のじゃじゃ馬振りが想像できるわ。雰囲気が2人に似ているからな・・・。
「まだ20と19だよ。磨けば輝くだろうに・・・。」
「それだけ本気という事ですよ。」
一応副運営統括のシンシアに確認してもらう。年齢的にはエイラ達の方が年上だが、統括をする器じゃないと突っぱねてきた。仕方なくシンシアにその役割を担って貰っている。
「その4人が経験積んだら、エイラ達に新店舗を任せようと思う。」
「ああ、例の計画ですか。」
更に地元に4つの店舗を考えている。機転と器量がいいエイラ達なら、独立した形で店を任す事もできる。そこで新たに人員増強し、後継者育成に勤しむ。地味な作業だが、これほど効果がある行動はないだろうから。
「君には迷惑を掛ける。」
「何を仰いますか。師匠には多大なご恩があるのです、師恩に応えずして何になるのです。それに妹達と同じく、貴方を思う気持ちは変わりません。」
「ありがとな。」
そうだな、いい加減覚悟を決めるしかない。風来坊を独立し、故郷に完全と永住する。まだ心の片隅で風来坊としてあるため、傍観者的な考えになってしまうのだろう。
「この国でも一夫多妻が認められればいいのですが・・・。」
うわっ、とんでもない事を口走りだした。作業をしながらマジマジと語るから、余計本気に取れてしまう。でもそれだけ真剣だという事か、本当に頭が下がる思いだ・・・。
更には一夫多妻、つまりエシェラ・ラフィナ・エリシェを踏まえての発言だろう。シンシアはしっかりと理解してくれている。本当にありがたい。
しかしだからと言って一夫多妻を望むという事ではない。そこは肝に銘じないと・・・。
数日後。交流教室が始まった。学園全体の大規模イベントとあり、先方の体育祭の事から凄まじい事になるだろう。
リュリア達小学生のクラスは、エシェラ達高校生のクラスとトレードを。エシェツ達中学生クラスは、ラフィナ達大学生クラスとトレードに。この他に色々とトレードがあった。
はたして、どうなる事やら。暖かく見守るしかない・・・。
「師匠、新しい方々がいらっしゃいましたよ。」
喫茶店の運営方針をローテーション化する事になった。とはいっても担当する店舗は変わらず、休日時の人員補強でもある。言わば非常勤とも言えるか。
新たに願い出た人物との面接。訪れたのはデュリア・メルデュラ・シンシアR・シェイナの4人家族。いよいよ本格的に動き出す時だろう。
「まあ、こちらのサブオーナーもシンシア様と仰るのですか。」
「私と同じですね。」
この家族も凄い。シングルマザーのデュリア、娘のメルデュラ・シンシアR・シェイナだ。4人とも銀髪がとても印象深い、シンシアとは対照的だ。それに彼女より4人の方が肌黒であり、日焼けしていたラフィナのようである。
「では採用するよ、よろしく頼む。」
「了解です師匠っ!」
「頑張りますっ!」
シンシアの口癖に感化されたのか、俺に対して師匠と言い切っている。それほど偉くはないのだが・・・。まあ任せよう。
「俺はオーナーとして指示を出した方がいいかね。」
「その方がいいかと思います。」
「デュリア君をここに固定し、メルデュラ君・シンシアR君・シェイナ君の3人で他の4店舗のローテーションを組ませるか。」
結局ウェイターを外される事になる。レミセンは女性マスターと女性ウェイトレスという流れが色濃く、俺のような野郎が関与すると問題があるかも知れない。ここは運営側に就いた方が無難かもな。
「シンシア君は調理師免許はあるのかい?」
「ありますよ、でなければ料理できません。」
「デュリア君達にも取らせた方がいいな・・・。」
エイラ達は既に取得済み、エリムス達ももう時期取得できる。デュリア達も取得すれば、ほぼ独立営業が可能になる。実に心強い。
「師匠は持ってらっしゃらないのですか?」
「いや、持ってない。あるのは大型自動車・牽引・大型自動二輪・古物商の4つ。」
「うわ~、牽引はなかなか取れないでしょうに・・・。」
「トラック野郎に憧れてたからね、勢いで取ってしまったわ。」
「流石ですよ、ますます憧れます。」
「ほ・・程々にね・・・。」
物凄いといった表情を浮かべるシンシア。そんなに牽引免許は凄いものなのかね・・・。
まあ確かに普通自動車の運転経験から、大型自動車へとランクアップする。更に運転経験を積んで、晴れて牽引免許が取得できるのだから。
最低年数での取得でも27歳前後がいい所だろう。それだけ経験が物を言う免許である。俺の方は本当に勢いだったからなぁ・・・。
・・・そうか、運送系の仕事ならできる訳か。そちらの方も充分選択肢はあるな。喫茶店の運営以外にも、こういった役職を担う事も可能だな。
交流教室が始まって10日後。なかなか慣れていなかった生徒達も、徐々に慣れてきた様子である。滅多に体験できない事だと、他地区からの授業参観をする人も多いとか。
その中でエシェラの妹、エシェツに会う機会があった。エシェラとは対極的なお転婆娘で、ターリュやミュックに匹敵する。同じ顔に近いのに、不思議なものである・・・。
「何時も姉がお世話になってます。」
「いやいや、逆に世話になりっぱなしだよ。」
笑顔を絶やさない。本当にエシェラとは対極に位置している。だが根幹となる肝っ玉の強さは健在だ。相手を思ったら徹底的に貫き通すのだろうな。
「ミスターTさんは、カシスさんに雰囲気が似てる・・・。」
「カシス君って、ディル君の弟だっけ?」
「はい。カシスさんの他に、アシュヴルさんとルーフェスさんがいます。ディルさんが長男ですね。」
ディルヴェズでさえ美男子なのに、他に3人となると間違いなく美男子だろうな。となると4兄弟揃って周りの注目を浴びる訳か、何とも・・・。
それに気が付いた事がある。カシスの名を挙げた時、エシェツの顔が赤くなっているのだ。これは間違いなく好意を抱いている証拠だろう。
「・・・なるほど、一目惚れか。」
「・・・はい・・・。」
「この交流時にアタックすればいいのに。」
「む・・無理ですよ。カシスさんも女子から大人気で、何時も引っ張りだこですから。」
物凄い落ち込んでいる。それだけエシェツの思いは本物という事か。何だか初めてラフィナと会った時と同じだ。ラフィナか・・・。あの恋人屑野郎、彼女の好意を踏み躙りやがって。
「手を貸すよ。君の心からの思いをカシス君にぶつけるんだ。」
「え・・でも・・・。」
「交流教室最終日に告白するといい。それまでは静かに牙を研ぎ澄ましなよ。」
「は・・はいっ、頑張りますっ!」
ディルヴェズの弟の事だ、誠心誠意対応してくれる。もしラフィナの時のようになったら、間違いなくブチ切れるだろうな。そうならないように願おう・・・。
第10話・2へ続く。
万屋ミスターT(-∞-) 正に「覆面の苦労人」でしょうか><; ちなみに、この喫茶店運営に非現実の世界観を投入し、派生させたのが覆面の警護者ですね。向こう側は開始時より、一部の面々に重役設定を施したりしていますが@@;(例えばエリシェさんの様に) こうしてアップさせて頂いていると、当時カキカキした思い出が蘇って来ます(>∞<)




