第8話 ツーリング2(キャラ名版)
それから数日後の土曜日。予てから計画していたツーリングに赴く事になった。何故土曜日なのかは、そのまま1泊して翌日に帰るという計画になったからだ。何だか暴走している気がしてならない。
俺とシンシアとエリシェで先にバイクを取りに行く。現地で受け取り、そのまま出掛けようと考えていた。だが1泊となると持参する荷物の事もある。先に車両を受け取った方がいい。
ちなみにここの店主の名前を聞いて驚いた。何とじゃじゃ馬娘ターリュとミュックの父親、トーマス=シェイレイックだったのだ。
母親メルアは教師という勉学の道へと走っているが、父親トーマスSは完全に趣味の道に走っている。だからあのじゃじゃ馬娘達が生まれた訳でもあり、何だか複雑な事情だろうな。
シンシア「デ・デカい・・・。」
トーマスS「私も驚いていますよ。なかなかこういった高級車に触れる機会はないもので。」
ハーレー自体も威圧感が充分だが、ハーレーサイドカーは更に威圧的だ。その分ドッシリと構えているため、心配していた安定性の部分の不安が薄らいだ。
ちなみにこのハーレーの名称はFLHTCUというらしい。前面はまるでシールドでも取り付けたかのようであり、背面は運転席より若干高くなっている後部座席がある。
本来はないバックシステム・グリップヒーター・カーナビ・ステレオシステムなど、至れり尽せりの重装備。それでいて本体の右側にはサイドカーがあるのだ。贅沢の極みと言える。
それでも野郎心を擽る凄まじい車体だ。流石はバイクの王者と呼ぶに相応しいな・・・。
ミスターT「これで構いませんか?」
トーマスS「はい、大丈夫です。」
既にナンバープレートや車両の登録などは全て済ませてあり、後は複数の書類にサインを書くだけで終えられるようにしてあった。これもエリシェの配慮だ。俺は書類に目を通してサインをする。それをトーマスSに手渡した。
トーマスS「一応述べますが、二輪とは車両特性が異なるので十分にお気を付けを。」
ミスターT「了解です。ありがとうございました。」
トーマスSに頭を下げて礼を言う。それに構わないといった仕草を見せた。彼もトーマスCと同じく熱血漢風の初老の男性だ、実に親しみやすい。
トーマスS「それとミスターT君。何時も娘達の事を面倒見てくれてありがとね。」
ミスターT「いえいえ、彼女達の方から突っ走ってくるようなものですから。」
トーマスS「ハハッ、まあ確かにね。最近今まで以上に明るくなったから、理由を聞いたら君の事を知ってね。確かに娘達が変わるだけの存在だよ。」
ミスターT「ありがとうございます。」
トーマスSの人柄はターリュとミュックの優しさに十分当てはまっている。自分の道を貫き通すという生き様は、彼女達のお転婆度に比例しているとも言える。
またトーマスCとも深い馴染みがあるようで、バイク好きが功を奏して知り合ったのだとも語っていた。先日彼の所かと語った意味が理解できた。
今度ターリュとミュックにお礼を言わないとな。逆に何を言われるか怖いが・・・。
さて・・・いざハーレーサイドカーと対峙するが、この威圧感は凄い・・・。シンシアは圧倒され続けている。
エリシェ「皆さんお待ちしていますので急ぎましょう。」
ミスターT「そ・・そうだな、行くか。」
徐に座席に跨り、エンジンを掛ける。重量が凄まじい分、トーマスCが託してくれたものとは段違いの振動と音。モンスターマシンという言葉が相応しいだろう。
それとトーマスSには頭が下がる。サービスという事でヘルメットを4つ用意してくれた。態々購入しなくても済んだ訳だ。実にありがたい。
そそくさげに俺の後ろへ乗車するエリシェ。ああ、これが本音なのだろうな。一時の安らぎを満喫させてあげよう。
ミスターT「シンシア君、大丈夫か?」
シンシア「大丈夫です。」
ミスターT「おし、行くか。お嬢様、しっかり掴まってなよ。」
エリシェ「はいっ!」
徐に発進する。その重量感を身を以て体感し、これなら大丈夫だと確信した。流石はバイクの王様だ。
通常の二輪車と異なり、サイドカーは側車に負荷が掛かる。走行時は側車がある方に、停止時は側車に惰性が生じる。側車がある側に旋回する時は大丈夫だが、逆の場合は側車が浮かぶ可能性もある。
つまり高速走行時は不安定になり、それでよろめいた時は更に不安定さが増す。最悪横転して大ダメージを受けるだろう。
剥き出しの状態で乗車しているため、その時のダメージは計り知れない。運がよくて重傷、最悪は即死だろう。二輪車でいる時の方がまだ安心と言える。
このツーリングは俺の人生の中で最大の試練かも知れない。4人の命を預かるのだから。
地元に戻ると、早速荷物を乗せる。エシェラとラフィナも車両の威圧感に驚愕していた。だが未知なる冒険が眼前にあるのか、表情は物凄く嬉しそうである。
ポジショニングはこうなった。自分が運転する側は、後ろにラフィナ・側車にエシェラ。シンシアが運転する側は、後ろにエリシェ・側車に全ての荷物を乗せている。この配置はローテーションという事で、サービスエリアなどの休憩時に変える事にした。
目的地は箱根。電車でも2時間前後で充分赴ける。高速に乗る事になるが、それも全て冒険である。恐れる事などない。
準備を整えると出迎えてくれたトーマスCに見送られ、俺達はツーリングへと出発した。
実に爽快だった。車両特性から若干の怖さはあったが、それを払拭させるほどの爽快感。ハーレーサイドカーともなると珍しいようで、行く先々の人々が見入っているほど。信号待ちの時には話し掛けられるほどである。
高速は意外なほど快適だった。状態が状態なだけに、壁寄りを走行している。慣れるまではこの方がいい。無論慣れても安全運転必須だが。
またサービスエリアでの休憩は必須だった。風に直接さらされる事で体力の消耗が激しいのだから。気合いでいけるだろうが、搭乗者は俺だけではないからな。
休憩も含めて3時間で箱根へと到着する。現地でも見入られており、何だか恥ずかしい。しかし爽快感は十分なほどである。
オーナー「ようこそエリシェ様。お部屋にご案内致します。」
今度はホテルではなく旅館だ。一般の車のスペースに車両を止め、俺達は旅館へと入る。ここも三島ジェネカン所属の旅館だけあり、エリシェの顔は知られている。VIP待遇とはこの事だ。実に怖ろしい・・・。
エシェラ「ホテルもいいけど、旅館もいいねぇ~。」
部屋に着くなり表を見入るエシェラ。ラフィナとシンシアも同じく見入っている。表は海ではなく、木々が生い茂る山林となってる。秋になれば紅葉で素晴らしい景色になるだろう。
ミスターT「よく疲れないよなぁ~・・・ヘトヘトだよ・・・。」
エリシェ「お疲れ様でした。」
俺はソファーに寝転がる。必要以上に神経を使ったため、凄まじい疲労感だ。シンシアも同じだろうに、全く疲れた表情をしていない。本当に女性は強い・・・。
ミスターT「これさ・・・、ツーリングというより旅行だよな・・・。」
今更気付いた事だ。サイドカーやツーリング・複数乗るという事しか頭になく、1泊する事にようやく気付いた。それに俄に喜んでいるのは4人の方だ。結局は踊らされたという事か。
シンシア「お兄さんと一緒なら、どこへでも行くよ。」
エシェラ「そうそう。」
ラフィナ「私達を甘く見ないで下さい。」
エリシェ「これからも色々な場所に行きましょう。」
怖い、実に怖い・・・。彼女達の表情が無気味に見える。まあ嬉しい事には違いない。それに楽しい一時を刻めるのなら、率先して動くべきなのだろう。
シンシア「ここの露天風呂は混浴可能のようです。」
エシェラ「どうしようか。」
どうしようかと言いながら俺を見るな俺を・・・。完全に誘っているのが分かる・・・。嬉しい事には変わりない。だが・・・う~む・・・。
エリシェ「一緒に入りませんか?」
ミスターT「断っても無理矢理連れ込むつもりなんだろ・・・。」
ラフィナ「分かってるじゃないですか。」
・・・素直に従おう、竹箆返しが怖すぎる・・・。心では嬉しがりながらも、表は渋々という雰囲気で4人に付き合った。
ラフィナ「お風呂も覆面取らないのですか?」
ミスターT「ほっとけって・・・。」
海水浴以上に目のやり場に困る。それでも見てしまうのは、悲しき野郎の性だな・・・。どうせならニヤケ顔が分からないように、顔全体を負う覆面が欲しい・・・。
シンシア「・・・不思議な気分です。」
エシェラ「何がですか?」
シンシア「数日前までは明日をどうするかで悩んでいたのですよ。殆ど絶望に近い状態です。それが今では皆さんと一緒に露天風呂に入っている。今も夢を見ているような気がして。」
ラフィナ「私もそうです。告白が失敗した時、明日をどうしたらいいか痛烈に悩みました。シンシアさんのように、絶望しかありません。偶に夢を見ているのかと疑いたくなります。」
シンシアは数日前までは明日を怖がっていた。またラフィナも告白が失敗した時、明日への希望を見失っていた。2人とも背中を押さなければ、今も路頭に迷っていただろう。
ミスターT「夢は叶えるもの。その目標に向けて、少しでも前に進む。俺は夢を抱くよりも、生きるという事に執着し続けた。自分が自分でいられるように、我武者羅に突き進んだよ。今があるのは君達のお陰だ。俺自身の生き様を刻める事に感謝している。」
テメェの生き様を刻め、これが俺のもう1つの原点回帰だ。今を精一杯生き、明日を掴む。俺の戦いはまだ続いている。
エシェラ「フフッ。アマギHさんを助けた時と同じですね。ミスターTさんの心中に定まる凄まじい執念。それは絶対に揺るぎないもの。根底は人を助ける、エリシェさんの生き様と同じ。そんな貴方に心から惚れました。今もこの気持ちは全く変わりません。」
ラフィナ「告白が失敗して踏みにじられた時も、無視すればできた事なのに貴方はしなかった。自分の事のように激怒してくれた。いいえ・・・、自分以上に激怒してくれた。そんな貴方を想わない女など、女じゃなりません。」
エリシェ「大願へ向けて進む事に不安でした。でも貴方は恐れずに突き進めと仰ってくれた。人を救う事は率先して行うのだと。その貴方を支えるのが、私の新たな決意です。」
シンシア「私の不安な心を慰め、優しく背中を押してくれた。だからこうしていられる。本当に感謝しています。ありがとうお兄さん。」
無意識に涙が流れる、歓喜の涙だ。4人に心から感謝されている事に、俺は言い表せない感情に駆られた。涙は止まらないが、この上なく嬉しくて堪らない。俺の生き様は間違っていなかった・・・。
ミスターT「・・・ありがとう・・ございます・・・。」
俺は泣き続ける。その姿を見て貰い泣きをしだす4人。本当にありがとう・・・。この4人の素晴らしき女傑に、心から敬意を表した・・・。
露天風呂から上がり、夜食を取る。この時の夜食は今までになく美味しいものだった。その後は全員して窓から表を眺める。何も考えずに眺め続けた・・・。
静かだ、本当に静かである。何も語らなくとも、彼女達と意思の疎通が出来ている感じがしてならない・・・。
ミスターT「・・・今この瞬間を大切に、だな。」
ラフィナ「そうですね・・・。」
エシェラ「明日も頑張ろう。」
シンシア「私達にできる事をするまでですよ。」
エリシェ「この瞬間を絶対に忘れません。」
ミスターT「そうだね・・・。」
端的な会話だが、それぞれの心に強く響く。もちろん俺自身にもだ。この瞬間に原点回帰を定め、辛い時などは思い出そう。テメェの生き様を刻む戦いの糧として・・・。
翌日。朝食を取ってから旅館を出発。箱根といえば芦ノ湖だ。現地に到着するまで時間は掛かったが、その景色には心を癒される。遊覧船にも乗って、湖の上での一時を満喫する。もっと色々と寄りたかったが、帰宅までの時間を考えると戻らねばならない。
俺達は湖をバックに記念写真を撮る。これは人生の中で大切な宝物の1つとなるだろう。
昼食を取ってからお土産を購入。積載の問題で宅急便発送となる。相変わらずエシェラは買い捲ってるが、それは他の友人などに渡す分もある。実に彼女らしい。
その後俺達は一時の安らぎを終え、故郷たる東京へと戻った。本当にあっと言う間の一時のようであった。
この2日間の思い出。俺は生涯、絶対に忘れない・・・。
第1部・第9話へと続く。
ハーレーサイドカーの単車側、FLHTCUという一品でした><; しかし、本当に運転してみたいものです><b ただそれには、大型自動二輪免許と、同車両の購入が必要ですがね@@; ともあれ、風来坊はそうした野望群が数多くあります@@; 警護者や探索者とは異なる流れですわ(-∞-)