第8話 ツーリング1(キャラ名版)
8月は終わりを告げ、9月へと入っていく。まだまだ暑さは健在だが、幾分か涼しくなっている。
シンシアが来た後に、更に4人の働き手が訪れる。トーマスCと同期で後輩のオルネフィスの四つ子、エリムス・ネアリム・フェリカ・ラフィアだ。無論断る事なく承諾する。
店舗の担当だが、こういう配置にした。駅前店にはエリムス・ネアリムを、大学前店にはフェリカ・ラフィアに入って貰った。
シンシアは俺と一緒に行動している。料理も得意なため、トーマスCと一緒に厨房の担当をしている。勿論ウェイトレスとしても活躍し、ここも俄に活気付きだした。
今は上空を台風が通過中、表は大荒れだ。既に何回か台風は上陸しているが、今回のは規模が凄まじかった。まあ自転車や看板が薙ぎ倒されるぐらいでしかないが。
シンシア「表は相変わらずですね。」
トーマスC「こういう場合は待つしかないさ。」
シンシアは新しいメニューの作成に取り掛かっている。今のメニューでは定番過ぎて、何れ飽きが来るだろうと踏んだためだ。これにはトーマスCも賛同し、一緒になって新メニューの作成に勤しんでいる。
ミスターT「もう少し濃い味がいいと思う。」
シンシア「OK。」
今挑んでいるのはマグロのフライだ。マグロは刺身が最高なのだが、自分はこの方刺身と寿司が苦手で食べた事がない。ネタを揚げるなり焼くなりしてくれれば食べられるのだが・・・。
トーマスC「そうそう、隣地区の友人がツーリングに行こうと言ってきたんだが。」
ミスターT「いいじゃないか、行ってきなよ。」
ツーリングか、トーマスCが喜びそうな事だ。10数台のハーレーを持っているだけに、本当は乗りたくて仕方がないのだろうから。
トーマスC「全て任せてもいいかい?」
ミスターT「シンシア君がいれば恐れるものなどない。俺はサポートに回るだけで問題ないさ。」
シンシア「任せて下さいな~。」
シンシアとは気が合う。というか同じ属性なのかも知れない。生き方は違えど、目指す場所は同じだ。それに彼女はボーイッシュタイプ。言葉が男言葉なら、男性と間違われるだろう。
ミスターT「まあ何だ、この台風が通過しない限りは無理だが・・・。」
トーマスC「それは言わないでくれよ~。」
苦笑いして述べるトーマスCに、俺とシンシアは笑いあった。彼の存在はもはや父親と全く同じ。勇気と安らぎをくれる大切な人物だ。
翌日には台風はいなくなり、台風一過で快晴である。更に高気圧も運んできたため、物凄い暑さになっていた。
早朝から友人達と一緒に出かけたトーマスC。本店喫茶店は俺とシンシアで切り盛りしなければならない。
ミスターT「サンドイッチとカルピスソーダのオーダー。」
シンシア「了解~。」
驚いた。シンシアの料理のスキルは凄まじかった。トーマスCの料理技術を見様見真似で実践している。弁当屋に住み込みで働き、海の家で経験した事が役立っているのだろう。
ミスターT「なるほど、初めて会った時の素人気味の行動は緊張からか。」
シンシア「そうですね。次の新天地がどのような不安もあったので。でもこの新天地なら、私は骨を埋めてもいいですよ。」
ミスターT「ハハッ、ありがとな。」
語りながらも作業を止めない。テキパキとサンドイッチとカルピスソーダを完成させて、それをカウンターへと置いた。俺はトレイに乗せてお客さんの元へと届ける。シンシアの強さなら、ここの後継を任せても大丈夫そうだ。
エリシェ「こんにちは。」
シンシア「いらっしゃい、何時ものにしますか?」
エリシェ「はい、お願いします。」
3人もシンシアとは直ぐに打ち解けた。年齢的に年上になるため、頼れる姉御的存在だ。特にエリシェにとっては姉ができたようで物凄く仲がいい。
ミスターT「例の交流教室はどうだ?」
エリシェ「来月の第1週から第3週までに行う事になりました。シューム様にお手伝いして頂いているため、早く計画が練り上げられましたよ。」
トーマスCが俺をここのマスターとして挙げているため、動き難くなっている現状。そこでエリシェのサポートにシュームを抜擢した。パートで生計を立てており、それを不憫に思ったのも切っ掛けの1つだ。彼女自身物凄く喜んでいた。シュームも姉御肌だな。
エリシェ「シンシア様はこちらの生活に慣れましたか?」
シンシア「バッチシですよ。それにお嬢様の自宅に住ませて頂いて、本当に感謝してします。」
先日のシンシア訪問で、先ずは住み込み先を決める事になった。そこで思い立ったのが、エリシェのマンションである。
エリシェ「お礼ならミスターT様に仰って下さい。貴方の事を大変心配しておられましたから。」
ミスターT「シンシアなら上手くやれるさ。」
一服しながら語る。シンシアの器量の良さなら、どのような環境でも戦っていける。これは確信論に近い。
シンシアも幼少から格闘術を習っているという。エシェラに匹敵するかのように、柔道・合気道・カンフーと凄まじい程だ。一体どこで習ったのかと思うが、今の世の中このぐらいのスキルは欲しいものだな。
それにエリシェのあの一件から1人だという事に心配していた。そこにシンシアの強さと住む場所を探していた事で見事に一致、言わば住み込みボディーガードと同じである。
どうしてどうして、周りには滅茶苦茶強い女性ばかりなのだろうか。不思議で仕方がない。怒らせれば手痛い竹箆返しを喰らうのは言うまでもない・・・。
エシェラ「あぢぃ~・・・。」
午後は更に気温が上がる。台風一過がもたらした夏場の再現だろう。エシェラとラフィナも喫茶店に来るなりグロッキー状態だ。
ミスターT「ほいよ。」
ラフィナ「ありがとうです・・・。」
濡れタオルと冷たい麦茶を渡す。こういう場合はジュース類よりも麦茶に限る。健康飲料の方が身体には遥かにいい。
するとタオルで身体の汗を拭く2人。所構わずといった仕草に、思わず顔を背けてしまう。それだけ色っぽいという事だ。
というか態とらしくやってないかね・・・。まあ目の保養になるのは事実だが・・・。
エリシェ「小父様・・大丈夫でしょうか・・・。」
ミスターT「かなりの大集団で向かったそうだから大丈夫だと思うよ。」
シンシア「ハーレー軍団、さぞかし威圧的でしょうね。」
エシェラ「ミスターTさんも一緒に行けばよかったのに。」
身体を拭き終えると、今度は麦茶を一気飲みするエシェラ。ラフィナも普段のお淑やかさはどこへやら、まるでオッサンのように麦茶を飲み干した。
ミスターT「あまり好きじゃない、集団で動くのは。」
シンシア「では今度一緒にツーリング行きませんか?」
ミスターT「構わんが、バイクの免許持ってるのか?」
シンシア「18の時に大型を取りました。よくバイクを借りて乗り回してますよ。」
この美丈夫にも驚かせられる。何から何まで俺に似てる、ワイルドすぎるのだ。それでいて3人のように肝っ玉が据わっているのだから、実に怖ろしい訳だ・・・。
エシェラ「いいなぁ・・・シンシアさんばかり・・・。」
シンシア「サイドカーでもあれば、皆さんを乗せて動けますが。」
サイドカーか。アレは運転がかなり難しい。特に車とは異なり、横転した時のダメージが尋常じゃない。俺だけならともかく、大切な人を乗せるのだから。
ミスターT「シンシア君は免許取得から何年だい?」
シンシア「今年22ですので、かれこれ4年になります。」
ミスターT「問題なさそうだな。ちょっと待ってて。」
携帯を取り出し電話を掛ける。内容は気になっている問題の解答、相手は警察機構トップのライディルだ。
ミスターT「はい・・了解です、ありがとうございました。」
会話を終えて電話を切る。次の第一声を待ちわびている4人。その姿は幼子が親の次の一声を心待ちにしているようである。
ミスターT「大丈夫そうだ。単車側に運転手1人と乗車1人、サイドカー側に1人の計3人。かなり危険なツーリングになりそうだ。どうする?」
ラフィナ「ミスターTさんとシンシアさんに任せます。」
エシェラ「死ぬ時は一緒だよ。」
ミスターT「縁起でもない事言いなさんな・・・。」
エリシェ「大丈夫ですよ。お2人を信じていますので。」
こういう場合は肝っ玉が据わってるのは強いのか。逆に向こう見ずなだけなのか。正直言って物凄く怖いが、4人が望んでいるなら応じるしかないか。
シンシア「車両どうしましょうか、しかも2台。」
エリシェ「あ、私にお任せを。直ぐに手配しますよ。」
そう言うと携帯を取り出し電話を掛けだす。エリシェの行動力と財力の強さには恐れ入る。この場合は甘えるしかないか・・・。
トーマスC「サイドカーか・・・。」
夕方頃、トーマスCは帰って来た。他の大軍団の面々も一緒で、夜食をご馳走するそうだ。その中で彼にツーリングの計画を持ち掛けた。思い切った行動に驚いている。
エリシェ「車両の手配は済みました。ハーレーダビッドソンにサイドカーを取り付けたのを2台。曳船にあるディーラーに届けて貰うようにしてあります。」
トーマスC「彼の所か。それとハーレーのサイドカー、装備によっては1000万以上する高級車だよ。」
エシェラ「うわっ・・・。」
エリシェ「今回手配したのは250万です。中古車・ワンオーナーで、2台とも同じです。」
合計500万の高級車か・・・、聞くだけで背筋が凍り付きそうだ・・・。普通じゃ絶対に買えない代物だ・・・。
シンシア「傷付けたら一大事ですよね・・・。」
エリシェ「大丈夫です、即決で購入しました。」
何て事を・・・。ツーリング行くだけに500万も出すのか・・・。呆れる、呆れ返るぞ。完全に常識の範疇を通り越している・・・。
ラフィナ「置く場所どうするのですか・・・。」
エリシェ「マンションの地下駐車場にスペースがあります、そこに置きますよ。」
笑顔で応えるエリシェに、俺達はただただ呆れ返るしかない。世界最強の大企業の社長令嬢の考えは分からない・・・。
エリシェ「所有権はミスターT様に委ねます。当日サインだけをお願いしますね。」
ミスターT「・・・500万も金ないぞ・・・。」
手持ちは持って200万程度だろうか。それでも半分にしか相当しないものだ。他の口座も調べれば、それなりにあるのだろうが・・・。
エリシェ「私からの誕生日プレゼントです、お受け取り下さい。」
ミスターT「そうか、7月は過ぎたのか・・・。って、根本的解決になってない・・・。」
エリシェ「その代わり・・・、偶には乗せて下さいね・・・。」
頬を染めながら語っている。そういう意味合いじゃないだろうに・・・。恐ろしい事を次から次へと・・・。
エリシェ「本当は恩返しなのです。」
次の言葉に悩んでいると、徐にエリシェが語りだす。彼女は恩返しというが、それに見合うだけの恩など売ってないんだが・・・。
エリシェ「躯屡聖堕の一件が顕著にあります。皆様が献身的に動いて下さる事で、私達の無謀とも言える行動が理想から現実になりつつあります。人々を助けるという事を最優先で動く。これほど尊い行動が他にありますか?」
凄まじいまでに説得力がある。ここ最近の躯屡聖堕の活躍は目覚ましい。前回と今回の台風で被害にあった地域の復興に多大な貢献をしている。他にも挙げればキリがないほどだ。
エリシェ「貴方が切っ掛けを作って下さらなかったら、私達はまだ大願へ向けて足踏状態でした。その大きな切っ掛けに比べたら安いものです。」
トーマスC「ここはお嬢様の勝ちだな。素直に受け取っておきなよ。」
その真意を察知したトーマスCは納得している。それに俺の方も納得はしている。だがそういった事を期待して動いた訳じゃない。この現実はあまりにも理解できずにいた。
エリシェ「貴方の存在そのものが私達の大願を切り開く突破口だと確信しています。だから貴方を絶対的に信じたい、いけませんか?」
どこまでも真っ直ぐな瞳で俺を見つめる。これには素直に信用しなければ逆に失礼だろう。渋々折れる事にした。これ以上渋り続けるのは彼女が可哀想である。
ミスターT「分かった。君がそこまで思ってくれるなら何も言わない。ありがとう。」
エリシェ「はい・・・、お役に立てて光栄です・・・。」
また頬を染めている。その行動が信用を揺らがせるというのに・・・。まあこれは女性の素直な厚意なのだろう。素直に受け止めるべきだな・・・。
第8話・2へ続く。
シンシアさんの参戦により、喫茶店業務が強化@@b しかし、ハーレーサイドカーは憧れです><; 前面がシールド張りのFLHCHでしたっけ、あのタイプが一番お気に入りですU≧∞≦U ただ、維持費やら運転時の負荷(特に側車側)があるので、非常に扱い難い車両ですが@@; まあ、ノッキングによる立ち転けがないのが不幸中の幸いでしょうか@@;