第10話 第2の風来坊4 久方振りの雑談2(通常版)
その夜は家族全員が揃って大晩餐となった。以前はまだ幼い容姿だった娘達だが、今はどの娘達も立派な大人の女性である。まあ成長しすぎて部屋が狭くて大変ではあるが・・・。
13年振りに戻ってきた娘達と、地元で今も生活している娘達が集い合う。一番末っ子のメアティナとメアティヌも認知度があるため、お互いに交わされる会話の幅が広がっていた。
そんな娘達を見つめつつ、俺はシュームと一緒にバルコニーで一服中だ。傍らではその場に座り、ノートパソコン片手に運営の対応に追われているヴェアデュラがいる。一服しながら雑務に没頭する彼女は、本当にワイルドウーマンさながらであろう。
「全盛期のシュームそのもの、か・・・。」
「フフッ、そうね・・・。」
「今年でヴェアが38歳だろ、シュリムとシュリナは37歳だし。」
「そろそろ孫や曾孫の顔が見たいわねぇ・・・。」
「・・・こいつらを扱える野郎はなかなか登場しないわな・・・。」
「ハハッ、それは確かにね・・・。」
飯の取り合いに発展している室内の状況。ヴェアデュラを除く26人の娘達は、さながら山賊そのものである。これで喧嘩に発展しないのだから、母親達の躾は凄まじいものであろうな。そしてこの美丈夫達の夫となる人物は現れるのだろうか。その部分は些か不安でもある。
「お前も老けたよなぁ・・・。」
「身体も声色も徐々に低下してるからね。」
「でも、ここは29歳のお前だと確信している。」
傍らにいるシュームの両乳房の間を親指で軽く叩いた。心こそ大切なれ。心が若々しければ永遠の若さを保てるのだから。
「・・・貴方と巡り会えて本当によかった・・・。」
「・・・お前のお陰で大家族という夢が実現できたしな・・・。」
大盛り上がりの娘達を見つつ、シュリムとシュリナが生まれた時を思い馳せるシュームと俺。あの時は世間体を気にし過ぎて、一歩前へと進む事ができなかった。しかし今はその更に先を進んでいる。実に驚きであろう。
「これからもよろしくな、相棒。」
「もちろんですよ。」
シュームに右手を差し出すと、同じく右手を差し出して握手を交わす。以前は簡単な口づけなどを求めてきたが、今はこういった男臭いコミュニケーションを繰り返している。末っ子のメアティナとメアティヌや、後続の長女のリヴュミナとリヴュミヌの影響が色濃く出ていると言えるだろう。
「ほら~どうよ~。」
大晩餐を終えた娘達。俺も妻達と一緒に遅い夜食を取り、その後の雑談に勤しんでいる。その中先に入浴を済ませたリュアとリュオが、バスタオル一枚纏っただけの格好で現れた。恥らう事なく自分の成長した姿を惜しみなく見せてくる。これには流石に呆れてしまった。
「ほ・・本気にする奴がいるか・・・。」
「だって~成長した身体見たいっていってたじゃん~。」
恥じらいさがないリュアとリュオは、ある意味脅威そのものである。流石にここまで大雑把な性格ではない他の娘達は、双子の言動に顔を赤くしている。
「でもなぁ・・・よくぞここまで育ってくれたわ・・・。」
「お父さんが言っていたよね、7年以上は頑張れって。」
「その倍は頑張ろうとしたけど、やっぱ地元が恋しくなっちゃってさ。」
いきなりバスタオルを剥ぎ取りギョッとさせたが、中は下着は着用していた。しかも肩を露出させるために、態々ブラジャーのショルダーベルトを脇まで下げている。
いくら娘であっても年頃の女性が下着姿で目の前にいるのには、顔を赤くしてしまうのは言うまでもない。だが当の本人達はお構いなしといった雰囲気である。男臭さが色濃く出ていると言えた。
「あらゆる面でリュアちゃんとリュオちゃんには敵わないわよ。」
「ヴェア姉さんと同じく、内在する命の脈動は凄まじいからねぇ。」
「そう言うお前達はこいつらの実の姉なんだが・・・。」
父親は全員俺だが、シュリム・シュリナとリュア・リュオは血の繋がりが非常に濃い。前者はシューム、後者はシュームの娘のリュリアが母親だ。殆ど姉妹と言い切ってもおかしくない。
「本当にお母さんにソックリよね。」
「リュアちゃんとリュオちゃんはちょっと似てないけど。」
「それはどういう意味かなぁ~・・・。」
母娘が同じになりつつあると周りは告げる中、シェラとシェナがリュリア・リュア・リュオ親子は似ていないと愚痴る。それに顔を引きつらせて過剰反応するリュリア。それに青褪めて謝るシェラとシェナだった。
「ハハッ、確かに似てないわな。リュリアは怒りっぽさがあるが、リュアとリュオは天然さが色濃く出ている。リュリアが垢抜けた姿と言えるわ。」
「ひど~い。」
「にゃはは、母ちゃん悔しがってるにゃ~。」
「親子共々似過ぎていたらおかしいよねぇ~。」
俺の言葉に悲しむ素振りを見せるリュリアだが、娘のリュアとリュオは笑って認めている。この天然さは娘達の中で一番だろう。誰も真似はできないわ。
「まあでもお父さんは共通ですし。」
「伝説の覆面の風来坊、ミスターT=ザ・レミニッセンス。子供の頃は世間体などの違和感がありましたが、今は胸を張って私達の父ですと言い切れます。」
「流石我が娘達だわぁ~。」
エシェナが語る通り、幼少の頃は少なからず俺達の関係の事を気にしていたようだ。しかしそれをネタにからかわれるという事はなかったようだ。むしろ父親が伝説の覆面の風来坊とあって、周りからは憧れの目線を送られていたようである。
「一歩間違えば、子供の頃に虐めの対象になっただろうに。」
「ああ、そこは大丈夫でしたよ。それに陰ながらナツミYUさんが補佐してくれてました。更に母や叔母様方が幅を利かせてくれていましたし。」
「殆どナツミYUが面倒見てくれていたからねぇ。」
「それに悪人心折として恐れられていたお父さんですから、誰も陰口を叩く事はしなかったようです。」
「悪人心折も意外な所で役立ったという事か・・・。」
ゼラエル・ベロガヅィーブ・スカーレットを黙らせたという俺の存在は、警察関連者ではなく地元にも浸透していたようだ。特に13年前の核弾頭事変や19年前の企業間抗争で暗躍していたジェリヴァとアビゲイルが顕著に値しているようである。
第10話・5へ続く。
悪人心折の発展先は、警護者や探索者でも多用している“殺気と闘気の心当て”と。完全にファンタジー要素満載ですね@@; あと、風来坊側ではシューム嬢が普通の主婦なため、警護者や探索者のようなワイルドウーマンとは程遠いのが何とも。しかも年数的にかなり歳を取っておられますし@@;
ともあれ、大切なのは絆の繋がり。確かに血縁も大切ですが、師弟の理に至ると血縁を超えた絆が大きな要因となりますので。今の時代ほど、この概念が大切だと思う時はありません。読者の皆さんも、目の前の大切な存在を心から大事になさって下さいm(_ _)m