第10話 第2の風来坊3 久方振りの雑談1(通常版)
「数日ほど休ませて頂いてから、今度は本社の方の担当に移ります。暫くは地元で本線の流れに戻しませんと。」
「今までの経験を最大限活かすのはこれからですから。」
カウンターで一段と上品に紅茶を啜るエリムとエリア。完全に企業の社長令嬢といった風格が色濃く出ている。他の娘達も昔とは違い、女性らしさが前面に出ていた。
「これでやっと楽ができるわぁ・・・。」
「何言ってるわぅ、常々日々に強き給えわぅよ。休んだら蹴飛ばすわぅからね。」
「ひ・・ひぃ・・・分かりましたよぉ・・・。」
少しでも怠ける姿勢を見せると叱咤が飛ぶ。特にミツキの恐さは誰もが知っているため、その言葉に顔を青褪めてしまうのが当たり前であった。
「今じゃミツキに敵うものはナツミAぐらいだろうな。」
「姉ちゃんには敵わないわぅ。」
「あら、でも格闘術に関しては私より強いじゃない。」
ナツミAの言葉に恐縮気味になるミツキ。姉には到底敵わないといった雰囲気が色濃く出ている。
13年の月日はナツミAとミツキの姉妹を天下無双の戦乙女に成長させた。特に2人とも恩師ヴァルシェヴラームすら成し得なかったスペースシャトルのライセンスも取得している。運転できないものは一切ないほどのベテランパイロットである。
格闘術においてはミツキが特に凄まじく、大多数の格闘術をマスターするに至っている。姉のナツミAも13年前とは見違えるほど身体が丈夫になり、ミツキには若干劣るも格闘術の腕も凄まじいまでに高まっていた。
また3年前から孤児院の運営に携わっており、ヴァルシェヴラームとセルディムカルダートの孤児院をそれぞれ担当するに至っていた。
攻守共に劣る所はない、正真正銘の女傑と言える。あのリュアとリュオすらも敵わないと確信できた。
「姉さん強くなったんだね。」
「お陰様で何とかね。」
「よかったよかった。」
ナツミAの体調の事はリュアとリュオも心配していたようで、見違えるほどに強くなった彼女に心から喜んでいるようだ。確かにイギリスから戻って来た時は、まだまだ危なっかしい雰囲気が残っていたからな。
「シェヴもディムも何も言い残す事はないと喜んでいたしね。」
「え・・・まさか・・・。」
「お・・お亡くなりに?」
「・・・本人にどつかれるぞ・・・。」
既に100歳を超える超高齢者に至ったヴァルシェヴラームとセルディムカルダート。そんな2人が逝去したと勘違いしたシュリムとシュリナを戒める。
恩師2人は再び孤児院へと戻り、今ではナツミYUと同じく庭園の庭師として余生を送っている。流石に100歳を超えた辺りから全盛期の力は出せなくなってきだしている。
しかしそれが肉体的にも精神的にも老化したという事ではなく、自分達の時代は終わったと若い世代に全てを託している現われだ。
俺も時期に彼女達と同じく隠居となるだろう。しかしギリギリまでは生涯現役を貫いていく覚悟である。
「そうでしたか、ご健在ですね。」
「もう100歳を超えられていたので心配していました。」
「ここだけの話、殺したって死ぬような人達じゃないわな。まるで不死鳥の如く何度も舞い上がってくるわ。」
「フフッ、言えてます。」
偉大さを若干の皮肉を込めて語ると、それに肯定してウンウン頷く娘達だった。恩師2人の生命力は衰える所を知らず、更に爆発的に勢いを増しているとも思える。
俺がまだまだ膝を折れない理由は2人の存在もあったればこそだ。それこそ師恩を返さず、忘恩の輩に陥るのは目に見えている。
「この身が燃え尽きる瞬間まで俺は戦い続ける。現にシェヴやディムがそうなのだから、それに肖らなければ覆面の風来坊とは言えないわな。」
「そうわぅそうわぅ、負けられんわぅよ!」
「戦いはこれからが勝負です。一気呵成に盛り上がって行きましょう。」
ナツミAの言葉に力強く頷く娘達。己の生き様を刻む瞬間は先ではない、今この瞬間なのだ。苦節をも糧として生きる事を続けているのだから、負ける事など眼中にない。
「俺の方も第一線からは安心して退けられるわな。」
「でも休む事なく動き続ける、でしょう?」
「愚問さ。まだまだやるべき事、学ぶべき事は沢山あるしな。」
後継者が陸続と登場している現在。俺の役目は殆ど終わったと言ってよい。しかしミツキの語る通り、まだまだやるべき事や学ぶべき事は数多くある。
「今度はお父さんと一緒に頑張らないとね。」
「13年の修行の成果、お見せしますよ。」
娘達を代表して、リュアとリュオが決意を述べる。今年で26歳に至る双子は、全てにおいて据わった才女と化している。恐ろしい事この上ないとも言えるが、その分学んできた事は多々あったのだろう。
そんな2人を近くに呼び、優しく抱きしめた。それに心から甘えてくる姿は、昔も今も全く変わらないリュアとリュオである。
「第2の覆面の風来坊の登場だな。俺も負けられないわ。」
「今正に始まったばかりですよ、・・・あ・・電話だ。」
会話の途中で携帯を取り出して応対するヴェアデュラ。しかし直後大人しかった彼女の表情が一変する。先程の取り引きの続きだろう。
「だから・・・それでは間に合わないと何度言ってるんですか!」
荒々しい会話をしながら店外に出て行く。この場では迷惑になると踏んだのだろう。その様子は本当にやり手のワイルドウーマンそのものである。
「ヴェア姉さん強くなったね。」
「お母さんみたい。」
店外の硝子越しで会話するヴェアデュラの姿は、オフィス街でマネージメントをする女性そのものだ。13年前では考えられない姿だろう。それにリュアとリュオは驚嘆している。
「肝っ玉の据わりではナツミAやミツキを遥かに凌いでいるわな。ヴァルシェヴラームの再来と言っていいだろうね。」
「またヴェアさんの内在する命の脈動も、私達を遥かに凌駕していますよ。その部分を闘気に当てはめるのなら、私達なんか足元にも及びませんから。」
「ヴェアちゃんは沢山努力しているわぅからね。わたも負けられないわぅ。」
ナツミAとミツキは普段からよく会っているが、リュアやリュオ達は13年振りに再会した長女ヴェアデュラの変革振りに驚いているようである。確かによくよく振り返れば、彼女のこの数十年の成長振りは目覚ましいものだ。
「俺からすれば、お前達も恐ろしく強くなったと痛感できる。黙っていても身体からは闘気が滲み出ているからね。」
「まだ帰って来たばかりで分からないと思いますが、お父さんにこれから成長した姿をお見せできれば幸いです。」
「そうだなぁ・・・メルデュラに勝るとも劣らないナイスバディは見てみたいものだ。」
「もうっ・・・。」
「ほら出た・・・。」
「こうじゃなきゃダメよねぇ・・・。」
母親メルデュラに勝るとも劣らない巨女へと成長したメルテュアとメルテュナ。その2人の美貌に憧れを示したら、案の定妻達にヤジを飛ばされた。しかし俺らしいを周りは苦笑いを浮かべるに留まってはいるが・・・。
久方振りの再会に花を咲かせながらの雑談は続く。容姿が変わっても幼少の頃からの娘達の姿は一切変わらない。
後に仕事を終えた妻達が帰宅し、13年振りの再会を果たした。よく見ると瓜二つの容姿をしている事に気が付いたのだが、それを窺っていたら色目だとヤジを飛ばされる。
この母娘には到底敵わないわな・・・。まあだからこそ心から自慢できる大切な家族なのだから・・・。
第10話・4へ続く。
警護者・探索者・苦労人・大艦長を執筆している現状、昔の風来坊の描写不足には泣けてきますTT; ただ、キャラ会話の中に込められた思いは、当時の自分が何を残したかったのかを痛感する次第で。
全ては亡き盟友達へ捧げる、と。15年の月日は長いようで、本当に短いですね。今後も頑張らねば・・・。