第8話 決着と決意と4 大騒動の決着(通常版)
「な・・・なに・・・。」
「起動しないだとっ!」
青褪めるジェリヴァとアビゲイル。核弾頭の起動スイッチを入れたのだろうが、全く動く事すらしなかった。それに俺は小さく微笑んでみせる。
「だから言っただろうに。何の手筈もなく現れたと思うか、と。身内にコンピューターに関して、凄まじいまでのスペシャリストがいてね。ハッキングなどはお手の物だとの事だよ。生憎だがその究極の武器は無力化させて貰った。」
「ならばこの場で直接爆発させるまでだっ!」
そう言うと自動小銃を核弾頭に向けて乱射しだすアビゲイル。しかしそう簡単に核弾頭が破壊される筈はなく、外装により跳弾となった弾丸が周りにいる部下達の手足などに当たる始末である。
「核融合の原理を知っているかい。核は一定の力を加えない限り核融合を起こさない。原子炉のそれと同じで、強大な力を持つだけにリミッターはしっかりと付けてあるそうだよ。そんな自動小銃では核融合を起こす威力はないわな。ロケットランチャーならば可能性はあるがね。」
「畜生っ!!!」
今度は俺に向けて自動小銃を乱射しだそうとするが、その瞬間アビゲイルの両肩に弾丸が打ち込まれる。遠方は噴水の近くからの狙撃で、それはディルヴェズLKの類稀なる命中力を誇るスナイパーライフルによるものだ。勿論急所を外しての狙撃なのだから驚きである。
「それにな・・・これが何だか分かるかい?」
そう言いながらポケットにあった携帯を取り出す。それを相手に見せた。ただの携帯だと呆れ返るが、実はそうではなかった。
「ただの携帯だが、身内のハッキングにより核弾頭の起爆装置となった。指定された番号に電話を掛けるだけで起爆スイッチが入り、お前達が望む終焉が実現できる。お望みとあらば、今直ぐにでも実現可能だが。どうするね?」
「う・・うわぁぁぁぁっ!!!」
会話の途中から十八番の殺気と闘気を織り交ぜた事により、俺の底知れぬ力に青褪めていく彼ら。そこに核弾頭の起爆装置が手元にあると告げると、手下達は慌ててその場から一目散に逃げ出して行った。だが遠巻きにいる自衛隊員達や警察官達に取り抑えられる始末である。
「本音ではお前達には心から感謝している。あのインフルエンザ企業間抗争は最悪な戦いだったが、それにより日本はおろか世界中の人々と連携も取れだしている。」
再び一服しながら語る。既にアビゲイルは両腕が使えず、ジェリヴァも戦意喪失状態だ。だが言葉での粛正は行わなければならない。
「そしてヴァルシェヴラームの不当の逮捕もそうだ。当時はお前達の思惑通り、関係のない人物に当たるまで殺伐とした。しかし1年間の拘置所生活で、俺の成すべき道が明確に見定まった。お前達がいなければ、まだ今の境地に至る事はなかっただろう。」
一服を終えて深呼吸をする。と同時に更に殺気と闘気を高めていく。それに更に青褪めていくジェリヴァとアビゲイル。
「俺達を成長させてくれて本当にありがとうな。だがお前達は間違った生き様を刻んでいった。その罪滅ぼしはして貰うよ。」
ゆっくりと2人に近付いて行き、最大の殺気と闘気を出しながら付け加えた。この時点で相手への粛正は完成してはいたが、問答無用に続けていく。
「世界中の人々を苦しめた行為、俺は一生涯許さん。日の目が拝めるようになっても、背後には十分注意しな。総意からの一念も含め、覆面の風来坊を舐めるなよ・・・。」
この言葉でジェリヴァとアビゲイルは死亡したも当然だった。ゼラエル・ベロガヅィーブ・スカーレットでさえ黙ったのだから、彼らにも同じ効果が現れていた。
粛正は呆気なく終わった。完全に意気消沈したジェリヴァとアビゲイル一味は逮捕され、アビゲイル自身の手当が終わってから連行されていった。
最後の最後で明るみに出たのが間違いだったのは明々白々だ。しかしその部分にも救われたと言える。今は素直に感謝しよう。
「・・・こんなのが人類を滅ぼすのだからな・・・、馬鹿げた話だ・・・。」
遠隔・直接操作スイッチを完全に切った核弾頭は沈黙した。所詮は人間が扱ってこそ真価を発揮するのが物たる所以だ。単体では何の意味もなさない。
「ウインドとダークH、これを丁重に解体して海外に報告してくれ。一連の事態は完全に終息したと。」
「了解です。」
「ありがとうございました。」
「後は我々にお任せ下さい。」
既に爆弾処理班を待機させていたため、ウインドとダークHの号令で核弾頭の撤去作業を行いだした。後の事はプロに任せるとしよう。
「流石はレディ・スナイパーだわ。」
「普段からの射撃訓練が役立ちましたよ。」
背中に担ぐスナイパーライフルが勇ましく見えるディルヴェズLK。身内の中でこういったスペシャリストがいる事を本当に誇りに思うわ。
「ディルLKさんは庁内でも最強の狙撃者として謳われていますよ。今までの国内大会や世界大会で優勝するぐらいの腕ですので。」
「射撃に関して誰も敵わないわな。」
「ですが・・・私の心を射抜けるのは貴方しかいません・・・。」
「ハハッ、確かにな・・・。」
頬を染めながらも語るディルヴェズLK。それに苦笑いを浮かべるリュリア。この2人も俺の大切な妻達なのだから。
核弾頭の撤去作業をしている中、色々な後始末に追われるウインド達。ここはミッションスペシャリストに全て任せよう。
俺は一服しながら葛西臨海公園内を歩き出した。終わったら連絡を入れて貰う確約をし、暫しの散歩に更け込んだ。
呆気なく終わった核弾頭騒動。明日にはメディアに現状を伝え、疎開していた関東近辺の人々も帰路に着くだろう。
お騒がせなジェリヴァ・アビゲイル一味だったが、この疎開もいざ都市部での大規模なテロ行為などがあった時の対処法とも取れる。今回の一件も無駄ではなくなりそうだ。
「全てに意味がある、か・・・。」
海辺に近い海岸で、コートを引いて寝転ぶ。海風が実に清々しい。完全な戒厳令とあって、対岸に見える羽田空港は全く稼動していない。何時もは航空機などの騒音がしているのだが、今は波打ちや木々が風になびく自然な音しか聞こえなかった。
「できる限りの事はした、か・・・。」
何だかんだで俺1人では解決できなかった。ウインド達やウエスト達の尽力があったればこそ成し得た勝利とも言える。その勝利の切っ掛けに一役買えた事にこそ意味があるのだろうな。
「こちらにいらしたのですか。」
暫く呆然としていると、ウインドとダークHが現れる。携帯による連絡があると言っていたのだが、それすらも聞こえないぐらい呆然としていたようだ。
傍らに座る2人、その2人の手にソッと手を沿える。そしてその手を優しく胸に抱いた。
「感謝するよ。お前達の尽力があったればこそ成し得た勝利だ。」
「それはありませんよ。マスターが矢面立って彼らを説得したからこそ成し得たものです。私達は後から動いたに過ぎません。」
「最後の最後でマスターに頼ってしまった部分は、私達の未熟さが露呈されたとも言えると思います。まだまだですよ。」
恐縮気味に話すウインドとダークH。胸にある2人の手を抱きながら、それぞれの手の甲に優しく口づけをした。それに顔を真っ赤にしている両者である。
「色々とありがとうな。これからもよろしく頼むよ。」
「あ・・当たり前です・・・。」
「このぐらいで・・・終わったと思わないで下さい・・・。」
優しい厚意をしただけなのに、耳まで赤くしているウインドとダークH。そんな2人が実に可愛らしい。また2人に心から感謝できる自分がいる事にも嬉しく感じてしまう。
第8話・5へ続く。
前にも挙げましたが、ハッキングで核弾頭を御する事ができるのでしょうかね@@; まあ精密機器の集合体であれば、もしかしたら可能だとは思いますが。それでも、その一撃は軽々と都市部を崩壊させるだけの威力はあるので、そんな状況とかには至って欲しくないものですけど。
しかし、数十年前の作品を手付かずのままアップさせて頂いている事から、当時の自分はよくぞまあ描いたものだと思います@@; 主人公のミスターT君も警護者や探索者とかの言動とは掛け離れていますし。ある意味で人間味溢れる感じかと。まあ警護者に所属する彼の場合は、ほぼ人格破綻者そのものですし(-∞-)
ともあれ、デカい出来事はこれで終了となります。まだ細々と後処理的な感じが続きますが、そろそろ最終段階へと進んでいくかと。拙い作品ですが、ご拝見下されれば幸いですm(_ _)m




