第8話 決着と決意と3 最終決戦(通常版)
「相手の動きはありません。」
「既に場所は把握できているのですが、下手に突入でもしたら大変な事になりますので。」
「もう相手を刺激して過剰行動に至らせるのは懲りていますから。」
本店レミセンで一服するウインドとダークH。彼女達も何時の間にやら煙草を吸うようになっていた。その彼女達が語るのは、ここで犯人がエシェラに発砲し俺が庇ったあの一件だ。
「表立って暴れ出せればしめたものなんだがね。」
「相手の一手が核弾頭ですから、迂闊な行動は一切できません。」
「不発弾処理より厄介だからなぁ・・・。」
「でも半世紀前や1世紀前の爆弾処理の方が遥かに大変ですよ。何時爆発してもおかしくないのですから。むしろ今時の爆弾の方が処理は楽ですので。」
扱う人によって善にもなり悪にもなる。特に強大な力を持つ核であれば、尚更の事だろう。ジェリヴァ・アビゲイル達の一念次第という事になるわな。
「それと数日前ですが、連中が自衛隊の特殊車両を強奪しました。」
「またよくも許したわな・・・。」
「向こうの一手が脅威ですから。今は素直に従うしかありません。恐らくは・・・核を持ち動かすための手段だと思います。」
好例のサンドイッチセットを頬張りながら語るウインドとダークH。家族は全員出払っており、今の本店レミセンの担当は俺1人である。
「・・・何となく読めるわ。恐らく特殊車両に核を置いて、街中を練り歩くんじゃないかね・・・。」
「マスターも同じお考えでしたか。」
「過激なパフォーマンスが好きな狂戦者だからな、十分可能性はあるわな。」
「でもその時こそが勝負の瞬間でしょう。核弾頭そのものを無力化できれば、後は包囲して捕縛するだけですから。」
上手くいくものかね。連中がそう容易く隙を見せるとは到底思えない。それに核弾頭は精密機器の集合体だ、そう簡単に操れるものでは・・・。まてよ・・・精密機器・・・。
「核弾頭も精密機器の集合体だよな・・・、もしかしたら・・・あるいは・・・。」
おかわりの紅茶を入れ直しながら、俺は脳裏にある事が浮かびだした。それを感じ取る2人。差し出した紅茶を手渡した後、俺もこちらの裏の一手を述べだした。
ウインドとダークHの読みは当たった。翌日、核弾頭を乗せた特殊車両が公道を走っているというのだ。しかもそこはデートスポットで有名な葛西臨海公園だから驚きだ。
しかしチャンスでもある。仮に秋葉原などの市街地であれば、いくら人がいなくとも大惨事は免れない。この海辺に近い場所であれば、最悪の状況に至っても何とかなる可能性もある。
核さえ無力化できれば、彼らの命運は尽きたとも言える。その無力化の部分では、昨日2人に語った一手が役立ちそうである。
決戦の時はきたようだ。俺も現地に赴いてジェリヴァとアビゲイルの顔を拝むとしよう。
今いる場所はメルデュラやディルヴェズLKと一緒に訪れた、京王線は葛西臨海公園駅の噴水前である。エシェラともここで一時を過ごした記憶が懐かしい。
その少し先にある駐車場に、自衛隊が所有する特殊車両が停車している。後方の荷台には核弾頭が乗せてあるのが目視できた。
人数からして全員だろう。どの様な意図があってこの地を選んだかは不明だが、もはや袋の鼠に近い。
だがその鼠も最凶の武器を持っているのだから性質が悪い。手負いの獣ほど恐ろしいものはないという事が、この現状を見れば十分頷けた。窮鼠猫を噛むとはこの事だ。
「動きはありませんね・・・。」
「長期戦を選んでくるでしょう。もはや逃げ道はないでしょうし。あるとすれば最後の一手である核弾頭を取り引きの材料にする筈です。」
「・・・これがあのインフルエンザ企業間抗争を起こした連中なのかね・・・。」
目視できる特殊車両には、ジェリヴァとアビゲイルとされる厳つい顔の人物がいる。その周りに数十人の部下らしき人物がいるが、他に仲間がいるとは思えない。
「少数精鋭とはこの事か。それとも何人かリストラ対象にしたのかね。」
「でしたら大規模な行動に出る筈でしょう。それこそ前回の企業間抗争以上の戦いを引き起こしていたでしょうから。」
「となると・・・コンピューターに関する猛者がいるな。株取引でもコンピューター1台があれば億万長者になれるとも言われているからね。」
「ですが既に手練れ程の技術者はいないと思われます。持っていたら更に厄介になっているでしょうから。弱体化もいい所ですよ。」
「マスターが仰っていた、裏の一手が役立ちそうですね。」
ダークHの言葉に小さく微笑むと、俺は一服しながら特殊車両の方へと向かって行く。それに慌てる周りの自衛隊員達だが、ウインドが静止させていた。
最後は俺単独の戦いとなるか。ヴァルシェヴラームを不当にも逮捕したのも、俺への精神的な揺さ振りに他ならない。
ならば、売られた喧嘩は買わねば野郎ではない。この精神はアマギH達も今も心に置いているものだ。彼らの一念と共に戦うとしよう。
「止まれ!」
特殊車両に近付いて行くと、手下全員が自動小銃を俺に向けてきた。しかしその言動から覇気は感じられず、怖ず怖ずとした雰囲気が色濃く出ている。
「お前がジェリヴァとアビゲイルか。実際に面と向かって対面するのは初めてだな。」
「・・・そうか、貴様か。ゼラエルやベロガヅィーブを殺したというのは。」
「勘違いするな、今も彼らは服役中だ。以前よりも素直になっているがね。」
小柄で若干太っている人物がジェリヴァ、その隣に大柄の人物がアビゲイルのようだ。顔を見れば明らかに悪役としか言い様がない表情である。
「貴様には散々な目に遭わされ続けられた。今度は俺達が主導権を握る番だ。」
「にしては規模が小さくないか。俺だったらそこにある絶対悪の象徴を数百発入手し、日本と共に全世界に憎悪を向けるがね。」
俺の言葉に言い返せない彼ら。資産的にも核弾頭1基だけしか入手できなかったのだろうが、動こうと思えば複数発入手が可能だった筈である。
「正直な所、もっと厳しい状況になると思っていた。更に潜伏を繰り返し、日本を恐怖のどん底に陥れてくるだろうと。だがお前達は明るみに出た。これは間違いだったと思うがね。」
「貴様、置かれている立場を理解していないようだな。こちらには究極の力があるのだ。要らぬ挑発をしない方が身の為だぞ。」
「俺の命など何時でもくれてやる。しかしその瞬間、お前達も終わる事を忘れるなよ。それに・・・何の手筈もなく現れたと思うかい?」
俺はウインド達に見えるように再び一服をしだした。それはとある合図としており、それを窺った彼女達は行動に出始めた。
「そんなにご自慢の究極の武器が誇れるのなら、今直ぐに使うがいい。そうすれば晴れて自分自身らの正義が示されるだろう。だがな・・・歴史には核を使った大悪党と永遠に消える事のないレッテルを貼られるがね。」
「・・・そんなにお望みとあらば、究極の力を使うとしよう。貴様の挑発が招いた現実だと追記してな!」
遠距離から一部始終を聞いている自衛隊員達は一気に殺気立つが、それすらもウインド達は押し留めていた。動く事をしなかったため、それを更なる挑発と取ったジェリヴァは核弾頭を起動しだした。が・・・。
一瞬空気が張り詰めたが、ウンともスンとも言わない核弾頭。本当に沈黙した空気というものを初めて体感した。と同時に裏の一手が確実に効いたという現れである。
第8話・4へ続く。
1ヶ月振りですm(_ _)m いよいよ風来坊の最終バトル・・・とは言うものの、殆ど暴れずに終わりそうですが@@; と言うか、ウンともスンとも言わない核弾頭って可能なんですかね・・・。まあ劇中の流れはフィクションなので><; ともあれ、漸く終わりが見えてきた感じです。
ちなみに、今回と次の話は“キャラ名版”側での閲覧を推奨します。キャラ会話が大多数を占めていましたので@@; これで詳細描写があれば、恐らく今回の話の3倍か4倍まで膨れ上がったと思いますが@@; まあこちらはキャラ会話中心の作品となるので、ご了承下さいm(_ _)m